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闇夜に逢いましょう(2)



ねえ、聞こえる?


私の声が・・・・・聞こえる?


「あなたは誰・・・・・?どうして私を呼んでいるの?」


私はあなた・・・・あなたはだあれ・・・?


「私は・・・・響。秋風響・・・・・」


あなたは秋風響・・・・じゃあ、わたしも秋風響・・・・。


ねえ、ずっと呼んでいたの・・・・気づいて欲しいのに・・・あなたは目を逸らしたまま・・・。


ねえ・・・・・私の声が・・・・聞こえる?


「私はあなたじゃない」


あなたは私。私はあなた。


「私の心は私だけのもの」


呼んでいるんだよ・・・ずっと・・・・あなたのことを・・・・。


「いや・・・・」


後ろを見て・・・私はいつでもあなたの後ろにいる・・・・。


「いや・・・・・・・」


私とあなたは同じもの・・・・ひとつの根源に繋がるもの・・・・。


「いや・・・・・・・・・・・」


目を逸らさないで・・・・・私を見てよ・・・・。


「来ないでっ!!!」


・・・・・・・・・。


「私は私のままでいたいの!私は私が好きなの!今の自分でいいっ!!


・・・・・・・・・・・・・うそつき。


「ウソじゃない!!!」


うそ。それはうそ。あなたは本当は何も納得してなんかいない。


「あなたに何がわかるの!?」


わかる。わかるよ。私だけはわかってあげる。わかってあげられる。


「・・・・・・・・・・・もうやめて」


私のこともわかってよ。わかってくれるのはあなただけなの。


「聞きたくない」


・・・・・・・・・・・どうして私の事を見てくれないの?


「やめて!」


そんなに私、いらない子だったの・・・・・?


「そんなことない・・・・でも・・・・」


わかった・・・・・・あなたは私を否定するんだね・・・・。


「・・・・・・・・・・」


でも忘れないで・・・・私はあなたのすぐ傍に居る・・・。

いつでもずっと・・・あなたの傍に居る・・・・。

あなたが私から目を逸らすのなら・・・・。


いつかあなたの目の前に、立ってみせるから。



闇夜に逢いましょう(2)




「づうっ・・・・がっ・・・・ア・・・・っ・・・・ああ・・・・あっ・・・・・・!」


凄まじい激痛に目を覚ました。

破裂しそうなほどに高鳴る心臓の動悸。滲み出てくるような鈍痛。

意識のレベルが低くなる。どこかへ連れ去られてしまうような感覚。


左目から、暗闇が、泥のように、あふれ出して、


「あ・・・・あああぁぁぁあああああっ!!!あああーーーーーーっ!!!!!」


左目を両手で押さえても泥がとまらない。

何度も掻き毟り、何度も拭っても泥がとまらない。

とまらない。とまらない。とまらない。とまらない。

とまれ。とまれとまれ、とまれ。とまれとまれとまれとまれ、とまれとまれ、とまれ。


「が・・・う・・・・・・ア・・・・ぎ・・・・ウ・・・・っ」


世界が崩れそうな衝撃。眼球に無数の槍を突き刺されるような衝撃。

耐え切れず眼帯を放り投げ壁に叩きつけた。

収まらない激しい痛みと意識の昏睡。今自分がどこで何をしているのかもわからない。


「いた・・・い・・・イタイ・・・・・・いた・・・いい・・・・っ!」


左目を開く。

信じられないほど渦巻いている世界という名の情報の集まり。

様々な意思、思惑の中に鼓動する胎児のように闇はどこにでも眠っている。

あまりの気分の悪さと激痛に全身が震え始める。

涙と泥を零しながら上も下もわからないまま這いずり回る。


「たすけ・・・・いたいよう・・・・いたい・・・・いたいいいい・・・・・・・・」


目を閉じる。

泥をこれ以上外に出してしまわないように。

しかしそれでは痛すぎる。誰かに助けて欲しい。しかし一体誰に?

暗闇の中、誰かの声が耳に届く。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


ゆっくりと顔を上げる。そこに誰がいるのかわからない。

震える全身を包み込む暖かい感触。

気づけば目の前にはフランベルジュの顔があり、強くその腕に抱きしめられていた。


秋風響は、薄暗い部屋の隅に蹲って震えていた。


「響・・・・落ち着いた・・・・?」


ずきりと痛む左目を抑えながら小さく頷いた。

胸に顔をうずめ、声も出さずに涙を流した。

震える肩を抱き寄せるフランベルジュの指に力が篭る。

目の前で大事な人が苦しんでいる時に何も出来ない自分に対する怒り。

そしてそれを押し付けてしまったことへの責任感。

何よりも愛しい妹が泣いていることが悲しい。


秋風響は、既にこの世の人間とは言えない。


仮にこの世界には表と裏があるとしよう。

表側は誰もが過ごす、意識できる世界。

そして裏側は吟示や所有者が自在に活動出来る幻想の世界。

響の体は徐々に、ゆっくりと、穏やかに、しかし確実に幻想に蝕まれていた。

三年前、ジャスティスを失ったあの日から響は時に凄まじい痛みに襲われる。

いつ来るかどうかもわからない狂気とゆっくりと強く濃くなっていく呪いの痣。

もしかしたら命すら長くないのかもしれない。前例のないことゆえに誰にもそれはわからない。

ただ、痛みと理解不能な夢だけが彼女を蝕んでいく。


「大丈夫よ・・・・わたしはここに居るわ・・・・貴女の傍を離れたりなんかしない・・・大丈夫・・・・・わたしがずっと傍に居てあげる・・・貴女の心を守ってあげる・・・だから泣いていいのよ・・・響」


何度の小さな背中を撫で、頭を胸に強く押し付けながらフランベルジュは呟く。

言い聞かせるように、穏やかに、やさしく。


「・・・・・・・・もう、大丈夫・・・・ありがとう・・・・いつも、ごめんね?」


「・・・・・よいのです、マスター・・・・さあ、ゆっくりと休んで下さい」


そこにきて響はようやく自分が組織に割り当てられた部屋のベッドに眠っていたことを思い出した。

フランの言葉に頷くとベッドに入り、よほど疲れていたのかあっさりと眠りについてしまった。

フランベルジュもまたエプロンドレスを脱ぎ、下着姿で響の隣に横になった。

まだ恐怖と痛みに震える小さな体を抱き寄せるように、二人は寄り添って眠りにつく。


決して消えはしない苦痛と苦悩を、少しでも和らげられるように。



数時間前。



「お な か す い た !」


結城綺羅の叫び声が伊織の部屋に響いていた。

ポートアイランドの観光を終えた刹那一行は組織に戻り、伊織に招かれていたのである。

椅子にかけた伊織、その前に車椅子に座った綺羅とそれを支える刹那が立っている。


「そうね、そろそろ夕飯の時間だもの」


すかさずの綺羅のセリフにも全く動じない伊織に思わず背後のるるる、空也から歓声が上がる。


「それで、結城刹那君。君たちにはこの組織のことについて説明しなければならないわね」


「ああ・・・・って、ジャスティスのやつはどこに?」


「彼女は先に部屋に戻っているわ。あなたたちもすぐに案内するから」


常人には気づけないであろう一瞬の伊織の表情の変化。その変化を見逃さず察知した刹那であったが、しかしそれには触れずゆっくりとうなずいた。


「吟示、そして所有者についてはどれくらい理解しているのかしら?」


「・・・・・・・オレに分かる事といえば・・・・所有者ってのが綺羅やジャスティスみたいな連中だってことくらいで、吟示ってのは・・・・わからない」


「そう・・・・綺羅さんのほうは、そうでもないのよね?」


伊織の質問に腕を組んだままそっぽを向く綺羅。

しかしそれはどちらかといえば肯定と取る事の出来るリアクションだった。

綺羅としてはまだ刹那にそれを知られることをあまりよく思っていないのだ、当然である。

伊織はそれを見越し、しかし微笑んで言葉を続ける。


「所有者、それは自分の心を世界に広げる事の出来る人間」


「世界に自分の心を広げる?」


「ええ・・・そうね、例えばだけど、あなたにも他人に踏み込まれたくない思い出とかあるわよね」


思い返す。

十年近く前の事。血まみれの道路、血にぬれた自分の手。

誰もいない町、置いてけぼりの夕焼け、様々な景色。

時計の針が刻む音、踏み切りの警音、真夏の風。

胸がじくりと痛む古い記憶。誰にも話したくない、言葉に出来ない思い出。

踏み込まれたくないエリア。それは例えば嫌な思い出でもいい。

思い返したくない出来事。忘れてしまいたい思い出。大なり小なり人はそれを持っている。

あるいは己のアイデンティティ。自分はこうであるというものを侵されること。

自己否定。他人からの棘のある言葉。傷つけられるという事。

自己の存在に疑問を抱くという恐怖、他人には言われたくない言葉。

繊細な心、遷ろう世界の景色、人の価値観、己の大儀。


他人と自分が違うという事の根本に位置する、自分と言う名の世界りょういき


「それは誰かに穿り返されたくないだろうし、それを誰かに知られたくもないでしょう?誰かに何か言われたからってそれは変えられない、あなたの中にあるあなたのためだけの価値観」


「オレの価値観・・・・・・・・」


「価値観と感情こそ人がヒト足りえる根拠。様々なものとの境界線。価値観と感情がなければヒトは一つであり全てでありしかし己ではない何かに成り下がる」


「価値観・・・・?それが、心理領域?」


「そう。心理領域とはその人の心のうちにある世界そのもの。でもそれは基本的に内側に向いているものなの。ヒトは己の内面を無造作にさらけ出したりしない。信頼した人間、友や愛するヒトにしか己の心のうちを明かすことはない・・・例え大切な人であったとしてもさらけ出すとは限らない。それを外部にさらけ出し、世界に伝える力・・・それが『心理領域』」


「つまり・・・・自分はここにいるって、叫んでる?」


「面白い喩えね。世界というのは拮抗された絶妙なバランスの上に成立しているわ。多くの人間が守るべき常識や戒律、様々な法則。それらが一つでも狂っていたら世界は今の姿とは違ったでしょうね?」


「たとえ話だろ?そもそも、心だの価値観だのが外部に流れたところで『あんなこと』になるのか?」


「なるのだから仕方ないわ。外に漏れた価値観は『情報』となり『情報』は『世界』を組み替える要素になる。組み替えられた『世界』は新たな『法則』を生み出し『非現実』を『現実』にする」


「どういう理屈だそりゃ」


「それは正直誰にもわからないわ。そもそも世界なんてのは分かってることのほうが少ないくらいよ。この世界そのものの方程式を解き明かせる人間は今のところ存在しないのだもの。『そういうもの』であるとしかいい様がないわ」


「結局、なんにもわからないんじゃないか」


微笑む伊織。ため息をついて少年は椅子に腰掛けた。

つまるところ、わけのわからないものだらけで本人たちにもわけがわかっていないのだ。

しかしそれが本人の価値観を元とし発現するものである、ということだけはわかっている。

根源となる理屈はわからなくてもその力との『付き合い方』は模索されているらしい。

隣にいる綺羅の表情を伺うと慌てて視線を逸らしてしまった。

再びため息をついて伊織と向き合う。


「それで、綺羅はこれからどうなる?」


「案外と冷静なのね」


「いちいち理屈を求めるほどしっかりいしてないしな。それに、オレはまだ子供ガキだ。わかんねえことなんていちいち気にしてたら世界中わかんねえことだらけだ」


「そう・・・・・・。綺羅さんの方は、血液を摂取することで生命維持を行える、という心理領域の持ち主だと聞いているけれど?」


「そうらしい。本人のほうが詳しいんだろうが、この様子じゃな」


「・・・・まあ幸い、輸血用のパックが大量にありますからそちらを提供するということでいかがでしょう」


「わかった。だが・・・ずっと気になっていたんだが、どうしてオレたちにそこまでよくしてくれるんだ?オレはともかく綺羅に至ってはジャスティスに襲い掛かったんだぞ?普通は処罰とか、なんかあるんじゃないか?」


「それは、彼女が番号入ナンバーズであるという一言で説明可能よ」


「そのナンバーズっての、たまに聞くけどなんなんだ?強いってのはわかるが」


「刹那さんはタロットカードはご存知で?」


タロットカード。

比較的有名な占いの道具であり、様々な絵柄の描かれたカードである。

ナンバーズ全22名の名称と番号は、このカードから名づけられたものだ。


No.0 愚者

No.1 魔術師

No.2 女教皇

No.3 女帝

No.4 皇帝

No.5 教皇

No.6 恋人

No.7 戦車

No.8 正義

No.9 隠者

No.10 運命

No.11 力

No.12 吊し人

No.13 死神

No.14 節制

No.15 悪魔

No.16 塔

No.17 星

No.18 月

No.19 太陽

No.20 審判

No.21 世界


二十二人の番号入ナンバーズはこのアルカナに対応している。

数字の大きさなどには特に意味はなく、それぞれがその称号を手にするにふさわしい、ある意味そのジャンルにおいて最強とされる人物がその番号を背負う事が許されるのである。


「それ、誰が考えたんだ?」


「わかりません。元々アルカナとセットで伝えられていたものですし、そもそもタロットカードそのものが出所不明ですし、これは人が歩む人生の旅路の縮図、とも言われているものですからね。ミステリアスでしょう?」


「ほんっきで何も分かってないんだな・・・・と、いうか・・・救世示、だっけか。敵にもナンバーズがいるってのはどういうことなんだ?敵には敵のナンバーズがいるってことか?」


「そこが一番の謎といえば謎なんだけれど、敵であるとか味方であるとかは関係なく、ふさわしい人物が選ばれるのよ」


「選ばれるって・・・誰に?」


「誰でもないわ。ふさわしいと判断されたらいつの間にかそれが譲られているものなの。妹さんもきっと、気づいたときにはそうなっていたんでしょうね」


「ちょっとまて、だから、誰が判断してるんだ?」


「強いて言えば・・・・世界そのもの、かしら」


あまりに突拍子もない言葉に思わずあいた口がふさがらなくなる。

誰が裁定するわけでもない選ばれた人間たち。与えられた世界を書き換える権利。

敵も味方も関係なく、気づけば誰かに選ばれ、誰かに力を与えられている。

それではまるで・・・。


「・・・・・・・・・・・神様でもいるってのか・・・・・?」


「いるんでしょうね、この世界のどこかには、神と呼べるような者が」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい、冗談だろ?」


「冗談ならば、私も随分と良いのだけれど。生憎、現実なのよ」


立ち上がった伊織は窓の向こうに広がる青い世界を眺めながら腕を組む。


「だからこそ、『神』と思しき何かに繋がるナンバーズは出来る限り手元に収めておきたいの。組織わたしたちも、救世示かれらもね。私たちの戦いは、ある意味番号の取り合いのようなものだから」


「それで、ほうっておけば綺羅も狙われるから・・・・保護するってことか?」


「残念だけどそんなに甘くはないわ。それに向こうだってせっかくのナンバーズを無下には扱わないでしょうし、こっちもあっちも本当は大差ないの。私に提案できるのは単純なビジネスだけ。要するに取引。向こうよりもいい値であなたたちを買える、っていうだけの話」


「・・・・・っ・・・・オレたちはモノ扱いか・・・・!」


「そんなの別に珍しい話じゃないでしょう?それに勘違いしないで。あなたは本来要らない要素なのだから、あなたも保護してあげるだけで感謝してもらいたいところね。向こうは余分は必要ないって考え方だと聞いているから、あなたが生き残るにはこちらにつくしかないの。悪い話ではないわ」


「ちょ、ちょっとまってくれよ・・・いきなりそんな、わけ分からない話をされても・・・・」


「生活も身の安全も保障します。けれどあなた方にはこちらの『仕事』を手伝ってもらうことになります」


取り出したのは契約書だった。あとは捺印するだけの契約書。

それを刹那に突きつけ、伊織は笑う。


「私たちも、彼らも、最終的な目的は一つですからね」


「・・・・・・・・何をすればいい?」


「手伝ってもらうんです。殺すのを。『神様』を、ね。」


神殺し。

それこそ、少年に与えられた契約の代価。

生きていくための正当な労働報酬。

突きつけられた現実。

白い契約書。


「サインを。」


青い光が差し込む窓。


考える間すら、与えられないまま。





響は立ち尽くしていた。

自分が何のために戦わねばならないのか、彼女自身何も知らなかったのだから。

神というものの存在。目に見えぬ誰かの裁定。自分もまたそれに選ばれたのだということ。

理解不能な世界。今までの世界観を変えてしまいかねない事実。

誰かに常に見られていて、自分たちはその誰かのせいで踊らされているのかもしれない事実。

だがしかし、それでも響には関係なかった。

自分にとっての最終目標はジャスティス・・・ディーン・デューゼンバーグの心を取り戻すということ。それ以外のことは基本的に二の次だ。世界が滅ぼうがどうなろうが神がいようがいまいが彼女にとっては些細な事象に過ぎない。

しかし、どうすればディーンの心を取り戻す事が出来るのか、それは謎のままだった。

そもそも、そんな手段は存在しないと、彼女自身理解はしていた。

吟示に心を食われたのであれば、心を奪った吟示を浄化すれば奪われていた魂たちは下に戻る。

しかし所有者により奪われた心は決して戻ることはない。

殺した人間を殺したところで誰かが生き返るわけではないのだ。

そんなことはあたりまえだ。当たり前すぎることだ。しかし理解できても納得は出来なかった。


ジャスティスの病室、その扉を開ける。

三年前と変わらずディーンはベッドの上で眠っていた。

長く伸びた髪だけが時間の流れを告げるようにシーツの上に広がっている。


「ジャスティスさん・・・・」


薄暗い、二人しかいない部屋。

眠ったままのディーンに寄り添い、そっと顔を近づける。


自分が奪ってしまった心ならば、自分を殺すしか方法はないのか?

違う、自分が死んで彼が元に戻るのならとっくにそうしている。しかしそうではないのだ。

ならばその理由となったベルヴェールを倒せば元に戻るのか?

それも違う。もうその方法など存在しないのだ。何一つ、人の手で出来ることなど。


「私、がんばってるんですよ・・・・起きて、昔みたいに頭を撫でて下さいよ・・・・」


覆いかぶさり、その頬に触れ、ゆっくりと語りかける。


「三年ですよ?もう三年も・・・・・ジャスティスさんは眠ったまま・・・私こんなにがんばってるのに・・・・・聞いてくださいよ・・・・私、沢山沢山、吟示をやっつけたんですよ?悪い所有者だってばしばしやっつけたんですから。強くなったんです、昔みたいに足をひっぱったりしません。もう、あなたたちを、苦しめたりしないから・・・・・・・」


帰ってこない答え。思い出せなくなっていく彼の言葉、微笑み。

暖かく大きく頭を撫でていた彼の手の感触。少しずつ薄れていく。

涙があふれた。ずっとこらえていたのか、それとも忘れていたのか。

ぼろぼろ零れていく涙はジャスティスの頬に落ちていく。


「じゃすてぃすさん・・・ううっ・・・・おきてください・・・・ジャスティスさん・・・・・・・・・」


両肩に手を置き、ゆっくりと揺さぶる。


「おきてくださいよ・・・・・ジャスティスさん・・・・・・おきて・・・・・・おきて・・・・!」


徐々にその力が強くなっていく。呼吸を乱しながら響は肩を揺さ振る。


「ジャスティスさん・・・・おきて・・・・・おきろ・・・・起きろ、ジャスティス!起きろよおっ!!!」


ジャスティスは黙っている。もちろん答えるはずがない。

悪化した彼の病状は既に誰の言葉も受け入れることがないのだ。

それは響も分かっている。分かっているが納得できない。


「楽しく、ないんですよ・・・・・・・・ちっとも・・・・・・・」


笑っていた。

確かに彼は、笑っていたのだ。

いつだって、ジャスティスは笑っていた。

どんな苦境だって楽しんでいた。いつでも踊るように生きていた。

戦うことも、生きることも、ただ毎日が楽しい。幸せで仕方がないと、そういう顔をしていた。

それがどれだけ強いことなのか今ならばわかる。彼はいつも努力していた。

笑顔で居られるために己を苦しめたとしても、それは誰かのための笑顔。

自分にそれが向けられていた幸せを今更理解する。

笑えない。楽しくない。あたりまえだ。楽しいわけがない。

ベルヴェールへの復讐・・・いや、むしろそれは八つ当たりに近い。

出口の見えない日々。取り返しのつかないことを追いかけ続ける毎日。

誰も、誰も、誰も理解してなどくれない。

しきりに痛む左目がそう叫んでいた。


「どうすればいいの・・・・?どうすれば、私、笑えるの・・・・?あなたのように・・・・」


いつしか、まだ鮮明に思い出せる彼との出会い。

彼は踊るように、謳うように、響の前に現れた。

その姿があまりに魅力的で、あまりに印象的だったから・・・・。


「わたしっ!あなたのようになんかなれないっ!!どんなに真似ても、どんなに努力しても、笑えないっ!楽しくないのっ!ねえ、助けてよジャスティスさん!痛いよ・・・!痛いんだよう!毎日毎日、目も胸も痛いのぉっ!!ねえ、助けてよ!?いつだってあなたは私を助けに来てくれたじゃない!!あなただけはっ!私の事、わかってくれたじゃないっ!!!」


胸にすがり付いて泣いた。

本当はいつだって誰かに助けてほしかった脆い心。

誰かを受け入れる優しさを持つとしても、それは紛れもなくただの少女。

少女の心が受け入れるには、様々な事実は重く苦しすぎた。

我慢して我慢して、しかし耐え切れない痛みたち。濁流のように流れ出し、涙となって零れ落ちる。

すがり付いて涙を流し続ける。どうしようもない悲しみと苛立ちを胸に。


「じゃすてぃす・・・さあん・・・・・」


顔を上げた響。しばらくその場に座り込み、小さく肩を揺らした。


「・・・・・・・・・・・・・・ふ、ふふ・・・・・ははっ!あっははははははははっ!!!」


やがてその振動は大きくなり、こらえきれなくなったのか、大声を出して笑い始めた。

涙を流しながら、しかしその目は今まで以上に強く火を点している。


「・・・・・・・・・・・人間に出来ないなら、神様に治してもらえばいいんだよ!なあんだ、すっごく簡単!そうだよ、きっと神様なら治せる!」


飛びのき、踊るようにその場でクルクルと回転し、手を後ろで組んで微笑む。


「待っててねジャスティスさん。神様を見つけて、それで治してもらうからね?」


大きく深呼吸し、その拳を鉄の壁に叩き付けた。

轟音と共に鉄板が大きく湾曲し、その指先に無数の血液が付着する。

それをゆっくりと舐めながら目を細め微笑む。


「ベルヴェール・ロクシス・・・・・・これで心置きなくオマエを殺してやれる」


同じく神を求める組織であるならば、ベルヴェールは確実に邪魔になる。

それを殺すことは復讐ではなく、ジャスティスを救うための手立てになるはずだ。

少なくとも、もう本人はそう思い込んでいた。


「救世示・・・・・ううん、敵対するナンバーズは全員倒す。私が・・・この手でッ!!!」


強く握り締めた拳。


そうすることで大切なものを取り戻せるのだと、信じて。



部屋の外、壁を背にしてフランベルジュは目を閉じていた。

彼女にはわかっていた。このままでは響はどんどん思いつめ悪い方向に進んでしまうと。

それが止められない変化だと理解していても、しかしあがいていたかった。


「響・・・・・自分の心の闇に負けないで・・・負けてしまったら、貴女は・・・・」


拳を強く握り締める。

仮に、響が今後どうなっていくとしても、自分だけは彼女の味方で居る。

そうすることで、自分に与えられた使命と責任を果たしていこう。

それは何年も前から誓っていた事。今更変える必要もない既成事実。

だがしかし、その先に待っているものが望んだものと違うのであれば。


「そのときは・・・わたしが・・・・・・響を・・・・・・」


聞こえた泣き声と笑い声。

背にした過去と責任はあまりに重く、


まだ見えぬ未来を思わせるには、あまりにも暗く・・・・・。



セリフが多すぎでかなりスカスカです。

なんか展開が欝くなってきました。

まあ、二日に一回は最低でも更新していきたいですね。

そういうこというと自分を苦しめそうですが。


いつの間にか二十五部にまでなっていました。ここまで読んでくださっている方、が居ればありがとうございます!本当にありがとうございます!だってこれ、ウン百分かかるわけですよここまで読むのに!すごい!正直最初のページにウン百分ってあったら読む気うせそうなものですが、あなたは実に偉い!え?最初から読んでない?あ・・・そうですか・・・いいんですよべつに・・・・最後だけでも・・・どうせたいしたものじゃないですから・・・アハハ・・・。


さまざまな説明をぶっ飛ばしてきたのでここいらでいろいろと発覚していくべきかなと思い新しい展開にはいります。いろんなフラグが繋がりはじめればいいんですが。死亡フラグとか。

刹那は説明に必要となったキャラクターで、本来は綺羅ひとりでいいんじゃないかと考えていた物体です。彼は『説明を受ける』のに必要なキャラであり、いわゆる世界観をおさらいするのに必要として生まれました。いや説明してなかったけど。

また、既にある意味完成しきってしまっている人間関係に新しい風を吹き込む、つまり響を変えていく要因になればな、と思っています。

やったら長く続いていますがようやく本編というか、まあ折り返しというかなんというか、とりあえずようやく戦いが始まりそうな気がしてきました。

こんな二十五章になってようやく説明が始まる小説に根気欲お付き合いいただき本当にありがとうございます。


よろしければそろそろ感想とか欲しくなってきました。あと誤字脱字。言われないと気づかないので直らないという悪癖。まあ、仕方ないですよね。ウン百分とか、僕だって読み返したくないですから。

アドバイスなどは非常に力、というかやる気になるのでぜひお願いします。今までは結構だらだら続けてきましたがそろそろよりよくしていこうと思いますので。今さらかよ。


まあ主人公の位置がころころかわるわ、響がヤンデレだわですがこれからもお付き合いください。かしこ。

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