オルタナティブ(1)
「・・・・・・・・・じー・・・・」
響の部屋にジャスティスとフランベルジュが転がり込んでから二日。
彼らが住むぼろアパートの前の電柱、その影に三つの人影があった。
暗視用の最新鋭のゴーグルを付けた小さな少女が三人の生活を凝視している。
「・・・・・・・・・・じー・・・・」
「なぁおい、るるる・・・・俺にも見せてくれよ」
「嫌っす。先輩は自分のゴーグル使えばいいじゃないっすか」
「俺忘れたんだよ・・・・てめー俺が物忘れ激しいって知ってていってんだろ」
「先輩うるさいっす・・・・あ、なんか言い争ってる」
「え?まじで?なあ、あのさ、ジャスティス、来てるんだろ?」
「そうっすね。おそらくあれがジャスティス・・・なるほど、いかにもジャスティスといった雰囲気のジャスティスなジャスティスっすね」
「ま、まじで?なあるるる、俺にも見せてくれよ頼むから・・・・俺つまんねえんだけど」
「絶対嫌っす・・・先輩いつもるるるのこといじめるじゃないっすか・・・・」
「はあ!?そんなん関係ねえだろ、同じ組織の仲間じゃん!」
「日ごろの行いが悪いからそういうことになるんすよ・・・・」
「静かにしろ、馬鹿者」
ごん、ごん。
少年と少女の頭にげんこつが振ってきた。
二人の横でため息をついているのは中年の男性だった。
髪型はオールバック、ところどころに混じった白髪と鋭い目つき、ついでに言えば刑事ドラマにでも出てきそうな出で立ち。縦に白いラインが入った、不思議なスーツを着ていた。口に銜えた葉巻・・・・だと思われる謎の物体を口の端で維持しながら二人をたしなめる。
少年の方は茶髪に短髪、着用しているのは同じくスーツだったが、その着こなしはかなりルーズであり、びしっと決まった男とは全く別の印象を受ける。
そしてあまりの痛みに涙目になりながら頭をさすっている少女。二人の男性に比べるとその身長は異常に小さく、130センチ程度しかない。
身長高めである二人と比べるとまさに子供のようにしかみえなかった。
男二人が純日本人であるのと比べ、少女は銀髪に赤い目をしており、その顔立ちは日本のそれではない。
首からは巨大なヘッドフォンをぶら下げており、服装は二人と同様だった。
全員着ている服装が同じことから、組織というものがそのまんまなんらかの組織であることが伺える。
事実彼らはある組織の一員であり、任務のためにこうして夜な夜なジャスティスとフランベルジュ、そして今回の事件の中心に居る秋風響という少女を監視していた。
中年の男、万理双樹は今回の任務にあまりいい印象を持っていない。
まず二人も子供を連れて行かなければならないという謎の指示。
そして一向に何も起こる気配のない現場。
何よりあの番号入であるジャスティスが同行しているのだ。
先日響が心理領域に引っ張り込まれた時も、ジャスティスの対応の方が早かった。
こちらは三人も居たというのに、子供二人に足を引っ張られて後手に回ってしまったのだ。
本部からはジャスティスとの接触は極力避けるようにとの達しでもあり、全くもって何も動く事ができないでいた。
そんな状況は万理にとってあまり面白い状況とは居えなかった。
少年、工藤空也もまたあまりよい気分ではなかった。
本部では常にいじめる相手として同行している後輩であるはずのるるるの方がゴーグルを使って面白そうにジャスティスたちを観察しているのに対し、自分はゴーグルを持ってきていないため何もすることがない。
かといって隣で葉巻を吸っているこの男に頼むのもどうかと思う。
「何だ?」
「・・・・おっさん、それタバコ?」
「いんや・・・・こいつは・・・・まあ、薬みたいなもんだ」
紫煙を吐き出しながらそんなことを言っている。
どうみてもタバコだったが、大人はすぐそうやって言い訳するのだと思った。
空也の年齢は十四。月並みな十四歳にしては、彼の言動はいささか子供っぽいといわざるを得ない。
そして最後、あまりに小さすぎて子供にしか見えない少女。
それは本名ではなくアダ名であり、彼女のミドルネームを含め名前全ての頭文字が「ル」で始まることを所以としている。
年齢は十二歳。本来ならまだ小学生である。
そんな三人がここで張り込みを始めて既に二日。
あまりに何も起こらないため、それぞれいろいろな意味で我慢の限界だった。
「なんで何も起こらないんっすかね・・・・・・・吟示ってもうちょっとホイホイ出ないんすか?」
「出ねぇよ・・・・お前ら、吟示のこともよくわからないで来てるのか・・・・?」
「俺まだ吟示のことあんま詳しく教えてもらってねーもん・・・・オッサンは?」
「オレか・・・?オレはもう吟示に関わって十年近いからな・・・そりゃ知識はある」
「へえー、すごいんすね、双樹先輩は」
「そ、そうじゅせんぱい・・・・?」
「はい!っす」
少女は満面の笑顔を浮かべている。
流石に万理もこんな少女に怒鳴りつけるのもどうかと思い、めまいがしそうな頭を抱えて説明した。
「・・・・・吟示ってのは、一度狙った人間を絶対に逃がさねえもんだ。それは吟示が人間を狙う法則にも関わってくるが・・・・まあともかく、一度吟示に狙われたらその吟示をつぶして領域を奪い返すか、奴等に食われるか、どちらかしかねえ」
「へー!オッサン物知りだな!」
「さすが双樹先輩っす!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ぽろりと、葉巻が地に落ちた。
万理双樹はそれなりに吟示との付き合いは長いが、常に前線、或いは調査など自分の足を使って行う作業が専任だった。それがなんでまたこんないきなり保育園・・・・は言いすぎだろうか・・・・小学校の教師のような真似をせねばならないのか。
とにかく何はともあれ、秋風響が吟示と決着を付ければこの任務ともおさらばだ。
万理としては、ただただ早期解決を願う事しかできなかった。
⇒オルタナティブ(1)
「うわっ!?どうしたのあんた!?」
秋風響は教室に入るなり、親友である近藤伊佐美にそんなことを言われた。
それもまあ仕方の無い事だと言える。響の右頬には巨大な湿布が張られていた。
その上左側には黒い眼帯が付けられているのだから、これはもう目立つしかない。
「うん・・・・・ぶたれたの」
「だっ、だれに!?」
「メイドさん・・・・・・・・・」
「へっ・・・・・・?」
「・・・・・・・・・なんでもない・・・伊佐美ちゃんおはよ〜・・・」
それだけ言うと呆気にとられている伊佐美を残して席に着いた。
あの事件から三日。あれからの出来事をとりあえず思い返してみる。
伊佐美はあの事件の後、まるで何事もなかったかのようにけろりとして学校に通ってきた。
響としては喜ばしい事だったが、伊佐美本人の心理領域と吟示の記憶も無くなっていた。
ゆえに彼女は本当に何事もなかったかのように、曖昧になった記憶を抱えながら学校に通ってきていた。
それに響は余計な事を言ったりはしない。あれは忘れているのならそれはそれでいいと思うから。
問題は一向に回復しない左目の視力だった。
厳密には『見えすぎて』困っているわけだが、翌日フランベルジュが用意してきてくれたこの黒い眼帯を外すことが出来ないでいた。
『あの領域になれない素人が世界を見つめ続けては貴女の精神が持ちません』
という物騒なフランベルジュのセリフに従って彼女はそれを片時もはずさなかった。
眼帯があれば見ないでいられるが、これがないと片方だけ目を瞑るという事ができない響はその景色から全く逃れる事ができなくなる。
フランベルジュとジャスティスは家に問答無用で押し入り、居候している。
フランベルジュのほうは家事を手伝ってくれるのでまだいいが、ジャスティスは特に何もしないし部屋でマンガを読んでばかりなので昨晩それを注意したのだった。
注意したのはよかったが、そのセリフがフランベルジュの何かスイッチのようなものに触れてしまったのだろう。逆鱗をごりごり擦ってしまったのだろう。
『なんかジャスティスさん、ニートみたいですね』
というセリフに対し、飛んできたのがこの湿布の原因となる平手打ちだった。
『マスターは・・・マスターはやれば出来る子なんですっ!!』
というセリフと共に飛んできたそれで響は壁まで吹き飛ばされた。
加えて言うならフランベルジュの力はとんでもなく強い。
未だにひりひり痛むそれを抑えながら響は窓の外を見つめた。
あれから三日。まだ、吟示は現れない。
『吟示がこのまま現れなければ数日であいつは自然消滅する。それくらいのダメージは与えてあるからな。だから出ないなら出ないでそれに越したことはねえよ』
と、ジャスティスは言っていた。
それが本当ならばこのまま行けば自分はもうあれと関わらないで済むかもしれない。
そうなればもう伊佐美のように誰かを巻き込むこともないだろう。
だが、胸に何かが引っかかる。
あれは、そんな風になあなあにして、終わりにしていいものなのだろうか?
見間違いでなければ、響はなんとなくだったが吟示の正体に心当たりがあった。
だから、それがこのまま何もせず消えていくとは到底思えなかった。
「ねえちょっと響、あんたほんとなんかあった?」
隣の席に座っていた男子を蹴倒して伊佐美がそこに納まる。
眉を潜めて心配そうに響の表情を伺う伊佐美に、勤めて明るく振舞う。
「大丈夫、ただちょっと・・・・ニートってなんだろうって考えてただけで」
「え・・・・・えーと・・・・うーん・・・・なんだろう・・・あんた難しい事考えてたのね」
「あ、あはははは・・・・」
苦笑して視線を黒板の方に移すと、ばったりと、最も視線を合わせたくない人物たちと目が合ってしまった。
とりあえず微笑んでみたが、少女たちはどたどた歩いてくる。
ああ、やってしまった・・・・。
「なにその顔〜!秋風さんって前から冴えないと思ってたけどそれはないわ〜ウケるんですけど」
「ほんとほんと」
いわゆるイジメっ子といわれる類の少女たちだった。
得に名前を挙げる必要はないので、金髪Aと茶髪Aとしておこう。
二人は響の眼帯やら湿布について目ざとく反応すると、わざわざ嫌味を言いに来たのだ。
「あのねえ、そんなのあんたらには関係ないでしょ?」
そしてもちろん、伊佐美が間に割ってはいる。
こうなってくるともはや響とは無関係な争いになってくるので、響は目を細めてため息をついた。
「何よ、学校サボってたくせに」
「一日だけでしょ」
「それでもサボりはサボりでしょ?つか、秋風さんの顔がやばいのとあんたとは関係ないですからー。元気になったからっていきなりでしゃばらないでくれる?」
流石にその言葉には伊佐美もカチンと来たのか、恐ろしい笑顔を浮かべたまま響のほっぺたを引っ張って金髪茶髪の前に引っ張り出す。
「あのねえ!あんたらみたいにお肌のケアもろくに出来てないようなブスと、このみなさいもちもちしたこの頭の悪そうな響の肌と、どっちがきれいだと思ってんのよ!?この子頭は悪いしトロいし何やってもダメだけどねえ、顔だけはいいのよ、顔だけは!!どう考えても負けてるからって、嫉妬してんじゃないわよドブス!!!」
さらには金髪茶髪を蹴飛ばし、ガッデムと言わんばかりに立てた親指を地に向けて指し示した。
「な、なんですってえ・・・・!?ちょっと聞きました!?伊織さん!!」
少女二名の視線は黒板の傍でぼんやりしていたリーダー格に向けられる。
伊吹伊織。
常に茶髪金髪ABCやらなにやらに囲まれているが、本人はそれらと比べると別格といえる美少女で、事実響きやら伊佐美やらは足元にも及ばないレベルだった。
成績優秀容姿端麗であり、さらにはお嬢様でお金持ちというパーフェクトガールだった。
なぜそんなのがこんな名前もないような茶髪金髪とつるんでいるのか、響と伊佐美には謎だったが、実際のところ伊織に響は嫌われているらしかった。
まるで汚いものでも見るような視線で響を見下すと、
「くだらないわ」
とだけつぶやいて教室の外に去っていった。
後を追うAB。
「くだらないわ だってさ・・・・いけすかないわ・・・あいつ」
「・・・・いひゃいよう、いひゃいよううう・・・・いふぁみひゃん・・・・」
「響、なんであんた泣いてんの?」
「ひっふぁってう・・・・ううっ・・・・ひっひゃってうよう・・・・うううっ」
そこでようやく伊佐美は自分が先ほどからずっと響のほっぺたを引っ張っていたことに気づいた。
ただでさえ眼帯と湿布で目立つ顔だというのに、右頬にも赤い痕が残っていた。
「うわー、こりゃひどい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あんたなんで落ち込んでるの?」
その原因がまさか自分の暴言にあるとは思わない伊佐美は、ただ響きを見て首を傾げていた。
ほっぺたをすりすりと擦りながら、秋風響の一日は始まった。
そんなこんなで、響はあれからも普通に日常生活をすごしていた。
それは多少、平均的な『普通の日常生活』とはかけ離れていたのかもしれないが。
大体響が他人と関わるのは、伊佐美とのおしゃべりかクラスメイトになじられるか。
そしてその両者の間に立たされて巻き込まれるか。
伊佐美がおせっかい焼きで親身になって怒ってくれるのはうれしかったが、その怒りが限度を超えると自分が一番被害にあうというおかしな構図にはいまいち納得がいっていなかった。
その日は結局一日中顔のことをなじられ、怒った伊佐美に引っ張られ、ということの繰り返しで、自分でも触ればわかるほど左も右も、頬が腫れていた。
涙目になりながらとぼとぼひとりで帰路に着く。
もちろん伊佐美は部活動があるので、一緒に帰ってくれる友達などいない。
帰り道、明日明後日は土日で連休なのでようやくゆっくりできると、スキップしながら歩いていると、空き缶に足を取られ転び、そのままころころ転がっていき、海洋プラントの河川に片足を突っ込んでしまった。
ずぶぬれになった靴を片手で持ちながら歩いていると、
「すいませーん!ボールけってくださーい!」
という小学生の声と共にボールが転がってきたので、
「とう!」
と、蹴っ飛ばそうとしてそれに乗り上げ、思いっきり転倒した。
しかもそのまままたころころ転がっていき、河川に今度は全身でダイブすることになった。
小学生たちに大爆笑されて涙目になりながらも歩き始める。
「うーん、お嬢ちゃんまたかい・・・あのね、ずぶぬれの人はモノレールに乗せられないんだよ」
と、駅員に乗るのを拒否され。
今度は涙をえぐえぐこぼしながら歩き始めた。
街中をずぶぬれのままとぼとぼ歩いていく。
行きかう人々に笑われていたが、それははじめての事ではなかったので見ている方も見られている方もあまり気にならなかった。
十分で帰れるはずの帰路に四十分かけた響は、ずぶぬれのまま自宅の扉を開いた。
「ただいまー・・・・」
「おかえりな・・・だから、貴女はどうしてそうやって余計な仕事を増やすのですか!?」
「うあーん!ごめんなさあーい!!」
「もういいですから脱いでください・・・・ほら、バンザイして」
「ばんざーい」
「全く世話が焼けますね・・・・」
下着姿になって部屋に上がると、週刊誌を読みながら寝そべっているジャスティスが挨拶した。
「よう」
「・・・・・・・・・・・・・きゃあああああああーーーーーーっ!!!」
どたどたどたどた。
そこで逃げるなり何か投げつけるのが女の子の普通のリアクションだとして、
「ジャスティスさんの変態!ばかあ!」
わざわざ駆け寄った響はジャスティスの顔面を蹴りつける。
が、ジャスティスは仮にも鍛えた男であり、響の攻撃程度何の意味も無い。
「マスターになんて事を!」
「なに昼間から仕事もしないで寝転がっているんですかあ!」
「いや、ごめん・・・明日こそハローワーク行くから・・・・」
そんな帰宅風景が終了し、フランベルジュと響、二人並んで調理を始める。
はっきり言ってキッチンはとんでもなく狭かった。コンロもひとつしかない。
まるでここが近未来都市であることを忘れさせるほどのレトロぶりだった。
この島にある巨大な海洋プラントはガスなどのエネルギー資源に変わる新しい資源のためのものとして存在しているというのに、そこの住民が未だにガスコンロを使っているあたり、響の世間とのずれ具合がよくわかる。
「まったく・・・貴女は普通に帰宅することが出来ないのですか?」
「ふつうにしてるんですよう・・・でも、なんか・・・・うまくいかないの」
「貴女のだめっぷりにはつくづく驚嘆しますが、料理の腕前だけは評価しましょう」
「わあ、ありがとう」
「他は全てだめだといっているのですが」
「うれしいな〜初めてフランさんに誉めてもらえた〜」
「あの、聞いていますか?」
「なあに?」
「・・・・・・その豆腐、半分切ってくださいな」
「ハイ♪」
ジャスティスは相変わらず部屋で週刊誌を読んでいる。
食事の用意が出来ると、二人の三倍も四倍も平らげ、そのまま寝る。
「本当にこの人だめ人間ですね・・・・」
「マスターはやる時はやるお方ですから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
フランベルジュの穏やかな眼差しは明らかに主人に対するものではなく、働かない息子を信じて毎日世話をする母親のような美しい目だった。
思わず感動してほろりと涙がこぼれる。
「がんばってください・・・フランさん!」
「・・・・・何のことだかわかりかねますが、了解いたしました」
テレビも娯楽もない部屋で、三人は食事を終えるとそのまま銭湯に向かう。
フランベルジュと響は同時に脱衣室で服を脱ぎ始めるが、響がすぐに脱ぎ終わるのに対し、フランベルジュはいつまでたっても脱ぎ終わらない。
複雑な構造のランジェリーと高速具のようなパーツが無数に装備されている上、まるで防具にしか見えないコルセットによって覆われているからだ。
それだけの重装備であの体型に見えるというのが既に奇跡である。
実際脱いだフランベルジュはすさまじく細かった。
二人は同時に湯船に浸かり、髪にタオルを巻いて、それから目を閉じた。
「・・・・・・・あのー、そういえば以前ここでお会いしましたよね?」
「YES」
「いえ・・・す・・・あの、ここ、よく来るんですか?」
「ここをはじめて利用したのは貴女と遭遇した夜です。それ以前に利用したことはありません」
「へ?すごい偶然ですね〜」
『おーれはじゃーすてーすーすごいやつーじまんのぎたーでえーぎんじをたおすう〜〜♪』
男湯の方から歌が聞こえてきた。
その声の主に二人とも覚えがある。
響は顔を真っ赤にしてぶくぶくと湯船に沈んでいったが、
「ブラボーです!ブラボーーー!!!」
と、フランベルジュは立ち上がって拍手喝采だった。
立ち上がったフランベルジュはもちろんすっぽんぽんであり、その美貌に周囲の女性たちの視線が集中するが、本人は全く気づいていない。
慌てて引っ張りおろすと、フランベルジュは不機嫌そうに響のほっぺたを指先で突っついた。
「は、はずかしいからやめましょうよぅ・・・・」
「何故ですか?マスターの偉大さを理解させる良い機会です」
ジャスティスのよくわからない創作歌は相変わらず聞こえている。
そもそも前々から疑問だったのが、フランベルジュの言うジャスティスの偉大さというのはいったいどこで、何を根拠に言っているのだろうか?
この人はもしかしたらジャスティスに何か幻想のようなものを抱いて日々彼のために努力しているという可哀想な人なのではないか・・・。
「フランさん・・・がんばりましょうね・・・・」
「だから、何を頑張るのか些か疑問なのですが」
こうして二人は同時に風呂から上がり、服を着て、同時にコーヒー牛乳を購入し、同じポーズで飲み干し、そのまま外に出て伸びをした。
一連の動作が恐ろしくシンクロしていることに二人は全く気づいていない。
遅れてやってきたジャスティスと共に部屋に戻る。
そこで三人は他愛のない話をし、早めに消灯し、響、フランベルジュ、ジャスティスの順序で川の字になって眠るのであった。
「って、何も起きないじゃないですかああああーーーーーっ!!!!」
がばっ!
消灯されていた明かりを点し、それからフランベルジュとジャスティスを引っ張り起こし、寝ぼけているのかぼんやりしているパジャマの二人を無理矢理ちゃぶ台に座らせると、それを両手で叩いた。
「こないじゃないですか!吟示!!!」
「・・・・・・・・・・・・・今何時?」
「まだ十時ですよっ」
「朝の・・・・?」
「夜のです!」
「ふわああああ・・・・響・・・・余計なことで起こさないでください・・・・」
「余計!?」
「くだらねえな・・・・寝るぞ」
「くだらない!?」
二人がのそのそと布団に戻ろうとするのを再び無理矢理引っ張り出した。
「あなたたちもしかして私をだましてこの家に居候しているんじゃないでしょうね?」
「そんなことねーよ・・・まじで・・・・」
眠たげに目を擦りながらジャスティスが答える。
「じゃあ今までどこに住んでたんですか?」
「・・・・・・・・・住んでねえよ」
「え?」
「だからどこにも住んでねえって・・・・おれら住所不定だもん・・・・なあ、フランベルジュ・・・」
「むにゃむにゃ・・・・はい、マスター」
「・・・・・・・・・・・・・ニートじゃなくてホーーーームレスじゃないですかあああああああっ!!!」
響の叫び声がこだまする。
「な、何を騒いでるんだあいつら?」
「今すごくいいところなんすから、邪魔しないでくださいっす」
それをるるる、万理双樹、工藤空也の三名は監視していた。
監視三日目、未だ何も起こらず。
万理は携帯電話にそう打ち込むと、楽しそうに様子を伺う二人の子供を見て頭を抱えた。
「・・・・・頼むから早く出てくれ・・・吟示よう・・・・」
万理の願いは届かず、その日も平和そのものだった。
だがしかし、その翌日、事件が伸展したのは、その万理の願いが叶ったのかもしれない。
何はともあれ、響は吟示というものがなんなのか、身をもって味わうことになるのだった。
「ホームレスじゃねえ!夢追い人だ!」
「おなじじゃないですかあ!!」
そんなこんなで、平和な夜は過ぎていくのであった。
つづく。
あとがきおまけまんが
〜真人間への道〜
ジャスティス「おれもそろそろ、何かマトモな働き口を探さないとな・・・・でも、なんでだろう・・・やる気がでねえんだ・・・フッ・・・だめなおれを笑ってくれ・・・」
フラン「マスター、こんな本を買ってみたのですが」
ジャスティス「何々・・・この世界は日本引きこもり協会に侵略されている・・・な、なんだってー!?」
響「そうだったんですか!!!」
ジャスティス「おい、この野望にくらべたら吟示なんてちっちぇえな!!おれはこの野望を砕くために修行するぜ!」
響「どこで?」
ジャスティス「ここで」
二人「・・・・・」




