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まるで人気ダンスグループの決めポーズのように三人で連携した動きを見せた自らの従者を労うように首肯した後、遠い目をしている卯木を見上げた。
まだ、変な感じがするのは、再会して数時間しか経っていないからだろうと予測はつくものの。
「まさか、にぃにが家に来るとはねぇ」
昨日までは、まったく考えられないことだったのに、現在、卯木は千世子の隣にいて、三人の会心のポーズを眺めている。
と言うか、あの三人は一体いつの間に練習していたのだろう。なんだかとっても完成度が高いのだけど。
「俺も、まさかこんな事態になるとは思ってなかったがな……」
まぁ、気持ちはわからなくも無いが、千世子の住処に連れて行けと言われたので、連れて来たのだが。
「廉条の本社に住み着いてるとは思わなかった」
俺、最近よく来てたんだけど……。
卯木が必死こいて探している目と鼻の先で、目的の人物が気楽に日々を送っていたことを改めて実感している。
そう、二人がやって来たのは、先日卯木が千世子(人様の家の郵便受けを漁っていた不審人物)を見失った裏の階段を登った先。廉条の本宅があり、その本宅の敷地に隠されるように奥にある廉条の守護者、水神を奉った本社、まさにそこである。
厳密にそこに千世子が住んでいると言い切るには若干の疑問は生じるが、出入り口の一つはまさにそこにあった。
あの千世子が登って行った階段は、その本社の裏側まで続いており、そこに出入り口が付いていたのだ。
体力がない、と言い切ったドヤ顔の千世子の後ろをえっちらおっちら、のったらのったら登って行った先にあった小さな扉。
鍵も無いその引き戸を開け、本堂の裏手が見えた。滝津達、廉条の人々が戴く水瓶が置かれている祭壇の後ろに、また小さな扉。今度は取っ手のある外開きの扉だ。
何の躊躇いも無く千世子が開けたその先には……何と、普通のマンションの玄関口がありました。
千世子がただいまーと入って行き、ごめんばれたー、ナキもいるー? と声を掛けながら入って行き、三人の従者との対面と相成ったわけである。
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三人の決めポーズを充分に堪能し、リビングのソファに通された後、やっと自己紹介という流れになった卯木は安心した。
見るからに格上の神の従者達だ。あまりにもツッコミ所が多くともどうすることも出来なかったので、千世子が三人に声を掛けてくれ、本当に助かった。
「では」
全員……、約一名字浅葱色の髪の女性だけは、お茶を淹れるためにキッチンに行っているが、カウンターキッチンになっているので、話は聞こえる……、全員揃った所で、場の代表として龍神 千世子が、まるで名探偵のようにゆっくりと第一声を発した。
「皆はもう知ってるけど、こちら、槌永卯木先生です。いつの間にやら記憶の蓋が取れていたようで、今日発見されました。
もう、完全に思い出しているようなので、“白妙”を掛けても無駄だと判断し、本人の希望もあって我が家へとご招待しました。今後、私の『滝津お嬢様をお守り隊! でも私の平穏も欲しい!』作戦に参加してもらう予定なので、どうぞよろしく。後、皆、いぢめないように」
「は? “しろたえ”って……? というかその作戦名……」
「そうですか。先代様の“白妙”が破られていたとは思いませんでしたが……。私はてっきり、千世子様が私の案『槌永先生がしつこくて大変だからいっそ仲間になるように脅迫しよう!』作戦を単独決行して、今日ここまで連れて来たのかと思ってしまいました」
ははは。と軽やかに卯木の前の席に座っている空髪青眼の和服姿の少年は笑う。
いくつか聞き捨てならない言葉を残して。
これは今確認してもいいのだろうか。それとも後でたっぷりと千世子を締め上げるべきか。
ちょっと真剣に悩み始めた所で、目の前の少年は卯木ににっこりと笑いかけ、右手を差し出した。
「ご挨拶が遅れました。私は“鳴”。先代水龍様にお仕えし、今は今代水龍様にお仕えしている神使です。
一応、祖体は白蛇なんですけどね。先代様への訴えなんかを仲介しすぎてしまいましてねぇ。先代様にこんなお名前をただいてしまって、まぁ。蛇はどこへいいったなんて思いますが、定着してしまったので、こればっかりは致し方ないと言いますか……。
まぁまぁ、卯木君とは長い……永いお付き合いになりそうですし、どうぞよろしく」
「あ……ああ。はい。……こちらこそ」
これは笑っていい所なのか? と思いつつ、鳴と握手を交わす。
「はい! 次は私が。私は“水鳥”。千世子様に拾われ、先代様のお力添えで、千世子様にお仕え出来るようになった白鳥の化身。
あなたの授業にも何回か出たことがある。多分、これからも生徒として顔を合わせることはあるかと思うから、フォローよろ」
「……、……あ、……ああ」
腰まである黒髪の、白いワンピースを着た少女の手を握りながら、千世子を見やるとあからさまに顔を背けていた。
決定。後で締め上げる。
「はい。どーぞ。粗茶ですが」
ちょうど良くキッチンから戻って来た浅葱色の髪の女が、それぞれの前にお茶を置いていき、卯木へと向き直った。
「こうして面と向かっては初めまして。私は河子。三人の中では一番の新入りです。生き倒れていた所を千世子様に助けてもらい、お力を頂いて以来仕えさせていただいています。
本性は河童です。千世子様の身代わりとして“水神”役で前面に出てますんで、そういう所で会うかもですんで、よろしく」
「ということは、滝津は……」
「ええ。滝津お嬢様は、私を神として認識してます」
「……なるほど」
差し出された手を放しながら、気になっていた部分を拾うと、思った通りの答えが返ってくる。
今までの話の中で、千世子の事情は聞いた。
“水神”なんて途方もない存在になる前の、僅かな時間、人間としての生を過ごしたい。
『過ごして欲しい』と願ったという、先代水龍の思いに、卯木は深く感謝している。
もし、千世子が儀式を“横取り”してしまったその時に、“横取り”したとわかっていても、やらずにいられなかったほどの願いが……両親を生き返らせて欲しい、という途方もない願い事が、叶わないのだと知ってしまった時に。
願いが叶わないと知りながらも、自らの身の内に神を宿す判断をした時に。千世子は知らず、現世を捨てたのだ。
話を聞く限りでは、彼女の二親が亡くなり、一年以内の話のようだから、幼い千世子にはそんな自覚は無かったはずだ。
在ったのは、ただただ、大好きな父と母に戻って来て欲しい、という酷く純粋な思いのみ。
まさか、その思いの果てに、結果、彼女の現世の生が消えることとなるとは。
それを、慮ってくれたのだろう、先代龍神には頭が下がるばかりだ。
彼女の人間としての生を残してくれて。
彼女の思い出をそのままに、肉体を残してくれて。
ほんの僅かな確率であったとしても、切っ掛けが無ければ、卯木には彼女を思い出すことなど出来なかっただろう。
小さな彼女が思い詰めた時に、何も出来ず、みすみす千世子の記憶を無くしていた自分が、今こうして彼女の近くにあれるとは。
幼い頃から変わらない、流れるような黒髪を確かめるように撫でる。
確かにここにあることを。
「お、おお?」
卯木の突然の行動に、不思議な呻き声が伴ったのは、まぁ、千世子だから仕様が無い。
そう思う自分の思考に、少し笑えた。
本当に。
「感謝、しないといけないな」
神の奇跡に。
小さく零した卯木の言葉に心底、意味が分かっていない千世子を差し置き、内容を察した神使、眷属達は、口元を綻ばせた。
やっと思い出せた大切な女の子の頭から手を放した卯木は、改めて背筋を伸ばし、頭を下げた。
「これから、よろしく」
◇◇◇
伸ばして伸ばして、それでも何にも触れることの無かった手。
小さな頃から伸ばし続けて、最近では自分でも手を伸ばしていたことすら忘れていたのに。
自分でも忘れてしまっていた私の指先を、あなたが掴んで、思い出した。
心に思い描いていた、あなたに、触れて欲しかったのだと。
◇◇◆
涙よ、止まれ。なんて、無理な話。だろ?




