あと2日【後半】
二人は気が付いていなかった。
空にまだらの明確その隙間、昼か夜かもともすれば判断しかねるその空中において。
「んん?」
少女と青年が宙に目を凝らしたその先に浮かぶ異物。決して距離が遠すぎた訳ではない。空の変容にその身を隠すように漂う巨大な物体。
「なんか……浮かんでる?」
大型の戦略輸送機4隻。
目視で確認出来るのはそのくらい。正確な数は判断しようがない。青と灰、横断歩道のようなコントラストの歪で異質な空を渡る羽根の付いた人工物。
「あれって……」
「……」
青年は何も言わなかった。少女もしばし言葉を発するのを止める。
少女を背負ったままの青年はあのハコブネにどんな思いを巡らせたのか。
呆然と視線を泳がせる少女は微かな救いを跳ね除けた事に後悔しているのだろうか。
二人が何を思おうと何も変化は訪れないし、変化するのであるならば二人とは何の関係も無い。ならば、やはり。
「っ!?」
「きゃっ!?」
淀んだ大気の中、灰色の空に反射する爆発光。黒煙。
青年の前髪も揺らすことのない輸送機の爆発は、やはり二人とは無関係なのだ。
「マジだったか」
「そうみたいね」
群集の中に小さく沸く言葉に抑揚は些少。誰も彼もが次々と連発される爆発音を遠くに聞きながら姿勢を崩さない。波間に飲み込まれていく人工物は彼らに対して影響力は少なかった。
「なんでだろうなあ。今更別に関係ないのに……ほんと、なんでだろうなあ」
放置車のボンネットで年長の男は独り言を呟いた。
「多少長生きしたい健気なヤツラってだけなのに、なあ」
誰も年長の男に言葉を返すことは無い。ただただ空を反射して灰色になった海に吸い込まれていく輸送機を皆が眺めている。
青年も、少女も。
人間の輪郭を残し
栄光、名誉、財産、出自、血統、縁故、情。
かつての持ち得たを全て使い幾ばくかの安らぎを得ようと足掻いた人々。
内側の叫びに殉じ
嫉妬、傲慢、羨望、劣等、低迷、怨憎、哀。
最期にあって他者の優越に晒される事を拒否した人々。
終焉の際、相手を飲み込んだのは後者であった。
それだけのことである。
「……高坂さん」
「ん?」
少女は額を信頼する背に預け、呟く。
偽りなど無い……特に他意の無い心からの感想。
「あれってさぁ」
「うん」
「夜だったら綺麗に見えたかなあ?」
「……」
「あれならまだ……病院の窓から見えた花火の方が綺麗だったなあ」
「……そっか」
青年はその心情とは裏腹に、少女にたいして肩越しに笑みを返す。
全てを瓦解させる終末現実。
青年は少女の言葉に違和感と呼ぶには余りの変質を感じ取った。
方針も計画もない、純粋な崩壊はすべてをゆるゆるととかす。
せいねんは
きょうふで
さけびたいのを
おしころす。




