repentance【遠見】
翌朝一夜を薄汚れたバーで過ごしたわたしはまだ眠っている高坂さんを起こさないようにそーっと外へ出てみた。
昨日は落ちていた100円ライターで炙った針で高坂さんの縫合をしたんだけど、糸は医療用でもなんでもない裁縫用の極普通のモノしかなく……皮膚にボツボツと引っかけながらの悪戦苦闘。
その間高坂さんは声も漏らさず平気な顔をしていたが、背中には汗を沢山かいている様だった。なんていじっぱり、そんなにわたしの選択が気に入らなかったんだろうか?
……気に入らなかったんだろうなあ。
何て言って仲直りしよう?そんなことも考えたかったわたしはバーの扉をゆっくりと開く。
「おぉー」
でっかいなあアレ。
いよいよなんだなあ。
真夏であるはずなのになんだかちょっと肌寒い。それに大きく広がった空には青い部分と灰色の部分がマダラ模様になって……その中心にはでっかい隕石。例えが見つからない位圧倒的な存在感の隕石が今まさにチキュウを飲み込もうとしているようだった。
「……」
アレ、遠いのか近いのかさえ解らなくなるようなふわふわした気持ちになるが、やっぱり怖くはなかった。嘆くほどの悔いある人生とか、わたしには無縁なのだからだろうか?
それは多分他の人たちに比べわたしがダントツでダメダメである証でしかなく、死ぬことよりもむしろソッチの方が『なんだかなあ』ってカンジである。
『遠見さんは特別なんだ』
…………。
特別ダメな自信ならあるけどさ。だからと言って今更反省なんか出来ないし、成長する為の時間も元々無い。わたしの手持ちのカードは『コレだけ』で最期までなんとかやっていく気になったのは高坂さんが居たからだ。
でなきゃとっくにどこかで行き倒れているだろうし。
だから……
「世紀末感すごいな」
「高坂さん?首、大丈夫なんですか?」
わたしがバカみたいに隕石を見上げながらしょうもない事を考えていたら、いつの間にか高坂さんがバーの扉から顔を出していた。
「……おかげで血は止まったみたいだ。なんかちくちくするけど」
高坂さんは首元を掻く仕草で巻きつけたティーシャツの上からなぞる。
「掻いちゃダメ。また血滲んじゃいますよ?」
「そっか」
もう怒ってないのかな?
高坂さんはいつもの高坂さんだった。
こっちがホンモノだ。
「アレ……大気圏破れてんじゃないか?やたら寒いし」
「わっ!?だめですよ高坂さん!あんなに血だして輸血もしてないのに!!」
たどたどしい足取りでバーから出ようとする高坂さん。当然まともな治療なんかしてないし出来ないのに普段どおり行動しようとする高坂さんは見ていてハラハラしてしまう。
「昨日のコンビニ行って見ようか?食べ物調達しないと」
「聞いてるんですか、もう!」
「いやいや」
「?」
高坂さんはわたしの頭を抱えるように……自分が倒れてしまわないようにわたしを支えにしてくれた。子猫ほどの重量感しか感じないのは高坂さんがわたしに気を使ってる、それはそう。でも。
その時、高坂さんはちょっとでもわたしを頼ってくれていたんだ。
それがなんだかとても嬉しい。
「あと三日。僕は遠見さんと生きて一緒に死ぬ。だったら寝て過ごすわけにはいかない」
「……」
「あんな隕石見せ付けられたらなかなか前向きにとはいかないけど……ま、なんとかやっていこう。どうせハナから自分の人生に未練なんか無いし」
「……高坂さん、未練、ないの?」
「無い。だから最期までなにかの中心を見据えて死んでいける気がしてるんだ。遠見さんのおかげだと思うよ?」
「へ?なにが?チューシン?」
わたしと高坂さんは目を合わさないまま会話する。わたしたちの視線の先には灰色の空に浮かぶ大きな隕石。別に隕石にわたしたちに対する悪意や敵意があるわけじゃない。
…………。
・・
わたしは高坂さんと居る。それだけなんだけど、大事なのはそこだけしかなくて……わたしは。
もしかしたら。
このひとと居れば。
人並みに。
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後悔して死ぬことができるかもしれない……そう、思った。




