introspection【高坂】
「ふう」
ようやく頭上げられるか。
僕は廃墟になっていたバーのカビ臭いカーペットから自分の頭を持ち上げると、そのまま後ろに倒れこむように仰向けにひっくり返った。
「?」
なんだろう?望遠鏡を覗いて生活しているような妙な感覚。
ひどい風邪をひいた時のようにうまく考えが纏まらない。ふわふわと、それでいて浮遊感など微塵もなく……視線は常に自分の足元を凝視していた。
「……」
誰もいなくなった廃墟のバーは、全ての調度品にうっすら埃がコーティングされている。
テーブル、イス、灰皿、照明、キッチン、リキュールのボトル、僕。
全てにだ。
「……」
さて。
なんか動けないしここで死ぬか。ロクな事してこなかった僕の死に場所などハナからどこでもいいワケで。ここでダメな理由を探す為の思考すらままならない僕は……さっきの時点でもう死人なのかも知れない。
ーーーーゲンキデーーーー
全く、ホントろくでもない。
おしつけがましい。
何様のつもりだ。
でも。
断言できるのは確実に遠見さんの寿命は伸びたという事。
あのペシミスティックな女性の態度から見ても避難計画が嘘なんて事は100パーセント無い。断言できる。アイツの処に行けば三ヶ月は生きられる。
そのために僕に出来る事はこの時点での別離、そんなことくらいしかない。
僕では遠見さんに何もしてあげられないのだから。僕は一秒でも長く生きて欲しかったし、遠見さんだって病気の事はあれど死にたかった訳はないのだから。
あんなにキラキラした人間は今のこの最終局面においてどれほど貴重なものだろう。きっと遠見さんならどこへいっても自分の人生をしっかりと歩けるはずで、その為には時間はあればあるほど良い。
「……しょっと」
僕は膝に手の平を押し付け立ち上がろうと試みるが、なぜか視界にはゆっくり倒れていくイス、落下するヒビの入ったグラスを横向きで眺めている僕がいる。
「……」
以前植木鉢を落とされた後頭部に沸いた鈍痛によりようやく事態を把握する。
手の平に力の入らなかった僕は前方につんのめる格好でテーブルやイスに激突、落下してきた灰皿を後頭部で受け止めていた。
自分の身体の操作方法を忘れてしまったかのように思えたが、次の瞬間には口角が自然に上がっているのに気が付く。
嗤っていた。
「……」
ああ、そうか。
コレは拘置所での僕だ。
全て解らなくて全て気付かなくて全て鈍くて全て……痛くて。
…………。
……………………。
どうしようもない。
自己嫌悪なんてもう20周したよ。
死んでも解決などしない。だから『反省』が必要なんだと。そして失われた尊い命は『反省』を持ってしても贖罪たりえないのだとも。
僕の薄汚れた命では差し出したとしても天秤はふり切れてしまう、だから僕は『死刑』に感謝もした。むりやり等価として断罪してくれるのだから文句のあろう筈もない。偽りのイーブン、大ヒンシュクのノーサイド。それで安心したのが僕だ。
僕というカタマリだ。
「……」
……なんか疲れた。
もうなにもする事が無い。
「……」
まともに『反省』も『贖罪』もしてはいないけど、もう僕には無理だと思う。
床に落ちていたグラスを掴み握り締めると、短い悲鳴を上げたグラスはコナゴナに砕け……手頃なサイズの破片を拾い上げた。
手首より首筋の方が確実に死ねそうな気がした僕は一度深呼吸をする。
更に一回、もう一回。
徐々に意識が固まっていく気がした。




