It does not carry out killing. 【高坂】
相手が2人なら大丈夫、ソレは嘘じゃないし自信もある。
僕は身長に裏手から周り声の方へと進んだ。
制圧なんて考えてる暇は無いだろう。技量を競うわけでは無い。
彼らのエゴを僕のエゴで塗りつぶそうというのだ。
「……」
また、心が冷えていく。
他人を助けるなんてガラじゃないし冗談みたいだった。それと同時に『だからエゴ』だと言うこともできるが。
女性を襲う彼らを縛る法も権力も消滅した今、意に沿わない相手に暴力で屈服させるという意味では僕も彼らも変わらない。本質的に手段を『暴力』に設定した時点で善も悪も無くなるのだと……僕は薄暗い拘置所でそう結論付けたのだ。
「……」
いた。
もう、勝ち。こんなものは覚悟を持った者が対象を先に発見すればその時点で終わったようなものだった。
僕は路地の影から様子を伺う。じりじり僕の顔を照りつける太陽も今は気にならない。
「たた、頼むよ……ぼぼ僕らまだシたことないんだ」
ちょうどマウントポジションの格好で女性に馬乗りになっている男は、自分の汗を下に組み敷いている女性の顔へポタポタ垂らしている。もうひとりの男はその周りでオロオロと周囲を警戒しているようだ。
「はな……してください」
この気温にも関わらず女性はパーカーを目深に被りダボダボのワークパンツを着込んでいる。女性と悟られれば危険は増す、いわゆる変装のつもりだったのだろうが残念ながら効果は無かったようだ。
「みんな、しし、死ぬんだからさ。ささ最期に抱きたいんだよ。ああ、あんたには申し訳ないけど」
上に乗っかった男の腕が女性のパーカーに突っ込まれた瞬間、僕は隠れていた路地に面した店舗に降りていた丈夫そうなシャッターを鉄の棒で叩き付けた。
びく、とこちらを見る3人。その目には明らかな怯えが浮かぶ。
「……」
対話はしない。交渉もなしだ。
僕は路地に踊り出ると、鉄の棒をアスファルトに引きずりながら大股で彼らの元へ進む。その距離40メートルを一定の速度で潰していく。
「な!?なんだあんたっ!?っておい!おいってば!!」
距離はみるみる詰まっていく。僕はぶん、と手にした棒を振りワン・アクションで攻撃できるよう自分の頭上に上げておいた。
「おい!逃げようぜ!俺らやっぱりこんなのガラじゃなかったんだって」
周囲を警戒していたもうひとりの男は馬乗りになっている男の襟を掴み引き上げる。『どうせみんな死ぬ』とは言ってみたものの、ここで僕に殺されるのはイヤなんだなこいつら。
いや、逆か?
『ここまで生きたんだから今更誰かに殺されるなんてお断り』って事なんだろうか。
「……」
いつも遠見さんと居るせいなのかは分からないが、僕は不自然なほど違和感を感じることなくあの隕石を受け入れてしまっている。
「うわあぁっ!!ここコイツ鉄の棒!!思いっきり俺の頭目掛けて振り回しやがった!?マジでやべえよコイツ避けなかったら死んでたぞおいっ!!??」
殆どの人生を病院で過ごした遠見さんの人生は始まったばかりなのだ。
常に死を意識した生活の中で色んなものを諦め、それでも最期まで生きようと。
遠見さんにとっては隕石で死のうと病気で死のうと大差は無いんだと思う。
元々ソレはソコに在った物なのだから。
「うわああああぁあっ!!」
「おお、おいてくなって!?っ、待てよ!!」
変わっていく世の中で、変わらない遠見さんの在り方は奇跡なのだ。
僕なんかとは比べられないほど遠見さんの『生』は貴重で何物にも代えがたいのに、その生を僕は今預かっている。
だから。
そんな貴重な『生』で人殺しなんて……出来るわけが無い。
「……」
僕は逃げていく2人の男の背中を眺めながらそう思った。




