あと2日【前半】
少女はまだ生きていた。
しかし生命活動は停止していない、という意味で。
「……重い?」
もう自分では立ち上がれない。その為青年は少女を背中に背負い歩く。
目的地がある訳では無い。ただ少女が外に出たいと言ったから。
青年が見つけてきた小屋から出るには充分すぎる理由だった。
「軽い。もっと気合入れろ」
「……メンボクナイ」
少女が涙を見せたのは昨日の一回だけ。
青年は安堵しもしたが同時に少女の強さが悲しかった。
浅くなっていく呼吸の隙間を縫うように吐き出す少女の言葉は、以前とは比べるまでもなく細い。
「……あ」
何かに気付いた少女は青年の肩に自分の額を押し付ける。青年は少女に促されるまま視線を泳がせた。
「……」
群集というにはささやかではあった。交差点の真ん中にざっと10人程の人だかり。あちらこちらに点在する放置車に各々座り込み海の彼方をじっと見ている。もはや『付き物』である略奪、強姦の類とは異なる様子に青年の視線が強張る。得体が知れない。
普段の青年ならば近寄ったりしないに違いない。しかし。
「モヨオシモノ?」
少女は青年の耳元で囁いた。
「そうかもね。行ってみる?」
自分には何もこの少女に与えられない事を知っていた青年は、小さく頷く少女の意思を何よりも尊重する。価値の無い自分の命でも使えるものなら使う。
青年は群集に向かい歩き出した。
慎重に近づいていく。特別不審な動きは無く周囲にも気を配ったが、危険を感じるような気配は不自然な程無い。わざと足音を立て群集に気付かせるも、やはり反応は無かった。
「……」
一歩一歩進み、最早声を掛けなくては青年達の方が襲撃者だと思われるかもしれない距離。少女に危険が及ぶかも知れないと思うと、青年は自然に群集に向かって声を掛けていた。
「なにしてんの?」
少女はその瞬間青年の背中に強く、強く顔を押し付ける。自分の息をせきとめるような勢いで。
「……遠見さん、なにかおかしい?」
「ふしゅしゅ……ナニシテンノ?って。ぷ~っ、似合わない~」
耳まで赤くした少女、つられて笑ってしまいそうになる青年。
そんな二人が珍しかったのだろう。群集の中の年長らしき男が放置車両のボンネットに胡坐を掻いたまま顔だけを二人に向け、言った。
「花火だよ花火」
「花火?」
二人を歓迎するわけでもなく、なにか歪んだ意図があるわけでもなく。
周りの人間達も年長の男に同意も賛同も無く。
群集はただのカタマリであってそれ以上の意味は無く。
「……」
青年と少女は瓦解の始まって久しい終焉の空を見上げる。




