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本日のお昼の見回りは、神使の鳴に任せて、やって来ました校舎裏のベンチ。
記憶はある程度いじったものの、眷属河子は顔バレしたので、おウチ待機決定だ。
ちなみに、何故、校舎裏のベンチなんぞに来ているのかと言うと、用心のためとことん人目を避けた結果だったりする。
なんせ、普通科と進学科のセットだ。いない訳では無いが、人目を引くことも確か。
千世子は腰にぶら下げたペットボトルホルダーから、中身を取り出し一口飲む。
別に、四家の人間以外には隠していることでは無い。
それに、こんな荒唐無稽な話なんぞ、信じることの方が難しいだろう。
その二つの点で、日暮灯処はクリアしていたし、こうなって(術が緩み、認知度が上がって)しまっては、普段の学校生活での協力者が、いた方がいいと考えたのだ。
灯処にバレても四家の誰かにバレるということも無いだろうし、何よりも千世子の存在を覚えてしまった灯処に千世子の周りを嗅ぎ回られた方が迷惑なのだ。
ならば、全てを隠さず話してしまい、こちら側に引き込んでしまった方が安心安全請負である。
ちなみに、千世子が水神である、と話した時の灯処の反応は「……ガチで?」というなんともサブカルな返しであった。
勉強ばかりだった、と言うのはあながち誇張なのではないだろうか。
「……はぁー……。霊能力者や、超能力者でしたー、っていうのぐらいは覚悟してたけど、まさか神様とくるなんて、予想外も良いところだわ」
などと言いながらもおかずを口に運ぶ手を止めないのだから彼女も大概である。
「しかも、あの宝円様達が霊能力者だったなんて……、もう何て言って良いのかわからないわね……。でも」
意味深に言葉を区切った灯処サンは、その瞳に試すような光を宿して千世子を見詰める。
弧を描く口元に、千世子は片眉を跳ね上げる。
「水龍である千世子さん? 宝円様達にまで及ばなくとも、私がそこら中に風潮して回るとは思わないのかしら?」
何を言うのかと思ったら。
千世子はにっこりと笑みを作る。
「何をおっしゃる灯処さん。どこにでいそうな平凡な女が神様だなんて、誰が信じると言うんだい?
そんなの、君が変人扱いされるだけに決まっているじゃないか。
私は、君がそんなリスキーなことをするとは思って無いよ。
さらには、私に感謝してくれた君だ。もし、手が届いたとしても宝円を含めた四家の血筋に進言するかもしれない、なんて思うわけがないじゃないか。ねぇ? そうだろう? 日暮灯処さん」
最後にフルネームを言うのはある意味脅しだ。
「後で、“真名”と“言霊”という言葉を調べておくと良いよ。私の言いたいことが、きっと良くわかるはずだ」
「……冗談よ。冗談。ちょっと言ってみたかっただけ。勉強だけの私といえども、千世子ちゃんの言いたいことぐらいわかるわ。いくらなんでも神様に喧嘩を売らないわよ」
千世子の笑みに、楽しそうに両手を上げプラプラと振る。
彼女的な降参の意思表示なのはわかるが、箸は置きなさい。箸は。
「ふぅん。それにしても、大層なお役目があるものね。同じ年の女の子を守らないといけないなんて。見た目で言えば、絶対に廉条様の方が強そうなのにねぇ。いろんな意味で」
本当に、いろんな意味が含まれているのだろう灯処の言に、千世子は苦笑する。
「見た目や、頭脳や権力的なイミで?」
「まぁ、“いろんな意味で”ね」
「いいじゃないか。だからこそ紛れ易く、守り易い」
「……成程。確かに“強み”ではあるわね」
誤魔化しを多分に含んだ千世子の言い方に、弱冠不服そうにはするものの、言葉遊びに付き合ってくれる灯処に感心した。
気になるのならば突撃する。この年頃の子供ならば、腹芸なんて頭も無く、猪突猛進を地で行く者の方が多いだろうに。灯処は、空気や心情を読むことに、元から長けているのだろう。
と言っても、千世子の場合は別に都合が悪い訳でも秘密な訳でも無く、ただ単に説明が面倒臭いだけなのだが。
「まぁ、その内にね」
「まぁいいわ。その変わり長いお付き合いを期待するから」
目を見合わせてお互いにくすくすと笑う。
なんとなく彼女とは良い友人関係を築けそうな気がする。
そんな満足感を覚えながら、千世子は灯処が食べ終えた弁当箱を片付けるのを眺めた。
灯処は、そんな千世子の視線に首を傾げる。
「何だい?」
「ううん。今日のお昼のお役目を休ませちゃったのは申し訳無かったけど、何か食べなくてもいいの? 学食行く予定の所を無理矢理引きずって来ちゃったかいしら、私」
一見手ぶらに見える千世子へ、酷く申し訳なさそうな視線を向ける灯処に、千世子はポケットの中に入れていた箱を取り出して見せる。
「違う違う。いつもは昼休み中ずっと移動してるからね。昼はコレで済ませてるんだ。でも、さすがに隣で食べるのは気になるかと思ったんだけど……。却って、気を使わせてしまったね」
口の開いた携帯食を見て、灯処は納得する。
「そっか。……じゃあ、一つお願いしてもいいかしら」
「何だい?」
「一週間に一回。何曜日でもいいから私と一緒に昼食を食べてもらえないかしら? せっかくお友達になれたのに、教室も違うのだから寂しいわ。ねぇ、いいでしょう?」
可愛らしく首を傾げる友人に、千世子は心温まる思いだった。なんせ、何年かぶりに出来た友人だ。しかも、その頼み事の中身は、千世子と一緒に過ごす時間が欲しいというものである。
嬉しくなったって、仕様が無いじゃないか。
「……っ、光栄だな」
「わぁ! じゃあ、決まりね! そうだ。アドレス交換しましょう? 連絡取れないと不便だわ」
「え?」
「え?」
「「…………」」
流れる沈黙に、千世子は水を一口、ゴクリ。
「……ごめん。持って無いんだ」
「……買いに行きましょうね」
一緒にご飯の前に、一緒にお買い物になりそうです。




