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…とっても、久しぶりの更新です。
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はい。やって来ましたよ。週末の土曜日。
千世子を家まで迎えに来た卯木の車の助手席に座りながら、急展開にちょっとついていけない、雨宮千世子です☆
ええ☆ やだぁ☆ 困っちゃう☆☆
なぁんて、甘い雰囲気を期待したそこの君。槌永先生に指定された私の持ち物が、わかるかい? もちろん、教科書一式だよ(泣)。
私の成績のダメっぷりを見事に当ててのけたにぃには言いました。
『俺が勉強みてやるよ』
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「ふぁ?」
「……もう一回言うか?」
「や。でも、にぃに先生じゃん。テスト作る側じゃん。ダメでしょ?」
生徒の一人を特別扱いとか、駄目でしょ。
「別に、問題は無いと思うがな……。俺が作るテストは、特別教室棟の生徒達のものだけだから、千世子達んとこと出る問題違うし。
何だったら、追試になりそうな生徒の補講してやるだけだしな」
「いやぁー、でも」
ただでさえ、これから鳴のスパルタが始まる予定なのに、にぃにからも手痛い鞭が飛んでくるとか、正直、ごめんこうむりたい。
「教室借りてやってもいいが、そうすると他の生徒もやんなくちゃいかんだろ?」
おい。教師。
めんどくせぇが顔に出てるぞ。
「まさか、普段、接点の無いと思われてるお前のためだけに授業やるわけにもいかないし。千世子が家に来るのが、一番手っ取り早いだろ。
まぁ、バレてもなんか言われるとは思わんけどな」
「……、その心は?」
「カネとケンリョ……「大人って、ほんっと汚いっっ!!」
~~~
『ただ今、テスト作成中のため、特別教室棟の生徒はノックをすること』
そんな張り紙がされている卯木の社会科準備室に、今まさにノックをしようとしている人影が一つ。
長く艶やかな黒髪を、後ろ頭の高い所で一本に括り、滝のように背中に流している。
余分なラインのない輪郭の中、山なりに弧を描く眉の下には、長くたっぷりとした睫毛に縁どられた極上の黒曜石が二つ、強い意志に裏打ちされ、凛と輝いている。
けれども、そんな最上の美少女、廉条滝津の瞳は困惑で揺れていた。
ノックしようとして、しかし行動に移せなかったのは、不意に聞こえた卯木の声のせいだった。
『なぁ、チヨ。お前、中間、どうなんだ?』
“なぁ、チヨ”。
チヨ。
おそらく、女性の名前。
幼いころから知っている卯木。もちろん彼の友好関係の全てを把握しているわけではないけれど……。卯木が、ここまで優しく呼びかけるほど親しい女性を滝津は知らない。
ましてや、ここは“特別教室棟”の卯木の私室のような立ち位置の部屋だ。まさか、卯木がわざわざこんな所に外部の人間を呼び寄せるだろうか。
ざわざわと落ち着かなくなる胸の内を肯定するように、滝津の耳は正解を拾う。
『……しゅ……は、……ないよ?……』
はっきりと響いた卯木とは違い、自信なさげに発せられた声は、部分部分聞き取れなかったものの、滝津にはハッキリとわかった。
この声が滝津と同じくらいの少女のものであることを。
動揺に震え出したのは、ノックのために持ち上げ、未だ下ろすことを忘れていた右手だった。
思わず、左手で庇う様に抑え、無理矢理に下ろす。
何故……、何故、ここに、この選ばれた生徒しか入れない特別教室棟に一般生徒がおり。さらに、卯木の準備室に入っているのか。
その上、何故卯木は、滝津と同じような年頃の少女の名前を親し気に呼んでいたのか。
卯木の友好範囲なんて全部は知らない。当たり前だ。卯木だって滝津の知人関係なんて全て知りようが無いのだから。でも、滝津と同年代の女の子の話は別だ。
卯木にこんなに親しく呼ばれる同年代なんて知らないし、今まで確実に居なかったのに。
……だって、卯木は滝津の婚約者候補なのにっ……。
右手の震えはすでに体全体にまで及んでいた。
寒くもないのに、小刻みに震える指先が、どうにもならない。
もう、入室する気力を根こそぎ奪われているのに、足はその場から動いてくれなかった。
ただ、何故とどうしてが、頭の中を無防備に飛び回る。
だんだんと下がっていた視線を頭を、瞬間弾かれたように持ち上げた。
聞こえたのだ。
それは卯木が、少女に掛けた言葉。
「……、今週、……土曜……」
体の震えを止めようと拳を握った。
~~~
おっと。
鳴は一瞬考え、諦めた。
滝津がまさか卯木の準備室へ来る気だったとは。
今、卯木の準備室には千世子がいる。けれど、ただ滝津のことを見張っているだけの鳴は、滝津の行動を先回り出来る訳では無い。
卯木の準備室と、特別教室棟、一般教室棟を繋ぐ扉が近いため、本当に付近に来なければ予測が出来ないのだ。
まさか人一倍真面目な滝津が、テスト準備期間中に卯木の準備室に来るとは思わなかったため、千世子への報告が出来なかったのだが……。
もうすでに扉の前まで来ているのに、今更中にいる千世子に声を掛けた所でそんなに違いは無いだろう。
千世子様には、自分で頑張ってもらう、ということで。
心の中で合掌しかけた鳴だが、扉の前まで来たというのに、なかなか部屋に入ろうとしない滝津に首を傾げた。
……おや?
先代水龍様から今の千世子に世代交代した時から始まった滝津の見張り。
未だ、長くは無いが短くも無い年数、鳴も滝津を見て来た訳だが。
……これは、これは……。
鳴の人外の視力に移る滝津の身体の震え。
無意識であろう、噛み締められた唇。
順風満帆に生きて来た廉条滝津が初めて見せた表情に、鳴は両目を見開き、薄っすらと唇の端を持ち上げた。
年若い見た目とは相反し、老成した鳴にはわかった。
きっとまだ、滝津自身も気付いていないであろう、彼女の表情の意味が。
自らの主にも関係のあることながら、鳴は事の成り行きを静観することに決めた。
主、本人に頼られれば吝かではないが、主とて未だ人の身。
これから何十年と生きる事の一つの糧となるだろう。
これも、先代様が幼き千世子様に望んだこと。
「そうですよね。……蒼碧様……」
一本の黒髪をなびかせ、扉の前から踵を返した少女を目の端で捉えながら、水神の使いは微かに笑った。




