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龍神様は引っ張り出されたくありません  作者: 夜野 天
第一章
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 そして、そんな廉条滝津様の御学友として、同じ特別校舎でカリキュラムをとっている人物達も、一言で言ったら、凄い。


 まず、二学年上にあたる三年生の先輩であり、この学園の高等科生徒会長も務めておられる宝円家跡取り、王子様然とした優し気な風貌、サラサラの赤銅の髪、輝くオレンジの瞳の宝円照明ほうえん てるあき様。

 その弟君にあたる滝津様よりも一年、年下の中学三年生、同じく赤銅の髪に兄よりも黄色味の強いオレンジの瞳、中等部生徒会長。生粋のやんちゃ系のにゃんこ男子。宝円紅火ほうえん こうひ君。


 彼等の幼馴染にあたるのは、高等部二年生。生徒会副会長の翠仙寺爽太(すいせんじ そうた)様。白髪プラスいつでも眠た気なとろり目。ショタな外見で、いつまで経っても守ってあげたい男子No.1の存在。

 また、爽太様の御学友、もといお目付け役の翠仙寺彼方(すいせんじ かなた)様……(同じ苗字でも分家のようだ)もまた、高身長のすらりとした秀才眼鏡だったりする。


 廉条家からも滝津様の御学友と言う名のお目付け役兼、お世話係として廉条由紀(れんじょう ゆき)様、こちらも分家……が、おり、スポーツ万能の爽やか青年で、滝津様と同学年の人気生徒だ。


 滝津様と同学年では、さらに槌永本家の嫡男がおり、彼は高校一年生にも関わらず、がっしりとした高身長で、酷く硬派な雰囲気を纏った、無口無表情を地で行く男で、槌永遥(つちなが はるか)様という。女の子の様な名前を完全に裏切っている。


 最後に、この特別クラスのまとめ役。皆のお兄ちゃん的な存在が、彼、槌永家の中でも力のある人物。

 槌永卯木(つちなが うつぎ)先生。紅茶色のツヤツヤな短髪に、琥珀色の切れ長の瞳。がっしりとした体格の多い槌永家だが、例にも漏れず高身長の二十八歳。

 特別クラスの担当教師様だ。ついでに、大人の色気も担当。


 容姿端麗。才色兼備を体現している特別クラスの方々。


 これだけでも、ドコのアイドル事務所の方々ですか? と言いたくなるが、さらに驚くことに彼等全員、滝津様の婚約者候補だったりするのである。


 オイ。マテコラ。一体何て乙女ゲー?


 族長会議を覗き見しながら、思わずツッコンでしまったのは、今思い出しても当然の反応だったと自負している。

 けれども、決まったものは仕方が無い。

 もともと、この四家は仲が良く、四家間で婚姻を結ぶことは良く行われていた。


 むしろ、推奨すらされている。


 四家、というよりも、四柱の四神。それぞれの守護龍達の仲が良好なため、家々の間でも自然な成り行きで、人のやり取りがされていたのである。


 ここで、心配になるのが家の属性のことだろう。


 水の家の人が火の家にお嫁に行って、生まれる子供はどうなるのか。


 そう。至極当然な疑問だ。もし火と水が反発してしまったら?

 子供の体内で問題が生じるのではないか? 人の親としては気になってしかるべき問題だろう。


 だが、しかし問題無『モーマンタイ』なのだ。


 一族の属性は生まれ落ちた家に由来してくる。

 なので、持ち得る属性は、必然的に一つに限られているのだ。


 さらに言うなら、本家、つまり龍神を祀る中央に近ければ近いほどに力が強く現れる。


 本家に近いところの嫁を貰えば、当然その家の力も強くなり、強い子供が生まれ、さらには家々の結びつきも強くなるという良い所づくしなのだ。

 

 だから今代、本家、又はそれに次ぐ嫡男達と廉条家直系でありながら、唯一の女である滝津様が、婚約関係の対象となってしまうのも、四家事情とすれば当然と言えるのであった。


 さらにおまけで付け加えると、力が強くなればなるほどに、力を持つ人間の美形度が上がる。


 持っている力が、身体に作用されるようで、このような結果が出て来るのだ。


 結論から言うと、四家の中央に属し、それなりの美しい容姿を持っている彼等は同時に、『それなり』の力も持っているという証明になっている。


「……っと、」


 タイムリミットだ。


 千世子は両手に作っていた水の膜を、素早くペットボトルに戻し、だが決して急ぐ事無くその場を後にした。


 本日も、滝津様は良好であった。



◆◇◇



 ……。『また』だ。


 槌永卯木は、琥珀に輝く切れ長の瞳を胡乱気に細め、特別校舎の壁の向こう、普通科校舎の屋上を鋭く見詰めていた。


 時々感じる水の気配。


 酷く薄く小さいその気配は、気を抜くとすぐに周囲に埋没してしまい、卯木も気付けたことに驚いていた。


 見つけた時はあまりの希薄さに、廉条の分家の誰かが来ているのだろうとしか思っていなかったが、こうも度々感じてしまうと、話は別だ。


 廉条の分家の年の近い人間の気配は把握しているし、第一に入って来ているのなら廉条筆頭である滝津に話が来ない訳が無い。


 だが、滝津にそれと無く聞いてみると、自分と由紀以外、今この学園に在籍している一族はいないはずだと言われ、実際確認も取っている。


 それに、いつも気配を感じるのが『普通科校舎』というのも妙なのだ。


 希薄と言っても、よくよく純度の高いソレ。


 長いこと傍にいるからわかる。もしかしたら滝津よりも水の性質として、極めて純度が高く、泰然としてただそこにある気配は、酷く大きなものとして感じるのだ。


 感知に長けている槌永。翠仙寺だが。

 きっとこれは経験の差だろう。


 卯木以外は気付いていない所を見ると、相手の力量が知れるようで、酷くゾッとしない。


 何故、そんな気配の持ち主が『普通校舎』にいるのか。


 少しでも四家に関わることなら、知っておかなければならない。


 けれども、そう思った卯木が意識を向けようとする毎に、相手は忽然と気配を消失させてしまう。


 今もそうだ。


 卯木が気付いたことを察したのか、彼が目を向ける前に気配はその存在を絶った。


 一体、何者……?


 手掛かりも、何も無い状態で手の打ち用も無いが、今の所相手が何かしてくる様子も無いので、卯木もまだ安心してはいるが。

 この状況が長く続くのも好ましくは無いだろう。


 何とか、奴の正体を暴けないだろうか。


 無意識の内に、遠い普通校舎を視界に収めながら、卯木は思考を巡らせ始める。


 しかし、卯木の埓の無い思考はまとまること無く第三者の声でかき消されることとなった。


「卯木さん、聞いてます?」


 普通校舎を見詰めながら、どうやら自分は呆けていたらしい。


 横合いから掛けられた可憐と表現しても過言では無い声にそちらへ向くと、黒髪黒目の美しい少女が卯木の顔を覗き込みながら、頬を膨らませていた。


「ん? ……おお、悪い。って、滝津。『卯木さん』じゃなくて『先生』だろ?」


考え事に気を取られていたので、うっかり返事をしてしまったがここは学校だ。一応けじめは必要だろう。

 そう思い言ったのだが、滝津には面白そうな顔をされるだけだった。


「ふふ。いいじゃない。家にいるのも同然なんだから。『卯木さん』」


「だから……、たく」


「まぁ、いいじゃない。つぎ(にい)。どうせ、滝津(我らが御姫様)には適わないよ」


 生徒会長にすら身内の呼ばれ方をされ、卯木は恨めし気に照明を睨め付けた。


(てる)


「大体、卯木兄さんだって公私混同の呼び方してるじゃん。普通校舎じゃないんだから問題無いよ。特別棟こっちには僕等しかいないんだから」


 話を聞いていた照明の弟、紅火にまでそんなことを言い出し、さらにその後ろで彼等の親戚達も小さく頷いているのを見て、とうとう卯木は肩を落とした。



微妙なところですが、ここで切ります!

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