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フロムエンド  作者: 連打
6/50

穴倉【高坂】

僕と少女は適当な車に乗り込む。ほとんどの車にはキーが差しっぱなしになっていたので造作もない。

選んだのは4ドアセダンの国産車だった。


「なんて呼べば?」


『少女』にしか見えないので脳内の変換では少女だったが、ハタチの女性に『少女』はどうかと思う。ここらで呼称を決めておきたかった。



「凛子です。遠見凛子。お兄さんは?」


「高坂」


2人して車に乗り込んだ瞬間、熱風。革張りのシートはフライパンのように熱を持っていた。


「「あっちいいいっ!!」」


思わずハモってしまう。革シートが蓄えた熱を僕らのケツに炸裂させたのだ。とっさに掴んだハンドルも、まるで熱した鉛のようにじりじりと手の平を焦がす。


「っ!」


車から飛び出した僕は手の平を勢い良く振りながらドアを全て開け車内の換気をする。



「おし……お尻が……私のお尻……」


遠見さんは自分のお尻に両手を当てピョンピョン飛び跳ねていた。

パジャマなんて薄手の物を着ていたのでひょっとしたらしたら軽い火傷でも……


お尻をおさえながら遠見さんは僕の目を見て言い放つ。


「お尻が……割れてるっ!?」



うるせえ。

少しも面白くない。

会ってから間もないが思わずイラついた。


「……あれ?ダメ?」


「いくよ」


換気の済んだ車内に乗り込む。ハンドルはまだ熱かったが握れない程ではなくなっていた。


「高坂さんてクールだね」


「……」



まあシェルターまで送ればもう会うことも無い。

送る義理も無いが……急ぎの用も有りはしないので大目にみておく事にした。



「ねえ高坂さん?」


「え?」


童顔過ぎる笑顔を輝かせ僕の顔を覗き込む遠見さん。

本当に小学生のような無邪気な笑みで白い歯を見せながら



「シェルター着くまでしりとりしよ!私からね?凛子の『こ』!はい!」


と言った。



……一週間後には巨大隕石が激突するって、僕は確かに伝えたはずなんだがなあ。



2人なのに不自然に騒がしい車内に耐えつつ暫らく車を走らせると町外れの山間部に到着する。


「……」


道路に面した獣道紛いの林道に不自然な程の轍を見つけた。

シェルターの看板など当然有りはしない。自衛の為、当たり前だろう。

地元住人がわかる程度の目印めいた情報だけが伝達しているようだった。



「ここなんですか?目ざといね高坂さん!」


「隠しきれる規模でもないから。ほら」


僕は山あいの脇道に視線を移す。そこには狭いスペースにきっちりと軽トラやピックアップトラックが列べられていた。


「資材や食料運搬用みたいだ。間違い無くシェルターはその轍の先だよ」


「そっか!じゃ行きますか」


ぴょん、と跳ねるように車から降りると遠見さんは運転席側に回り込む。


「……僕は行かないよ」


「またまた。イジワルしないで行きましょうよ」


僕は窓をスライドさせ遠見さんの鼻先に一冊の雑誌を突き出した。


「なんです?」


「いいから読んで」



表紙だけでも分かるはず。

僕の記事が特集されている女性向けの週刊誌だった。


「……日本人では珍しいシリアルキラー。遂に殺人事件も国際化か?快楽追求の果ての死刑というゴール……ってなんですかコレ?」



「そのシリアルキラーで快楽殺人者が僕」


「えっ」


「遠見さんは寝てたから知らないだろうけど、僕は世間に顔も知られてるから。面倒事はイヤでしょ?」


「確かに……」


「じゃあここでサヨナラだ。割と楽しかった」


嘘ではなかった。

少しだけ、ほんの少しだけ僕は楽しかったんだと思う。

手元のスイッチで窓をスライドさせバックギアに入れる。

ミラーで後方を確認しながら車の向きを来た方向にまわ





「ってちょっと!」


ばん、とガラス窓に両手の平を叩き付ける遠見さん。


「私もシェルターに潜り込むつもりないんだってば!お父さんとお母さんに挨拶しようと思っただけなの!そう言ったよね!」


ばんばんと遠慮の欠片もなくガラス窓を叩きまくる遠見さん。僕は仕方なく窓を開ける。


「……家族がいるなら一緒に居た方がいいよ。何が悲しくて殺人犯と居るのさ?」


「じゃ、じゃあせめて挨拶終わったら、私達が会った街まで送って下さいよ!お願い!この辺で待ってて!」



ホントにシェルターには行かないつもりなんだな。

僕はドア越しに20分程拝み倒され……なんだか知らないが車で帰りを待つ事になった。

つくづく変わったコだと思う。

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