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龍神様は引っ張り出されたくありません  作者: 夜野 天
第一章
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4

 人間の身には余る強大な力。


 身体の時を止めてしまうほどの莫大な力は、龍神としては必要であったとしても、人間として生を受け、しかも未だ心身共に未発達な幼い千世子にはどうにも必要の無いものであった。


 なので、先代龍神が一つの提案をした。

 両者の約束の下、千世子の中に眠ることとなった龍神の力、そのほとんどを彼の力で封印してはどうかと。


 ちなみに、()は死していても力があり、知識深い龍だ。

 彼は千世子の身体(媒介)を通ることによって、式神という形をとり、実体を現すことが出来た。


 性別としては男性の身体を好み、とくに年齢を重ねた……所謂『お爺さん』の外見を形作ることが多かった。


 彼の長いお髭がサラサラで、千世子の大のお気に入りだっだことは完璧な余談だ。


 だが、封印を施してもらったとしても、千世子は一族を守護する守り龍。


 廉条のために全ての力を封印することは成さず、ある程度の力を残すこととなったのは当然だった。


 それでも人間として成長し、その感情の機微を学べるようにと、千世子のことを思ってくれた『じぃじ』のおかげで千世子は今、ここにいる。


 何百年、何千年とある生だ。その中のほんの百年ほどを人間として生きても大差は無い、と。好々爺然と笑ったじぃじを思い出す。


 千世子は、大半を封印しても尚、溢れる力を薄れさせるためにじぃじが掛けた術……どんなに強力な力であってもその力ごと存在を薄くさせる効力……に感謝した。


 そのおかげで人間社会に紛れることが出来ているのだ。


 術の効力のせいで、千世子の周りに人がいなくなってしまっても千世子に不満は無い。


 それよりも、身に余る力を使えば使うほど、じぃじの掛けてくれた術が綻んでいってしまうことのほうが千世子には何よりの悩みだった。


 いくら千世子が神であったとしても、やっと六年過ぎただけ。

 じぃじに教えてもらいながら神様修行をしたものの、そのじぃじも一年前に消えてしまった。


 まだ千世子が力の大半を使いこなせないままで。


 ……つまり、千世子は自分に掛けられたじぃじの術が解けてしまったら、自分で掛け直すことが出来ないということなのだ。


 ふとした拍子に力が暴発してしまったら……、問答無用で神域にでも閉じこもるしか無いだろう。


 そんなこと、神ではあるが十六歳の女の子でもある千世子としては、絶対に避けたい事態であった。


 だから、千世子の術が解けることはもちろん、千世子が『水龍』という名の神である、ということも絶対にバレてはないらないのだ。


 一、お年頃の女の子として。


 何よりも、彼女を『人間』として気使い配慮して消えていった『人間好き』な千世子のじぃじのためにも。



◆◆◆



 とか、何とか感傷に浸って空とか見上げちゃったりしてみても、お務めは待ってくれなかったりするのです。これがまた。はっはー。


 てすてすと廊下を歩きながら、千世子は深い溜息を飲み込んだ。


 無闇矢鱈(むやみやたら)と幸せを逃がしてやるつもりは彼女には無い。


 廉条家の守り龍として、……否、廉条に限らず四家の龍達には昔から連綿と続いている一つの役目があった。


 曰く、守護家の跡取りが『一人前』になるまで守ること、である。


 『一人前』……、自分の身が危なげなく守れるようになるまで、彼、彼女達の命が危険に晒されることの無いように、龍がその命を守り、その龍達の力が落ちないように四家が龍を敬い(たてまつ)る。


 実の所、幼い千世子が横取りをしたあの儀式こそ嫡子の守りを(たまわ)るための儀式であったのだが……、だからこそ、千世子は自分が未熟な分、未熟なりに滝津を守れるように動いているのだ。


 実は先程の彼女の日課、滝津様観察もその一環だったりする。


 千世子は他の三家の龍達が使える『千里眼』が使えない。

 否、教えてもらえば使えるのだろうが、使えるようになってしまえばまた、じぃじの術が綻んでしまうので、使わないのだ。


 だから、千世子はせっせと自分の足を使い、滝津様の時間割を調べ上げ、千世子の手の届かない所では、使役している神使や式神を使い、常に滝津を見張って(みまもって)いる。


 筋金入りのストーカーとか、言・わ・な・い・の☆

 終いには、龍神の力で頬にビンタを炸裂させちゃうんだからな! 畜生!!(←気にしている)


 弱冠、虚しい気持ちになりながらも、千世子の足は着々といつもの巡回ルートを辿る。


 懐から取り出したカロリー○イトを口に含みながら、千世子は歩くスピードを落とす事無く、目の前に迫ってきた御令嬢の肩口から身体をぶつけた。


「……すいません」


「いえ」


 ぶつかった瞬間に手を伸ばし、軽く彼女の素手に触れ、素早く離れる。

 そして、何事も無かったかのようにお互いにすれ違い、再び歩き始めた。


 これと同じことを数回繰り返した千世子は、辿り着いた裏庭の隅に腰を落ち着け、買ってきた牛乳パックにストローを突き刺す。


 三日しか経ってないのに、もう四人も出て来ている。


 教室から裏庭へ来るまでに、千世子の”存在感の無さ“を利用しながら彼女、彼等の中に溜まった悪感情を洗い流して来たが……。


 “特別クラス”へと向けられるさまざまな感情の渦に時々当てられてしまう。


 彼等“特別クラス”と言う名の光は強すぎるのだ。


 “才色兼備”、“眉目秀麗”、“文武両道”。彼等を表せる熟語は後を断たない。

 けれども、光が強ければ同時に闇も作り出してしまうというのが世の道理。


 強すぎる憧れは、狂信に変わり。

 募る恋慕は嫉妬を呼ぶ。


 特に“特別クラス”の中で唯一の女性である滝津へ向けられる“普通クラス”の感情は……、特に女性の感情はとても一筋縄ではいかない。


 今回浄化した四人の内三人など、滝津への不満を慢性的に抱えている御令嬢達だったりするほどだ。


 だからこそ定期的に綺麗(・・)にはしているが、追々は滝津自身がどうにかする術を身につけてもらわなねば、いつか背中からグサリとされかねない勢いだろう。


 まぁ、この“特別クラス”という名の文字通り『特別』枠から卒業してしまえば、ここまでの悪感情も押さえれるのかもしれないが。


「……、あくまでも“かもしれない”ってところがね。問題だよ。……本当に」


 五時間目、六時間目と滝津につけている見張りからの報告を聞いた後、放課後には一応、校舎の見回りも予定に入れておこう、と千世子は頭の中でスケジュールを付け足した。




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