芝生でひとり、思うこと【遠見】
芝生が背中や腕に当たってくすぐったい。
木陰の中の私は時折吹き付ける気まぐれな風を頬に感じながら寝そべった。
「ふー」
おかしな……ヒトだと思う。
なんで高坂さんは私と一緒に行動してるのかな?
まあ、確かに私は助かってるよ?車も乗れないし鼻血は出すし。
でも高坂さんにメリットってあるのかな?
残された自分の時間を私と一緒にのんびり過ごしてて良いのかな?
「……」
死刑囚だという。
快楽殺人者だという。
「……」
全く想像出来ない。
今まで一緒に居て分かった事は『よく分からない』という事だった。
どう考えても理由も無く人を殺すようなヒトじゃない。
時々冷たいしヒネくれてるけど、根っ子の部分が道徳的なんだよねあのヒト。
だから一緒に居られるし安心出来てるんだと思う。
「…………」
私はあまり人生に未練が無い。病院生活が全てだった私は幼い頃から『先が無い』状況には慣れていたのだ。今がいいし今でいいのだ。
欲を出せばキリがないとよく聞くが、私には『欲』の在庫が切れていた。無いものは出せない。
多分二十歳の女の子にしては歪な程欲が無いように見えるだろう。
でも。
じりじり照りつける太陽とか芝生のトゲトゲしさとか……生々しく感じられるのは生きてるからで。
死なないでいる状態が生きてる事だと思っていた昔に比べたら胸を張って言える。
いま、生きてますよって。
やりたいこととかしなきゃいけない事なんて見つからなくても構わない。
こんなボケッとした人間の小さな自己満足だけど
最期にとなりで高坂さんが居てくれたら、
私はこの私のまま死ねそうな気がする。
つき合わせるのは少し気が引けるけど、高坂さんがそれでいいならそうして貰おう。
うん!それがいい!
そうしよ!
私は勝手に妄想し、端から見ればニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべていた事だろう。