その名はジャスティス(2)
「はっ・・・・はあっ・・・・はっ・・・・・」
夜の街、だと思われた。
光源が何であるのか、そもそもよくわからない。
自分が明るい場所にいるのかどうかもわからない。
近藤伊佐美という名の少女は、制服姿で町を走り回っていた。
どこまで行っても、どこまで行っても、
「なんで・・・・・!?」
そこはまるで別世界のようだった。
停止したモノレール。動く事のない光源。停止した時。誰も居ない町。
散々走り回って、全身汗だくになって伊佐美はビルに背をついて座り込んだ。
乱れる呼吸を整えながら額の汗をぬぐって俯く。
「ここ・・・・・・・・どこ・・・・?」
誰もいない町。まるで暗い森に迷い込んでしまったようだ。
それでも少女は嘆く事も諦めることもしなかった。
いつでも伊佐美は強くあることを望んでいた。
秋風響という、友人の顔が脳裏に浮かぶ。
自分が居なくなったらきっと彼女は悲しむだろうな、と。
だから立ち上がれる。明日の献立はなんだろう、とか。
だから歩き出せる。夏休みは何しよう、とか。
そんな、他愛にない日常に、彼女は帰るべき場所をイメージする。
「ふうっ・・・・・・」
近藤伊佐美という少女の美点といえば、その諦めの悪さだった。
その諦めの悪さは秋風響の欠点とよく似ている。
二人はある意味似たもの同士だと言えた。だからこそ友人になれたのかもしれない。
ただ違うところといえば、響と違い伊佐美は諦めないことで状況を打開し、切り開いていくことが出来る・・・そういう人間であるということ。
それだけの才能も実力も、努力もあった。
頭はあまりいいほうだとはいえなかったが、それなりに状況を整理する。
「ここは・・・・・ポートアイランドだと思うんだけど」
町並みはどう見てもポートアイランドそのものだった。
無人であり、白黒の世界になってしまっていることを除けば。
再び走り出す。とりあえず学校に向かってみようと考えた。
「・・・・・・・・・なんでこんなことになったんだっけ」
考え込む。
そもそもここにつれてこられたきっかけがいまいち理解できなかった。
記憶が不透明というか、その出来事そのものを思い出したくない気がする。
なじみの場所であるはずの学校も無機質な世界では不気味に見える。
常人ならば絶望して当然の状況で、彼女はまだ走り回っていた。
立ち止まることを知らないように、町から町へと。
そんな彼女を見つめる影があった。
それが学校の屋上から伊佐美を見下ろしている。
今すぐにでも伊佐美に襲い掛かりそうなその影だったが、
伊佐美が諦めず走り回るのを見て、それが出来ずにいた。
彼女が学校を去っていくのを見届けると、影もまた、地に吸い込まれるように消えていった。
⇒その名はジャスティス(2)
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
ぴんぽーん。
「・・・・・・・・・・・・・・」
ぴんぽーん。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・はあ」
響は何度もチャイムを押していた。
たった一人の友人である近藤伊佐美が学校を無断欠席した。
伊佐美はそんなことをする人物ではなかった。むしろ毎日学校行きたくて仕方がないような少女。
それがいきなり無断欠席とは、どういうことかと心配しての行動だった。
響は今、伊佐美の家があるマンションにやってきていた。
先ほどから何度かチャイムを押しているのだが、誰も出てくる気配がない。
伊佐美は両親と暮らす一人っ子だった。学校が終わってすぐの時間だったので父親はいないにしろ、母親くらいはいてもいいと思うところだったが・・・。
もう一度チャイムを鳴らそう。そう思って指をボタンに向けた時だった。
「あっ」
ゆっくりと扉が開いた。
そこには泣いていたのか、目を赤く晴らした伊佐美の母親の姿があった、
その姿に思わず驚いて言葉がなくなる響。
「響ちゃん・・・・・伊佐美が・・・・伊佐美が・・・・・」
「え・・・・・・・?」
響は伊佐美の家に何度かお邪魔したことがあった。
伊佐美の母とも当然顔見知りである。
伊佐美の母は娘同様気前のいい元気な人物で、何度か食事を一緒にしたこともある。
夕飯では彼女と一緒に料理を振舞ったこともあった。
遠く離れた故郷に居る母親とはずいぶん違った性格だったが、それでもどこか暖かさのようなものを感じさせてくれる、そんな人だったはずだ。
それがいきなり泣いて出てきたものだから、響は困りに困った。
リビングに案内され、泣いている伊佐美の母を慰めながら話を聞くことになった。
「伊佐美ったら・・・・まるで人が変わったみたいになっちゃって・・・・」
「どういうことなんですか・・・?」
話の全容はこうだ。
伊佐美は昨日の放課後までは元気だった。それは実際に見た響が知っている。
その後、家に帰ってきた伊佐美はすっかり落ち込んでいて、元気がなかったという。
朝になってもまるで起きてこないので様子を見に行くと、学校にも行かないわ質問にも答えないわで突然人が変わってしまったように陰気・・・というより何もかもやる気がなくなってしまったらしい。
それはあの伊佐美から考えれば信じがたい状況だといえた。
「それ本当なんです・・・・よね」
「・・・・・・・・・・どうしよう、響ちゃん」
「・・・・・会って話をさせてくれませんか?」
顔を見るのが辛いという母親を置いて一人で伊佐美の部屋に向かった。
ノックをして声をかけても返事がないので、悪いとは思ったが勝手に入ることにした。
伊佐美はベッドの傍らにうずくまっていた。
締め切られたカーテンが全ての光を遮断し、彼女を世界から遠ざけているように見えた。
それだけで既に響が知る近藤伊佐美という人物とはあまりにもかけ離れていた。
「伊佐美ちゃん・・・・大丈夫?」
伊佐美は答えない。駆け寄ってひざを突いて顔を見る。
何も考えていないというか、なんとも無気力な表情をしていた。
肩をつかんで軽くゆすっても、一向に響を見る気配がない。
胸がずきずきと痛んだ。
「ねえ伊佐美ちゃん、何があったの?困ってるなら手伝うから・・・教えてよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ねえ、伊佐美ちゃん!ねえっ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・あんた・・・・」
「伊佐美ちゃ、」
「誰?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
それだけ言うと伊佐美はそっぽを向いてしまった。
なんと声をかければいいのかさっぱりわからなくなった。
響はそのまま、その部屋から逃げるように飛び出した。
リビングに戻ってカバンを取ると、挨拶もそこそこに逃げ帰った。
一体何が彼女の身に起きたのかもさっぱりわからないまま。
走り回る体力なんかないのに、走りに走った。
街中を駆け回り、やがてすぐに体力の限界になって、苦しい呼吸を抑えるように座り込んだ。
「・・・・・・・・・・伊佐美ちゃん・・・・」
何度もその名前を呼んだ。
たった一人の友達から『誰?』呼ばわりされてしまった。
悲しくて寂しくて苦しくて・・・何よりそんな風になってしまった彼女が哀れだった。
そこで悲しいから涙して、落ち込めばいいところなのに。
立ち上がった響の目は苦痛や不安に満ちていたが、立ち止まることはしなかった。
すぐに思いついたのは昨日見た黒服の男のことだった。
彼は何かを知っているに違いない。そう思って町を走り回った。
体力なんてないから十分走っただけでバテバテになる。
七月の太陽が照りつける中、響は走った。
何の確信も予感もなく、ただ自分に出来ることだけを探していた。
たった一人の友人に何かしてあげたい。そうなった理由を知りたい。
結局のところ、広すぎるこの島から特定の人物を探り当てるのは至難の業。
見つかることもなく、響は一昨日よりも遅い時間に帰宅した。
夕飯も作らず、彼女はひたすら一晩中親友の事を考えていた。
「しかし、あれだな。どうしたもんかね、今回は」
響が捜し求める男は、オフィス街のビルの屋上に立っていた。
町全体が見渡せるほどのそこから、何か目には見えないものを見つめていた。
傍らにはメイドのフランベルジュの姿もある。
「おれ、あの伊佐美って子に警告したんだけどなあ」
「警告したところで聞くかどうかは相手の権利ですからね・・・・マスターに不備はないかと」
「そりゃあ、そうなんだけどよ。なんか納得いかねえところはあるよな」
男は近藤伊佐美に降りかかるであろう不幸を事前に予見していた。
彼はこういった事件に関してはエキスパートであり、経験も豊富。
だからこそ、彼女に警告したのだが、彼女はそれを自らの意思でつっぱねたのだった。
そうなってしまうと実際、彼にもどうしようもなくなってしまう。
助かる方法を教えてやったというのにつっぱねられたら意味がない。
だがその方法を知り、知ったとき、それをつっぱねた近藤伊佐美のことは評価していた。
自らが犠牲になると知っていながら、その方法を拒否した強さ。
「仕方ねえ」
男が踵を返して歩き出す。
「まだ生きてたら、助けてやっかね」
翌日、響は学校を休んだ。
休んだというよりは仮病を使ったのでさぼったというべきだろう。
午前中から私服を着て町中を走り回った。
あの黒服の男を探すために。
「・・・・・・・・・・・はあ」
彼は不吉なことを言っていた。
伊佐美は、自分のことがわからなくなってしまうだろう、と。
それが実現してしまった今、彼を探すしか既にあてがないのは確かだった。
それだって見つけ出してどうするのか、なんてことは何も考えていない。
響はその気弱な性格とは裏腹に、考えるより先に行動するタイプだった。
「はあ・・・・はあ・・・・はあ・・・・・」
伊佐美のことを思い出す。
自分はきっと、彼女に憧れていたのだと思う。
いつでも太陽のように明るかった伊佐美。
生きる喜びを全身から放っていた。
それは言いたい事も言えずに、引っ込み思案な自分からすれば、眩しすぎる程の花。
いつも助けられてきた。
だから今度は助けてあげたい。
きっと助ける事ができるほど自分の力はたいしたものじゃない。
いつも何も出来ないでへこたれていた自分だから。
それでも、だけど、友達の、ただ一人の親友のために、何かできることをしなくては。
そうすることが、自分が彼女と共に居てもいい理由になるのだと、そう思う。
日差しは強い。
男はさっぱり見当たらない。
そうしてしばらく走り回った。
会いたい。もう一度。元気な伊佐美ちゃんに会いたい。
強く、胸の中でそれを思う、
なれば、会いに行けばいい。
無意識にそんな事を考えているような気がした。
俯いたままの視線を上に上げると、
「へ?」
目の前の景色は一変していた。
ここはどこだろう?と周囲をうかがってみる。
一見はポートアイランドの市街地・・・自分がつい先ほどまで見ていた景色と変わらない。
ただ、大きく違うことがあるとすれば・・・・。
「しろくろ?」
色がなかった。
あまりに古すぎる映画のように、何者も存在しない無の空間。
それを一通り眺めて、それから響は首をかしげた。
「なんともない?」
それが何よりも疑問だった。
あの臆病でどうしようもない自分が、こんなところにいきなり放り出されたというのに、おびえるどころかここでなら伊佐美を探し出せるような気がしていた。
響にとってそれはかなりの異常事態だった。
歩く。右足から。次に左足。
両手、動く。五体満足。
では、探しに行こうか。
響は誰も居ない町、おそらくさまよっているであろう親友を探して走り始めた。
「それにしても、ここがどこだかさっぱりなのに知っている気がする、私」
きょろきょろと、周囲を眺めてみる。
人の気配がなければ人工的な町などただの迷宮に変化する。
だというのに恐れもなければ不思議と懐かしい気持ちにすらなってくる。
そこは、まるで自分のために用意された町であるかのように。
「響!?」
「うん?あ、伊佐美ちゃんだー」
「伊佐美ちゃんだー じゃないでしょ?何やってんのこんなところで」
「え!?伊佐美ちゃんだ!」
響同様、疲れた様子で伊佐美は白黒の道を歩いてくる。
慌てて駆け寄ると、伊佐美は確かに響の知っている伊佐美だった。
しかしここに伊佐美がいるとなると、あっちにいた伊佐美は何だろうか?
「あんたなんでここにいるの?っていうかどうやって来たか覚えてる?」
「うーんとね・・・こう、はあ〜って疲れて、うーんって顔あげたら来たの」
「あんたふざけてんの?」
「え!?違うよ・・・本当に・・・・」
二人は同時に視線を真横に向けた。
ついさっきまで何も居なかった場所に気配を感じて視線を向けると、そこには一冊の本が落ちていた。
「本?」
二人の声が重なった。
それはハードカバーの白い日記帳のように見えた。
それが何故日記だと思うのか、その理屈はさっぱりわからない。
ただアレはおそらく、日記なのだと二人ともそう感じていた。
日記がひとりでに開き、そこからいきなり手が現れてから、二人は同時に慌て始めた。
「手!?」
再びハモる。
それは装甲に包まれた腕だった。
本は白い煙のようなものに覆われており、その曖昧に隠された境界線からはいでるようにしてその腕は伸びてきていた。
二人は同時に後ずさりする。それはこの世界では特に不思議ではないとなぜか思えたが、どう考えても現実的にはありえない状況だから。
「走るよ!」
「あ、ひゃあ!」
真っ先に動いたのは伊佐美だった。
響の手を取って弾かれるように駆け出した、が、
「はや、はやすぎ・・・・ああっ!!」
こてん。
などとかわいらしい効果音が出そうなくらい、響はあっさりと転んだ。
しかもそれにしばらく気づかなかった伊佐美に引きずられて。
「あんたなにやってんのよ!?」
「うー・・・・伊佐美ちゃんはやすぎるよ・・・・」
「早く起きなさい!ほら、なんか出てきてるからっ!!!」
「あ、騎士だ」
「いやいやいやいや、いいから起きる!はい、スタンダップ、!!!」
伊佐美の手を借りて起き上がった響をつれ、今度はペースを落として駆け出した。
背後では本から『何か』が現れようとしていた。
それは一言で言い表せば騎士だといえる。その理由は直接その空間に居なければわからない。
ただ風貌からすればそれは騎士に近いと言えた。
双頭に四本の腕を持ち、それぞれに巨大な槍を構えている。
下半身は存在せず、白い霧が本のページに続いていた。
どう考えても化け物か何かの類である。異常事態だ。怪奇現象だ。
それを言えば既にこの世界そのものが異常だといえたが。
「ちょっと、なにあれ!?まじ意味わかんないんですけど!」
「ふえー・・・・早いよう・・・・もうだめ・・・・」
「え・・・このペースでもだめって・・・・あのねえ、もう少し根性出しなさいよ」
「わかってるよ・・・わかってるけどお・・・・ふんんん〜・・・・・!」
「息止めてどうすんの・・・・?」
二人が雑談している内に騎士は上半身だけの姿で追いかけてくる。
四本の腕であたり一帯を破壊しながら突き進んでくるその様子はまるで掘削機かなにかだ。
さすがに血の気が失せた二人は慌てて反転し、駆け出した。
「まじで意味わかんないんですけど!!!理解不能なんですけど!!!」
「はふはふ・・・・」
「ラーメンか!」
「ちがうよ・・・はふ・・・・・呼吸だよ〜・・・・」
「ああそうかい・・・・あ、こっちよ響!」
ビルとビルの隙間。
ポートアイランドのオフィス街には大量のビルが所狭しと並んでいる。
それゆえにビル同士の隙間が極端に狭い場所がいくつかあった。
そんな場所のひとつに伊佐美は響を引っ張り込んだ。
「あの図体ならここは入ってこられないでしょ」
「そうかなあ・・・・・・」
騎士はその細い路地の前で立ち止まる。
「ほらね」
「あ、でもなんか・・・・」
そしてビルとビルの間、つまりコンクリとコンクリの壁の間、そこに両手を突っ込み、
「うそー?」
強引にビル同士を引き離したではないか。
つまりそれはその間が広くなったということで。
「ありえないんですけど」
「にげよ?」
「そうね!!!」
ビル同士を引き離したと、というのは目の前で見ていても理解しがたい状況だった。
ビル同士が勝手に離れていったというか、空間がぐにゃりとゆがんだように見えた。
既に伊佐美の頭の中は混乱していたが、それでも目の前に友人である響がいる。
だったらここはいつものように自分が彼女の手を引いてゆかねばなるまい。
「どっかに出口とかないの!?もう!」
「出口は・・・・たぶんないと思う」
「あんたここのことなんか知ってるの!?」
「知ってるっていうか・・・・わかんないけど・・・・・」
二人は細かった路地を抜け、再び大通りに出た。
追い詰められたわけではなかったが、振り返って騎士が路地を出てくるのを見届ける。
やはり明らかに自分たちを追いかけてきている。それは既に確かな事だ。
「まいったなあ・・・・・・もう」
伊佐美はそれを見てため息をついた。
こうなるかもしれないということは、実は少しばかり予感していたのだ。
まさかそこに響まで現れるというのは予想外だったが。
意外だったのはその響が酷く冷静なことだ。
彼女の臆病っぷりは自分が一番よく知るところであるが・・・・。
「考えても仕方ないか・・・・・」
どちらにせよこのままじゃいずれ響も自分も疲れて追いつかれることだろう。
あの騎士に体力というものが存在するかどうかは怪しいが、自分たちはこうして疲れている。
何とかしてあれから逃げ切るか、出口を探さない限り明日はないだろう。
騎士は一歩一歩・・・というのは厳密にはおかしい表現だが・・・近づいてくる。
息を呑んでそれをにらみつける。
何とかしなければ。何とかならないだろうか。何とかならないよなあ。
「おおー、一晩もここに居て平然としているとは、君は見所があるな」
声が聞こえた。
その声は二人のすぐ後ろから聞こえたものだった。
背後、いつからそこに立っていたのか、長身の男が居た。
おそらく黒衣。そしてそれは響が捜し求めていた人物の姿でもあった。
男は唖然とする二人の頭に手を置くと、わしわしと撫でた。
「なかなか根性あるな、よし、誉めてやろう」
「・・・・・・・・・あんたっ!?あんただろ、あたしをここに連れてきたの!?」
「そうなんですか?」
「エ?アレ?おれ助けに来たのにいきなり犯人呼ばわりかよ・・・・うわーテンション下がるわー・・・・欝だ・・・帰って寝ようかな・・・・」
そのままそそくさと去っていこうとする男の両手を二人で片方ずつつかんで引っ張り戻す。
「ふざけんなあ!!なんとかしろー!!」
「なんだよ犯人呼ばわりしたくせに・・・犯人はこの中にいるってか?」
「そんなのどうでもいいからあれをなんとかしてよ!」
伊佐美が指差した先には白い装甲の騎士が浮いている。
男はそれを見てサングラスを外すと、最初からそうするつもりだったのか、手を天に掲げた。
そして言う。それは自分自身にかけるまじないのような言葉だった。
「仕方がねえ、やるか」
手のひらに光が集まっていく。その光は男の全身からあふれ出ていた。
風のように巻き起こすそれが男の髪を靡かせ、手の中に何かを形成していく。
二人は慌てて背後に下がってその様子に見とれていた。
それは、光が構築するひとつの造形美だった。
それがなんなのかさっぱりわからない素人から見ても、その美しさは本能的に理解できる。
青白く輝く幾重にも折り重なる光の板たち。
「おまえら、音楽は好きか?」
「え?」
「YESかNOか、訊いてんだよ」
二人は同時に頷いた。
それを見て満足そうに男は笑う。
「だったら、聞いてけ!」
光が溢れるように空に立ち上っていく。
そこから引き出された一振りの武器・・・・・・ではなく、それはギターだった。
「蒼ノ詩ッ!!!」
その名を呼ぶ。
それは、光を集めて作られたような輝くクリスタルパーツを纏う、スカイブルーのギターだった。
ギターと呼ぶにはその形状は異常だと言える。
まず何よりも長大であり、演奏のしやすさよりも相手を殴るなどといった鈍器としての性能に特化していることが伺える。
そしてそのギターには、弦が存在しなかった。
既に楽器としての役割を果たしていないのだ。
だが、しかし・・・・。
「・・・・・・きれい」
それは見る者の心を片っ端から奪うような神の造形美。
人が、同じ人に対し思いを伝えるために作られた繋がるための道しるべ。
それは武器としては三流以下であることに違いない。
ただしここは、『この場所』では、それは大した問題ではない。
その武装性能としての劣化を補って余りあるほどの夢見る気持ちが溢れているのだから。
その名は蒼ノ詩。
その男が手にする唯一の世界と繋がるための武器。
そして世界そのものを破壊するために必要な、理論武装。
形を成し、彼の手の中に納まったそれをクルリと回転させ、構える。
まるで予告ホームランのように。
「HeartAndMind・・・・」
そして告げる。
「WithRaptAttention・・・・!」
そして告げる。
「Let'sDanceッ!!」
蒼い光と共に舞い降りた男。
その名はジャスティス。
その名はジャスティス。
ジャスティスは笑顔を浮かべて騎士の前に躍り出る。
鼻歌を口ずさみながら。楽しそうに。
それが、戦いの合図だった。
てなわけで、ルビルビな感じで書いていくことになりそうです。
前作があんまりにも暗くて自分でもやる気が起きなかったので今度は趣味でありとあらゆるものをハチャメチャにやっていこうかと思います。
あとがきおまけまんがとかはもうちょとしたらやろーかなー。
では失礼。