政治【高坂】
「……」
とは言っても。
バカ正直に待つ必要も無いわけだ。
僕は遠見さんが見えなくなるのを見計らって車のギアをドライブに入れる。
きっと遠見さんだってその方がいいに決まっている。
シリアルキラー(正直意味はよく知らないが)と知り合いなんて害こそあれ、利は皆無だろう。
「……ふぅ」
山間部だけあり日差しも遮られ風が心地良い。僕は窓を開け頬杖を突きながら何の気なしに……見た。
唐突に視界に飛び込んで来た為、一旦車を停車させ情報を整理する。
あの淀んだ空気は、きっと。
車道からも確認出来る。木々に紛れた異臭を放つ異物。
「……」
停車しているので風はほとんど無く暑いはず。しかし背筋は凍った。
人が吊られている。
少し目を凝らせば容易に確認出来る。隠そうという気すら伺えない杜撰な狂気。
僕は吸い込まれるように車を降り草を踏みしめながら異界に体を滑り込ませた。
『コイツまだ生きてるな……そっちはどうだ?』
『ええと……死んでる。1人分空席ゲット!』
吊られた人間の足元に2人の男。歳は2人共20代後半。
瞳孔は興奮状態で開き気味、口元はだらしなく歪んでいる。典型的なヒトゴロシの面相……拘置所でさえ滅多に見ない、人間であることを【諦めた】種類のソレである。
『自然死に偽装なんて面倒な事、なんでするんだ?』
『いくらジジイだからってさすがにてめえのオンナ引っ張り込むために殺す、なんてマズいだろ?シェルターって穴蔵の政治だよ』
政治、ときた。
『えぇと?あと何人殺るんだっけ?』
『8人だっけか……そんだけ入れ替えりゃハーレムだぜおい!体もつかな!?』
シェルターの入居争い。
僕は大きめの木の陰で様子を伺う。
『夢みてえだよな。毎日ヤリ放題なんて』
『大義名分もある。【子孫を絶やすな】ってよ。あのニオイさえ無かったら完璧なんだがなぁ。篭るんだよシェルターがなあ』
『慣れだ?俺は慣れたぜ』
吊されていた影で確認出来るのはいずれも老人。
男性だった。
『またオンナ拉致ってこねえとな!忙しくなるぜ』
『ちょっと話せば拉致の必要もねえよ!シェルターからあぶれた奴等なんて【入れてやる】って言えばケツ振って付いて来るぜ!』
「…………」
邪魔なら殺し、ヤりたければヤる。
どうやら『シェルター』ってのはデカいクソ溜めの事だったようだ。