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フロムエンド  作者: 連打
5/50

邂逅3【高坂】

今日は2014年の7月25日……僕は聞かれたから答えた。聞かれたから……答えたのだ。



「orz」


「?」


隕石が堕ちてきて一週間後には死にます……先程僕は少女にそう伝えている。

それなのに、今の少女はその時以上にショックを受けているように見えた。


「はっぴーばすでーつーゆー」


「……」


いきなり少女は顔を伏せたまま歌い出す。両腕をアスファルトに突き今にも倒れ伏しそうな身体をやっとの思いで支えているようだ。


「はっぴばすでーでぃあわたし~」


相変わらず太陽は照りつけていたのだが……少し寒気を覚える。恨みつらみの染み込んだようなバースデーソング。



「……一緒に歌って下さい」


歌が終わり気を抜いた僕に訴える少女。顔は未だに伏せたまま。


「三回歌います。あと二回……一緒に歌って下さい」


「……え」


「一緒に歌って下さい」


「いや……あの」


「一緒に歌って下さい」


「一体なにを」


「一緒に歌って下さい」




…………。



全く同じトーンで静かに訴える少女は、鬼気迫る迫力をまといながら合唱を強要する。


「私……寝てました」


「……」


ようやく違う言葉を吐き出す少女にすこしだけ安堵するが、迫力はそのままだという事にすぐ気付いた。



「最後の誕生日は17歳で……私多分三年間寝てました」



少女は僕が証拠として差し出した、落ちていた雑誌の発行日を見詰める。


なるほど。


隕石の事や僕の顔を知らない訳が分かった。

三年前ではまだ隕石の接近は公表を控えられていたはず。

そして僕が事件を起こしたのは二年前だ。


って……え?


「恋愛とか青春とか……寝てました」


ハタチ?この少女が?



「ていうか……私、生理もきてないや」


うふふ、と微かに少女の肩が揺れる。


「なにコレ……スマート……フォン?どこがスマートなのよ。四角いじゃんか」


雑誌の特集記事にまで噛みつきだした少女。スマートフォンを知らないようだ。

うふふふふ、と静かな笑いは止まらない。


……。


「う、歌おうか?」


「当たり前ですっ!歌でも歌わないとやってらんないですよっ!それともなんですか?生理の来てない成人女性は歌っちゃダメなんですか!?」



少女(?)は今なんでも噛み付く精神状態のようだ。



「ほいっと」


一時間ほど錯乱した少女は紙切れを街道に設置された掲示板に貼る。例の『里沙子さん』に宛てた伝言だ。

もはや色褪せた物から比較的新しく見える物まで、両手を広げてもまだ余る大きな板にビッシリと貼り付けてある。

どうやら少女はこの掲示板を眺めていて先程の里沙子さんの紙切れを飛ばしてしまったらしく几帳面に元に戻したという訳らしい。


「お兄さんはこれから行くとこあるんですか?」


ピンク色のパジャマをひらりと翻し僕を覗き込む少女。


「まあ……」


「シェルター行きましょうよ。一緒に。ね?」


「僕はいい」


「はい決定!んじゃ運転よろしくお願いします!」



……押しの強い子なのは今までの言動で分かっていたが、ここまですごいと逆に清々しい。


「だってだって!私場所分かんないし運転出来ないんです!お願いします!」


「今更行ったってもう入れないよ」


当たり前だった。

僅かの可能性に希望をかけた人々が我先にと詰めかけている。限りなくゼロに近い確率でも人は希望に抗えない。


誰でも生き延びたい。


当然だ。


「あ、それなら大丈夫です。私別にシェルター入れて貰おうって訳じゃないんで。はい」


「え?」


「家族にお礼言ってないなあ……なんて思い出しまして。私みたいな死に損ないが産まれてからずっと看病してくれたし。せめて感謝の一言でも無いとなんて言うか人道的に間違ってる気が」



しません?、と首を傾げ照れくさそうに僕に告げる。


「ほら、私どっちみち死ぬから。今言っとかないと」


「心掛けは立派だとは思う。僕には関係無いけど」


「ひっどーい!一緒に歌ったじゃないですか!祝ってくれたじゃないですか!」


僕は少女に袖を掴まれ腕をブンブンと振り回される。少なくとも成人女性のする事ではない。


「私に奥の手使わせないで下さい!大人しく言うこと聞くなら使いません!」


「奥の手?」


スペシウム的な何か……だろうか?


「……あからさまに胡散臭そうな顔しないで下さいよぅ」


「奥の手使えばいいんじゃ?」


「あ!……分かりましたよ!後悔しても遅いんだからね!」


目の前の成人女性はおもむろに大きく息を吸うと僕の足元にツバを飛ばす。


「……」


「ぺっぺっ感染するから!私の病気ぺっぺっ、うつるんですからね!」


こんな子供みたいな成人女性を目の当たりにして軽く感銘を受ける僕。これはヒドい。

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