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龍神様は引っ張り出されたくありません  作者: 夜野 天
第二章
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7 閑話~~~ある女学生の遭遇~~~



◆◇◇


 私は、日暮灯処。少し変わった名前だという自覚はあるものの、どこにでもいる平凡な女学生だ。


 けれどもそんな私に、つい最近不思議な友達が出来た。


 雨宮千世子という名のその少女は、本人曰く、水を司る水龍という水神なのだと言う。


 初めは酷く突拍子もないことを言うとは思ったものの、出会いが出会いだ。そういうこともあるのだろうと、最近感覚がぶっ壊れ気味の私は、非常に簡単に納得してしまった。


 その時の私は思ったのだ。別に千世子が『神様』であろうとも、灯処自身の在り方には何の影響も無い。友人になるにあたって、何の支障があろうか、と。


 だが、断言しよう。あの時の私は、考えが……、考えと覚悟が足らなかったと。


 否、別に彼女と友人になったことを後悔しているのでは無い。もし、あの時“彼女と友人になる”、その意味を考えるに至っていたとしても、当時も、今であっても自分は彼女との友人関係を築くことを選択していただろう。


 では、何を後悔しているのかと言うと、先にも述べたが、あくまでも己の考えの足らなさと、覚悟の足らなさ、この二点に尽きる。


 もし、もしも考えが至り、覚悟さえ出来ていれば、今こうして自室で頭を抱える時も、寛大な心で受け入れられたのかもしれないのに…………。


 追い詰められた灯処は、とうとう机の上にペンを置き、必死に動かさんとしていた顔を横に向けた。


「…………」


「あ! ご友人様ーー。精が出ますねぇ。お疲れでしょう? お水いります?」


 つぶらな瞳で、可愛らしく声をかけてくるそれは、灯処がやっと自分を見たことが嬉しいようで、小さな体をせかせかと動かしながらアピールしてくる。


「…………」


 灯処は、もう一度正面へと顔を戻し、一回目頭を揉みこむと、再びその存在に視線を向けた。


「どうなさいました? ご友人様。お水いります?」


 コツメカワウソだ。


 空色の着物を羽織ったコツメカワウソが、一目で笑顔とわかるくらいに口元を緩ませてこちらを見ている。


 数日前のことだった。スマホを持っていないという千世子に付き合って寄り道をした日のことだ。

 何を思ったのか、彼女は突然且つ、唐突に灯処に『おまじない』を掛けたのだ。


 まぁ、その『おまじない』も、後に続いた『お守り』も、理に適った内容だったので、確かに必要なことではあった。

 必要なことであったし、彼女はその後、あまりにもビクつく灯処のためにもう一つ、条件を付属してくれたのだ。


 曰く、双方共にどちらかが『見たい』、『見られたい』と思わない限り、見えないようにするという内容だ。


 その条件が効いたのだろう。以降灯処が、頭だけ金魚の和装男、のような『異形』を目にすることは避けられている。


 元々がそういった世界に関わりの無い一般人であるし、千世子の言う、妖精や妖怪、精霊の類達も千世子に用があるだけで、灯処に別段用件があるわけでも無く。灯処が彼等を『見たい』と思わなければ、彼等も灯処に『見られたい』と強く思うだけの理由が無かったので、千世子から『おまじない』を掛けられて以来、そういった類も目にすることは無かったのに……。


 このコツメカワウソは突然現れた。


 そう、灯処がいつも通り、机に向かっていた昨日の夜。唐突に現れ、声を掛けて来たのだ。


『へぇ、ご友人様。お勉強ですか? 大変ご熱心であられるんですねぇ。あ。お水いります?』


 思わず顔を向けたそこに、金色の雲に乗ったコツメカワウソがいた。目を見開いたまま数秒固まってしまったとしても当然の反応だったはずだ。


 灯処は見たいとは思っていなかった。だとしたら、この小動物の方が、灯処に見て欲しいと思っているようなのだが……、一体何故?


 動揺のあまり、千世子にSOSのメールを送ってしまったのだが、スマホを使い慣れていない彼女の返信は遅く、しかも。


『モフれ』


 この一言。


 何て使えない神なのかと、思わず盛大に舌打ちかましてしまったわけなのだが。

 実際、いくら外見が可愛くとも、こんな良くわからない存在に居座られても困る。なので、灯処が相手にしなければ、この小動物もその内に興味を無くして消えるだろうと、そう思っていたのに。


 一日立った今も、小動物は灯処の部屋にいた。


 ……何故に?


 昨日のファーストコンタクト時から意識して、一切の反応を返していなかったのに、ネヴァーギブアップの精神が過ぎるのではないだろうか。


「? お水いります?」


 そうして、どうして二言目には、灯処に水を進めてくるのだろう。


 いや、まぁ、可愛いのだが、一体、どうすれば……。


「……ほう。チヨの加護か。あの水の継次(けいじ)以外にも人間についているとは興味深い。お主、チヨとはどのような関係ぞ?」


 メのマエにビケイがアラワれた。


 煌びやかで、過言ではなく本当(まじ)に存在自体が輝きを放ちまくっている美形男性が灯処の机に頭を乗せている。


 一瞬にして、頭がパーンした灯処は、とりあえず目の前のスマホを手に取った。


 プルルルル。プルルルル。


『あ。もしもし?』


「千世子ちゃん。助けて。人智を超えた美形が私の机の上に頭を乗せて上目遣いしてくる」


『あ。ごめん。どうした?』


 千世子の反応はもっともなのだが、今の灯処には千世子の普通過ぎる反応はイラッとくるだけだ。


 イラッとくるだけなのだが。


「私にも、……一体どうしたら、この状況が……っ! 何が起こっているの!?」


『え!? 私に聞いちゃうんだ!?』


 二人してパニックである。


 だが二人でわちゃわちゃしている間も、美形は待ってくれない。

 何を思ったのか、灯処のスマホを、ひょい、と取り上げると自らの耳に押し当てたのだ。


「あ!! 私のスマホっっ!!」


「もしもし、チヨか? 我はしょっくであるぞ。けーたいを入手してたのなら、何故、我にも番号を教えん」


『え? あれ? 風(ふう)さん? なんで灯処ちゃんの所にいるの? ……ああ。“人智を超えた美形”って風さんのことかぁ』


「ちょっと! 私のスマホ返してよっっ!!」


「ご友人様! 落ち着いて下さいいぃ~~! あ。お水いります?」


「常の通り、風に漂っておったら、チヨの気配を感じてな? 降りてみたらこの者がおったわけよ。とにかくチヨ。すまほを持ったのなら、まず我等に教えよ。

 追々から、この事実を知られてみよ。我だけならまだしも、ヒィもツチも皆、拗ねるであろう」


「わ・た・し・の・ス・マ・ホッ!! 立ったら長身ってっ! 手が届かないって!! どういうこと!? しかも、ちょっと浮くとか反則じゃないの!? ちょっとレフェリーっっ!!」


「ご友人様! お水……っ!」


「いらないわっっ!!」


『でも、風さん。皆に伝えるも何も、私、まだ持ったばかりで、まず皆のアドレスも知らないのに、どうやって伝えるのさー』


「思念を飛ばせばよかろうに」


『正論だけど、それこそ携帯の意味無いよー』


「ならば、河子か鳴、水鳥(みずどり)にでも言えばよかろう。あやつらは我等のあどれすを持っておろうに」


「|||orz|||」


「ああ!! ごめん!! 強く言い過ぎたね! そんなつもりじゃなかったのよ? ただ、今はいらないってだけでっっ」


『何!? その衝撃の事実っ!!? 私を差し置いて、皆、電子端末持ってんの!? 知って良かったけど、知りたくなかったっっ!! ……はっ! だから、皆、私がスマホ持ってニヤニヤしている所を何か言いたげに見ていたのか……っ! あの沈黙は何!? どうして誰も声をかけないのっ? 私、実は嫌われてっっ!!?』


「ただ言いずらかっただけであろう。それは、そちらで解決せよ。ではな、チヨ。これからこの者のすまほにて、我のあどれすを送るによって、そちも我に返信するのだぞ。我からあやつらに送っておくでの。良いか? あと、この者に、我の加護もつけるからの。またの」


『え? ごめん風さん。最後、良く聞きとれな……っ』


「灯処ー? 上で何やってるのー?」


「あああ!! ごめんね、おかーさーん! なんでも無いのーーー!!」


 そりゃあ、これだけ大声を出していれば、いかに階下であろうと不審に思われるはずである。

 ある意味、特効薬のような母の声に、ようやっと自分を取り戻した灯処は、一生懸命機嫌を取っていたコツメカワウソから我に返り、自らのスマホの行方に思い至った。


「ハッ!! 私のスマホっ!」


 下に向けていた視線をずらし、再び正体不明の謎の美形へと顔を向けると、彼は、片手に灯処のスマホを持ち、もう片手で自らの着物の襟元から四角い板を取り出している所だった。


 どう見ても、スマートフォンなんですが。


 灯処の部屋に突然現れ、さらには“人智を超えた”と思わせる美形。


 十中八九、千世子関係の人外だと思っていたのに、普通に懐からスマートフォンを取り出したんですが……?


 予想を飛びぬける光景に、頭の中でハテナマークが止まらない。

 頭の中が『?』で一杯になり固まっている間にも、目の前の美形は灯処のスマホちょいちょいちょい~と操作し、さらに自分のスマホもちょいちょいちょい~といじくり、スマホ同士を背中合わせにしているではないか。


 赤外線ね……。とっても無難な操作、赤外線をしているのね……。


「って、違うっ!!」


 ふむふむ、と状況を分析している場合では無い。


「何を! な・に・を・やってるのよぉ~~っっ!!」


「ご友人様……、お水……」


「後で、いただくわね。ス・マ・ホぉおおおお~~~!!!」


 手を伸ばすも、自分のスマホを仕舞い込み、頭上に掲げポチポチされ、しかも空いた片手で頭をわし掴まれ、ポチポチされ、手の届かない悔しさに灯処は歯を食いしばった。


 けれども、灯処のスマホは灯処の努力とは違う形で持ち主の元へと戻って来た。


 つまり、そう。彼の気が済み、戻って来たとも言うのだが。


「一体、何をっ! 何をぉぉお!?」


 画面はアドレス帳の、これは……。


「我が名は風青(ふうせい)。風を司る龍神。風龍」


 はっ……?


 “風”に“青”と入力されている名前の下には個人のアドレスと番号。


「わぁ! すごいです! ご友人様! 風神(かぜがみ)様もお認めになるなんてっ!」


「……へぁ……?」


 風神? 風龍? 風神(かぜがみ)?


 茫然としている間にも、風青と名乗った人外美形が、どこからか取り出した七色の鳥の風切り羽で灯処の額をふわふわ。両肩をふわふわ。


「よし、これで千世子と同条件の加護を付けた。お主が危険な目に合ったなら、我に連絡が行き、結界が自動で張られるであろう。

 我が同胞、水龍千世子の友人、日暮灯処よ。千世子共々、我も(・・)よろしく頼むぞ」


「---……」


 プルルルル。プルルルル。


『もしもし? 今度はどうした?』


「どうしたもこうしたもねえぇえええええぇぇぇええっっっ!!!」


「はっはっはっはっは!!」


「ご友人様!! 落ち着いて下さいっ! お水いります!?」


「灯処ーー!? どうしたの!? 大丈夫ーー?」


 


 これは、卯木が千世子の教室に乗り込む少し前、千世子が嵐に巻き込まれる直前の出来事。




 

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