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フロムエンド  作者: 連打
4/50

邂逅2【高坂】

「……んあ?」


きっかり二時間。一応運んではみたものの。

ビルとビルの間、濃い影の中で過ごす。その間少女は寝苦しそうではあったが睡眠を取っていた。


「?」


ようやく目を覚ましたかと思ったら……何の真似だか知らないが寝転がったまま両腕を交差させ僕に向かって


「でゅわっ!」


と短く叫ぶ。


「ほ、本気出したら出ますよっ!ホントに!」


プルプルと心許ない両腕の交差はそれでも僕を捉えて離さない。


「……?」


「うう疑ってるんですか!?」


「出すって……何を?」


「スペシウムな何かですっ!」


瞳に浮かぶ怯えは間違いなく本物。なのにふざけてるとしか思えないこの行動。


「……これだけ暑いとさすがに」


「アタマおかしくは無いです!日差しにヤラレた訳じゃないです!」


違ったようだ。


「でも僕は一応君を助けたはずだけど?」


スペシウムな何かを撃ち込まれては堪らない。僕は言葉を交わす事にした。


「お母さんははぐれた?」


「え?えぇ……まぁ」


「迷子か……」


「迷子……と言えない事もない……かな」


いまいち歯切れが悪い。まだ意識がハッキリしないのだろうか?


「シェルターに居るんじゃないのか?こんな所いても誰もいないと思うけど」


「シェルター?」


「難しいかな。避難所って言えば分かる?オトナが沢山いる所」


「……」


訝しげな気持ちを眉間に刻み込んで僕を見る少女。子供の思考ってのはコロコロと変わり掴みづらいものだ。


「えと……だから」


言いよどむ俺に対し交差した両腕を突き出し僕を腕の隙間から覗く少女は言葉を発した。


「私いーくつだ!?」


「え……ちゅ」


「中学生じゃないです」


「……」


何が気に障ったのか少女は不機嫌さを隠さない。無言の空気の中、ピンク色のパジャマがひらりと風になびいた。


「……」


この少女が何歳だろうと何の興味も持てない僕は無言で立ち上がる。


「……どこ行くんですか?」


なぜ涙目?


「いや、まあ。僕はこれで」


全く返事になっていないのは百も承知。しかし少女に気を使わなければならない理由も見当たらない。


「私……行き倒れますよ?」


「……」


「ほら」


少女が頭を軽く降ると。

赤い筋が彼女の顔に2本、たらりと鮮やかに出現した。


「ほらね。だからもう少し話聞かせて欲しいんです」


鼻と口からどろりと垂れた血液に全く動じないおかしな少女は少し照れたように笑う。




「隕石……ですか?」


驚くべき事だがこの少女は何も知らないようだった。

ショックを隠しきれない、と言うよりは呆然と僕の話を頭の中でなぞっているように見える。



「……もう地球は多分生き物は住めなくなる。下手すれば星ごと無くなるらしいとラジオで聞いた」


僕は青い空を少女に顎で促す。そこには

昼間に見える月のような白いシルエットの巨大な隕石がハッキリと写し出されている。


「あれが落ちてくるんですかあ……へぇ」



理解が追い付かないだけなのだろうか?

少女は取り乱す事無く、むしろ興味津々といった様子で空を見上げている。


「怖くないのか?」


僕は少女に問う。

怖がってほしい訳ではない。

しかし僕は知りたかった。あまりの事態に心が鈍くなっただけなのか、あるいは。



「あなたが言ってる事がホントなら……怖いです。でもウソだとしてもそれはそれで怖いんですよね」


「?」


「私元々病気で死ぬ予定だったんで。アレ……落ちてこなくてもどっちみちご愁傷様なんです」


「そうなのか」


「そうなのです」


元々死ぬ予定だった。それは僕と同じ。

勿論僕のは自業自得であり、この少女と比べられない事は重々承知している。しかし。


「でも……そおかぁ。隕石かぁ」



なぜこの少女は……拘置所で見慣れた罪人の目をしてるのだろうか?


遠くを見ているようで何も映していない空虚な瞳。似つかわしくは無い。



「……あのっ」


唐突に僕に向き直り声を掛ける少女の瞳は……年相応の無邪気な色を帯びていた。



「シェルターって遠いですか?」


「いや」



言いかけて考える。

距離は大した事は無い。子供の脚でも半日かからないだろう。しかしそれは健康な身体が有ればこそ。


「運転は?」


「自転車も乗れません」


にひ、と何が可笑しいのか少女は屈託無く笑う。


「……じゃ多分君の体力じゃムリだ。最期の日までこの辺りのビルの中で大人しくしてた方が利口だと思う」


今更どこへ行こうと結果はそう変わらない。

救いは『無い』のだ。


「酔狂なオジサンとかが世界を救わないんですかねぇ?」


僕の話を聞いているのかいないのか。呑気な口調で呟く少女。


「勇気ある学者も跳ねっ返りのイケメン軍人もフィクションだったようだね」



ギラギラ照りつける太陽は日差しを手加減するつもりはないらしくアスファルトを焦がしていた。



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