真夏のダジャレは不快なモノ【高坂】
「高坂さん高坂さん」
「?」
あと5日。
僕と遠見さんは海沿いの堤防に倣うようにノンビリと歩く。
乗っていた車のガソリンが切れてしまい徒歩に変更、現在他の車両を物色中なのだが。
「……」
車道には無軌道に放置車両がいくつも散乱しているが、なかなかガソリンの残っている車が見当たらない。
「あれって近付いてるのかな?」
日差しを手のひらで遮り空を見上げる遠見さん。
まあ空を見上げる理由は他にあるのだが。
「鼻血止まった?」
「もうちょいっぽい」
遠見さんは先程から鼻血を出しており、イヤでも空を見上げるような格好を余儀なくされている。ぶつけたりした訳では無い様で、恐らくは病気の影響だろう。
自分の鼻を拾ったティッシュで押さえてもごもごもごもご。
青い空に白くうっすらとした影を展開する隕石は、大きすぎて距離感が掴めないのであるが絶望感だけはふんだんに振り撒いていた。
「っていうか高坂さん……いつまで『遠見さん』って呼ぶ気?」
鼻に詰めたティッシュをいじりながら僕の顔を見て遠見さんは言う。
「名前教えてくれなきゃ」
「おおーいっ!あのね!どんだけ私に興味無いの!?ちゃんと『凛子』だって言った!何回も!」
そう言えばそうだった。
「あ、遠見さんお腹空かない?」
「コーラー!!あんたの記憶はどうなってんだ!」
ふん、と鼻血の付いたティッシュを鼻息で僕に向けて飛ばす。
最初は感染するとか言ってたクセに、早くも遠慮なんて無駄なモノはどこかに落としてきたようだ。
「ちょっと近くのコンビニに食料残ってないか見てくる。そこの木陰で待ってて」
「はい待ってますよ!リンコがリンコの意志でリンコ的なスタイルでそこの芝生に寝っ転がります!」
僕は車道の脇のなだらかな坂をひょいひょいと駆け下りる。
「リンゴ食べたい!私リンゴ食べたいな!リンコがリンゴ食べますよ!」
芝生に寝っ転がった遠見さんは僕が名前を呼ばないのが余程気に入らないのかリンコリンコと連呼している。
「リンコが……レンコ」
「つまんない!ダジャレはんたーいっ!」
最初にダジャレを言ったのは自分だという事実はさておき。
遠見さんの耳はとても優秀なようだった。
「……」
琵琶さん達の事が全く気にならない、なんて事は無いんだろうに遠見さんはあれ以後一切口に出さない。
なにか思うところがあるのか……それともなにかしらの決着が心の中で付いているのか。
どちらにしても遠見さんは遠見さんのまま、鼻血を出しながらも笑顔を絶やす事は無かった。