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闇夜に逢いましょう(1)




「んん〜・・・・っ!今日もいい風が吹いてるな」


大きく伸びをした少年は太陽の光に手を翳し、眩しそうに目を細めた。

赤茶の髪を風に靡かせながら埠頭に立ち海を眺めている。

ポートアイランドの埠頭。海の上に聳え立つ町への出入りは主に船で行われる。空港も存在するが庶民的には安値で利用出来る定期運行フェリーを利用するものだ。

ましてや彼の待ち人はかなりの貧乏さんであり、飛行機でやってくるわけがない。


「風が吹いても寒いだけっすよう・・・・よく平気っすね・・・先輩」


乗り場の前にごったがえすせわしない平日の人の流れの中、かき消されそうな声。

背丈の低い首にヘッドフォンをぶら下げた少女が少年の元へ駆け寄った。

少年、工藤空也は振り返り少女、るるるに微笑みかける。


「お前こそそんな厚着でよく寒いな。逆に驚くよ」


「女の子は得てして寒がりなものなんすよ・・・それよりこんなに早く来てどうするんすか」


「早いか?アイツがせっかく帰ってくるんだぜ?出迎えてやるのがダチってもんだろ」


響同様、背丈も伸びた二人は少しだけ照れくさそうに微笑み会った。

響からこちらに戻るという連絡を受けた時喜んだのは主にこの二人だった。

特に喜んだのは空也であり、その喜び方は異常だったと言ってもいい。


「そんなに秋風さんに会うのが楽しみだったんすか?」


「べ、別に楽しみになんかしてねえよ!あいつ友達いないから仕方なくだな!」


「あ、秋風さん」


「何イ!?ど、どこに!?」


「冗談っすよ・・・リアクション大きすぎでかなり恥ずかしいんすけど・・・・」


お互いに赤面し、咳払いして気を取り直す。


「それにしても響さんは水上を駆け抜けてくるんすか?船も着いていないのにどうやって来るっていうんすか・・・どんだけあせってるんすか先輩は」


「リーダーからのちゃんとしたミッションだし失敗は許されないからな」


「返事になってないっすよ?どーいうことなんすか?」


「いや、だからだな・・・・」


ジト目でにじり寄るるるるの視線をかわしながらしどろもどろしているとフェリーの姿が見えてきた。

あわててるるるをひっぺがし、少年は走り出す。


「ほら、来たぜ!さっさといくぞ!」


「あ、ちょ!まだ話は終わってないっすよー!」


慌ててそれを追いかける少女。

そうして波乱の一日が始まるのだった。



⇒闇夜に逢いましょう(1)




「 い や っ ! 」


場の空気が最悪になった。

埠頭で再会を果たした響一行と少年少女だったが、何故か知らない人物が二名同行していた。

結城兄妹・・・刹那と綺羅である。


「かくかくじかじかで、一緒に組織に来てもらうことになったの」


と、にこやかに二人に説明する響とは対象的に、


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


刹那に背負われた綺羅はとんでもない勢いで不機嫌モードを炸裂させていた。

これぞまさに気だけで敵を殺せる勢いである。

そもそもなぜ車椅子があるのに兄の背中にしがみついているのか。

そしてなぜ兄はそれを平然と受け入れ車椅子を押しているのか。

さらに言えばその状況を平然と受け止めている響は何を考えているのか。

少年と少女は直感した。


「(・・・・この面子に足りなかったのはツッコミだ!)」


と。


「えーと・・・・俺の名前は工藤空也・・・組織の一員だ。よろしくな」


と、さわやかに挨拶したところ、『いやっ!』とかなり大声でいわれてしまった次第である。

落ち込んでひざをつく空也の肩をるるるが叩き慰める。


「いきなりいやって・・・・俺、何かしたのか・・・・?」


「いつもこんな感じだよね?刹那君」


「ああ。綺羅はいつもこんなカンジだ」


「いつもこんなカンジってどういうカンジだよ!?ていうかお前!年上に対して失礼だぞ!」


「何こいつ・・・・意味がわからない」


綺羅の言葉に再び地面にひざをつく少年。今度は涙目である。

下手に侮蔑の言葉を吐かれるよりも厳しい言葉が日本にはたくさんあるのである。

特に綺羅のあの汚いものでも見るような眼とセットになると落ち込まないわけにはいかない。

しかし復活が早いのもこの少年の特技の一つ。すぐさま立ち上がる。


「おい、結城兄!妹のしつけはちゃんとしろ!」


「き、綺羅をしつけるだと!?そんないやらしいことが出来るかっ!!」


「お前ら本当に何なんだよ!?何する気だよ!?その考え方やめろよ!?」


「ただの冗談だ・・・まあ、綺羅はなんというか、不治の病で病室に常に一人きりだったせいで半引きこもり・・・いや、完全なる引きこもりに限りなく近い状態が続いたせいで赤の他人との一時的接触を非常に恐れる傾向があるんだ。つまり人見知りなんだよ。許してやってくれ」


そんな重い設定を平然と出されると困るしかない。


「か、かわいそうっすねえ〜〜〜」


そして何故か泣き出するるる。


「わたしはるるる・・・本名はわけあって名乗れないっすけど、あなたのことはわたしが守るっす」


「寄らないで!子供のくせに!」


るるる 15才


綺羅 14才


「子供って・・・・・」


「泣くなるるる!くそ、なんて失礼なやつなんだ!そして寝るな響!!」


「ぅおう・・・・なんだか眠くて・・・・」


欠伸をしながらぷるぷるした響はとりあえず綺羅の頭を軽く叩いた。


「・・・・・ぶったー!!!」


途端涙目になる綺羅。


「これで痛みわけってことでいいかな?ほら、刹那君も謝って」


「すまん!」


「その真顔がスゲエむかつくんだか、それはなんだ、俺だけなのか?」


「正直すまん!」


「・・・・・・・・・」



小休止。



何はともあれこうして一行は組織に向かって歩き始めた。

平日のポートアイランド、本来ならば皆仕事や学業に勤しむ時間の中を一行は進んでいく。

少しだけ人気が少なく、少しだけ歩きやすい海上の都市。

当然結城兄妹はポートアイランドに訪れるのは始めてのことで、全てに目移りしてしまう。

東京よりもさらに進んだ町であるポートアイランドには東京にもないものがたくさんある。

頭上を通り抜けていくモノレールを見送りながら綺羅は目を輝かせていた。


「なんだ、ここに来るのは初めてなのか?」


「ああ。オレたちは東京から離れたことなんて一度もなかったからな」


刹那もまた真新しい景色に目を奪われていた。

彼にとって世界は東京が全てであり、妹がいる病院のそばを離れた事など一度もなかった。

ゆえにこうして二人で別の町に移動するということそのものが初体験。

そしてそれはいつか彼が二人でやってみたいと願っていたことの一つだった。

それがまさかこうしてあっさりかなってしまうとは。


「ねえ兄さん、どこか遊びにいこうよ!面白そうなものが沢山あるよ!」


「だったら案内するっすよ?一応地元住民っすから」


「そうしてもらえると助かるな。オレもこいつも実は方向オンチなんだ」


「兄さんと二人がいい・・・・」


「我侭を言うなよ綺羅。下手したら二人して行き倒れることになりかねないぞ」


「お前らどんだけ方向音痴なんだよ・・・・」


「はい、着いたよ」


響の声に全員が前を向くとそこには地下へ続く階段があった。

町外れにぽつんと存在するそれは金網で囲まれており関係者以外立ち入り禁止の札が立てられている。


「もう着いたのか。しゃべってたらあっという間だったな」


「響さんはうちの新しいリーダーにまず会いに行くといいっすよ?きっと驚くはずっすから」


「今の私は並大抵のことでは驚かないよー。あ、そうだ・・・刹那君、その新しいリーダーさんに話を通しておくから、しばらく観光でもしてきたら?二人が一緒なら安心だしね」


「どうする?綺羅」


「行く!響と別れられるならどこでもいい!早くいこう!」


背中でじたばた暴れる妹の肘に頭を打たれながら兄は頷いた。


「それじゃ、二人とも。刹那君と綺羅ちゃんをお願いね。まあ、綺羅ちゃんは並大抵の何かに襲われた程度では怪我一つしないだろうけど」


「そんなに強いんすか?彼女」


「うん、一応番号入りナンバーズだよ?」


そう告げて笑顔で階段を下りていく響を見送る一行。

そしてるるると空也は同時に兄の背中に乗っている妹を見つめ、


「これ、ナンバーズ!?」


叫んだ。





「ここに足を踏み入れるのも随分と久しぶりですね」


無骨な通路を歩く響の背後、すっと浮かび上がるようにフランベルジュが姿を現した。

懐かしそうに歩く響の横顔を眺めながらメイドは少しだけ嬉しそうに微笑む。


「なあに?フランさんにしては珍しく笑顔なんて」


「まるでわたくしが冷血女であるような言い回しはひっかかりますね。ですがなんと申しましょうか、こうしてまたここに貴女と戻ってこられた事が少しだけ嬉しいのです」


「・・・・・ふーん?あんなに私のことをいじめたくせに?」


「それは・・・・お互い言いっこなしでしょう」


「あはは、そうだね」


笑いあいながらかつての記憶を懐かしみながら歩いていく。

何度訪れても慣れない、イゾルデの執務室の巨大な扉の前で足を止める。

深呼吸をして自動ドアを潜り奥へと続く広い部屋を歩いていく。

透明なガラス張りの壁の向こう、蒼く輝く海に囲まれ、足音は妙に反響して聞こえる。


「思ったより早い到着だったのね」


響が知る限りイゾルデが座っているべきその椅子には、見覚えのある少女が座っていた。

思わず駆け寄り、その姿を確かめる。


「・・・・・・・・・・・・・・え?伊織ちゃん?」


「お久しぶりですね、秋風さん・・・・・ちょ、ちょっとまってくださいね」


巨大な机に阻まれた二人の距離を遠回りして伊織が縮める。

そして駆け寄る勢いもそのままに響に飛びついた。


「秋風さん!逢いたかった!」


「わわっ・・・・?い、伊織ちゃん久しぶり・・・・でもどうしてそこに?」


「話すと長くなるの。でも、まずはこの再会を喜びましょう?」


「・・・・・・・うん・・・・・本当に・・・・本当に、久しぶりだね」


強く抱き合い、お互いの存在を確かめる。

もう二度と会うことが出来ないと思っていた友人との再会に思わず胸が熱くなる。

思わず涙ぐんだ伊織の頭を響は何度も撫でた。


「もう・・・・私たちに何も告げずにいなくなるなんて、あなたって人は・・・」


「ご、ごめん・・・・でも、言ったら巻き込んじゃうし・・・・・」


「近藤さんもあなたのことを本当に探していたんですよ?今もあなたを探してるんです」


「伊佐美ちゃんも!?私の事なんか忘れちゃえばいいのに・・・・」


「彼女の性格はあなたが一番理解しているでしょう?そんなの無理ですよ」


「・・・・・そうだね」


しばらく抱き合うと伊織は椅子に、響は執務机に腰掛けた。

周囲に揺らめく蒼い光を眺めながら響はため息をついた。


「さて、何から話そうか」


「何からでもどうぞ。あなたの話を聞く時間は、まだまだ沢山あるんですから」


「・・・・・・・・・そっか。それじゃあ・・・・」


二人はお互いが過ごしたべつべつの時間を語り始めた。

ゆっくりと、大切なものを慈しむかのように、穏やかに。


蒼い光が二人の途切れた時間を優しく包み込んでいく・・・・。





海沿いの公園を刹那と空也は肩を並べて歩いていた。

体力には自信があった刹那でも流石に長時間妹を背負いすぎていたせいで顔色がだいぶ悪くなってきていたので、妹は車椅子に移動し今はるるるがそれを押している。

二人は言い争ったりしながら公園をゆっくりと歩いていた。

お互い妹分を見守る兄貴分として二人はそれを風に吹かれながら見守っている。


「あいつらなんだかんだで仲いいんじゃねえのか?」


「かもしれないな」


「・・・・・・なあ、お前も所有者セイヴァーなのか?」


「いや、オレは違う。力があるのは綺羅だけで、オレには何の力もない」


「じゃあ妹が心配で着いてきたのか?」


「・・・・・というか、あいつの傍に居てやれるのはオレだけなんだ。オレはあいつの傍を一瞬たりとも離れない」


「偉いな」


「兄貴だからな、当然だ」


ベンチに腰掛けた空也は手招きし刹那も呼び寄せる。


「どれくらいこっち側の話を聞いたんだ?」


「ほとんど何も。救世示ってのと組織ってのが敵同士ってこととか、綺羅とかあんたたちみたいなのが力を持ってるとか、ナンバーズってのが強いってことくらいしか。その説明のためにつれてこられたってのもあるしな」


「そうかー・・・・じゃ、響の事とかも何も知らないんだな」


「その、響っていうのはジャスティスの本名なのか?」


「そんなことも知らなかったのか・・・・あいつの名前は秋風響っつーんだよ」


「秋風響、か」


「・・・・・・・・な、なあ・・・刹那・・・・お前、響とどういう関係なんだ?」


突然顔を赤らめながら空也が身を乗り出した。

どうといわれても、相手のことを何も知らないのにどうもこうもないのだが。


「響は誰も、自分の旅に同行させなかったし、誰かを組織につれてくるって事もなかった。初めてあいつが連れてきたのはお前たちなんだ。だから、あいつにとって何か特別な意味を持つんじゃないかと思ってよ」


「たまたまじゃないか?元々ここに来るつもりだったみたいだし、オレたちはあいつと会ってまだ一週間経ってないんだぞ?」


「そ、そうか・・・だよなー!ハハハハハハ!」


妙に強い力でばっしばっしと刹那の背中を叩く空也。

奇行に首を傾げる刹那だったが、当の本人はそれに気づいていないようだった。


「でもジャスティスって・・・・なんなんだろうな」


「なんなんだろうって、何が?」


「あいつ・・・・」


この一週間の事を思い出す。

恐ろしい力で自分を叩きのめした響。

穏やかで間抜けな表情で踊るように歩く響。

残酷な言葉で相手を傷つけ、翻弄する響。

噂にまでなり、戦い続け、何かに駆り立てられるように生きている。


「あいつ・・・・本気で笑ったこと、あるのかな」


「・・・・・・・・・・・・・・」


「寂しいんだよな、あいつ・・・・・・胸に穴が開いてるみたいに、どこか満たされないんだ」


「判るのか?」


「なんとなく、な。でも、満たされないのはあいつだけじゃない」


遠くで手を振る妹に手を振り返す。

少しだけ寂しげに微笑んだその横顔に空也は立ち上がるとその背中を強く叩いた。


「モノレール、乗ってみっか!」


「いきなり叩くな・・・こけるだろうが」


「いいから来いよ!ったく、どいつもこいつもしけた面しやがって・・・・」


先に歩いていく少年の背中を苦笑し追いかける。

少しだけ強くなり始めた冬の風をさえぎるようにコートのボタンを留めながら。



そして。



「兄さん、おなかすいたわ!」


妹が申せば兄は北へ東へ。


「兄さん、寒い・・・・」


妹が申せば兄は上着を喜んで貸す。


「兄さん、もっと早く!」


妹が申せば兄は車椅子を走って押す。



「おい!!!なんだその妹の凄まじい暴虐不尽っぷりは!!」


「まさに我侭の限りを尽くしてるっすね」


「綺羅は久しぶりに・・・・はあはあ・・・外を出歩けて・・・はあはあ・・・はしゃいでるのさ・・・」


既に満身創痍の兄が真冬だというのに汗をかきかき息を切らしている。

妹はソフトクリームをなめながらご満悦である。

しかし全く悪びれた様子はなく、まだ兄をこき使う気満々だった。


「兄さん大丈夫?」


「任せろ!次は何だ!」


「おいこのシスコン少し落ち着け。このままではお前が先に息絶えるほかもれなく妹の社交性の教育に悪いことになるぞ」


「いいんだ・・・たまにはコイツの自由にさせてやらないと・・・・」


「目を覚ませ馬鹿野郎!!お前本気で危ないやつに見えるぞ!?」


両肩をつかみわっしわっしと揺さぶってみるが刹那はガクガクするだけで半笑いしている。

かなり不気味な状態の兄に目もくれず妹はソフトクリームをなめている。

大分シュールな光景にるるるは一人他人のフリをしていた。


「シスコンキャラがここで定着するとお前の今後の扱いもアレになるぞ!」


「シスコンの何が悪いッ!!!所詮男はみんなシスコンだッ!!!」


「な、なんか気持ち悪いっすこの人・・・顔はかっこいいのに言ってる事が気持ち悪いっす・・・」


「あ、兄さん・・・・服にソフトクリームが・・・・」


「何、どこだ?兄さんが拭いてやるぞ」


ピンクの花柄ハンカチを取り出し妹の服についたソフトクリームを拭く。

その姿がなんとも物悲しく二人は固まったまま苦笑い。


「兄さん、大好きよ♪」


「わかってる・・・・オレもだ、綺羅・・・・」


「おい!この背景に出てきたバラをなんとかしろ!」


「他人のふりっす・・・他人のふりっす・・・・」



小休止。



「なんで綺羅ちゃんはそんなわがままなんすか?」


「あなたには関係ないでしょ?」


鋭い視線で射抜かれたるるるは半笑いしながら涙を流した。

綺羅がとんでもなく我侭になってしまった理由、それは昔から引きこもっていたため限られた人間としか関わってこなかったこと、そして死亡宣告されていたために周りからもちやほや扱われさらに兄は重度のシスコンだったため何でも言う事を聞いてくれる、というのが当たり前の状況が完成しそのままやってきてしまったからなのである。


「つまり悪いのは綺羅ちゃんじゃなくて刹那さんなんすね」


「オレなのか!?」


「いやいや、お前だろ」


「お、オレのせいで綺羅が社会に出られないっていうのか・・・・・オレは・・・・オレはあああ!!!」


「ああもう、深刻になりすぎっす・・・いちいちなんか妙な人っすねえ」


二人のジト目に刹那は己の人生を後悔し強く拳を握り締めて振り返った。

自分のせいで妹が社会に出られないような人間になってしまったのだとしたらそれをなんとかするのもまた兄の使命だと考えるのがこの少年だからである。

しかし振り返った視線の先、ほっぺたにソフトクリームをつけた妹が無垢に首を傾げていた。


「こんなに可愛いんだぞ!!!無理だろっ!!!!うわああああああああああ!!!」


コンクリの地面に頭を何度も強打し叫ぶ兄。


「なんつーか、うちの組織には居なかったタイプだよな」


「まったくっすね」


「オレは・・・・オレはあああーーーーーッ!!!!」


普段が冷静でかつ顔がいいだけにそのギャップは激しい。

とりあえず冷静にならない兄の後頭部にるるるがかかとをぶち込み正気に戻した。


「もう、人の兄さんに変な事吹き込まないでよ!綺羅のお兄ちゃんはもう既に世界一なんだから!」


「綺羅・・・・・お前だってオレにとっては世界一の妹だゼ・・・・」


「兄さん!」


「綺羅!」


抱き合う二人。

既にこれは病気だと、常人二人は納得することにした。


「そんなわけでオレはもう惑わされない。オレはオレの道を貫くぜ」


「わかったから次行くぞホラ・・・・・・っと」


「きゃあっ!」


後ろを向いたまま歩き始めた空也。

そのまま前進していると道端を歩いていた少女に激突し吹き飛ばしてしまった。

空を舞うのは何故か焼けたトースト。全員の視線がトーストに集中する。

るるるがトーストをキャッチすると倒れたままの少女が顔を上げた。


「いたたたた・・・・」


「わりわり、前見て歩いてなかった」


「どこ見て歩いてんですのーーーーッ!!!」


快音が響く下段蹴り。空也の足がくの字に折れ曲がった。

次の瞬間少女の手に握られていたのはヴァイオリンケース。

予想できた展開だが、それが今度は空也の側頭部をしたたかに打ちつけギャグマンガのように空也は何メートルも吹き飛ばされていった。


「みぎゃあ!」


そのシーンを様々な角度からリプレイします。


「みぎゃあ!」


角度は想像にお任せします。


「みぎゃあ!」


最後にもう一度。


「みぎゃあ!」


コンクリートに頭を激突させ動かなくなった空也を全員目で追い、続いて少女に視線を戻した。

首に巻いた長いマフラーが靡き、腕を組んだ少女。

皮製の白いジャケットに同じく皮製のミニスカート、縞々模様のソックスをヒールの高いブーツが覆っている。

不機嫌そうな鋭い視線で空也をにらみつけるとヴァイオリンケースを背中に回しるるるがキャッチしていたトーストを引ったくり齧った。


「意味わかんねえ下種ですの。前見て歩くことも出来ないクズ虫は地球のゴミですの。それでよくおてんとさんの下を歩けるもんですの、けっ」


形容し難い言葉遣いに一同絶句。

金色の髪を指先で弄りながら少女は倒れた空也の頭をさらにヒールで踏みつける。


「まったく、死ねばいいと思うですの」


「・・・・・・・・ってえええええ!!!てめえ、俺が何したってんだ!?」


少女を強引に吹き飛ばし頭から血を流しながら立ち上がる空也。

しかしなぜか頬に快音の響くビンタが直撃した。


「スカートをめくるな!ですの!」


「あ、すいません・・・じゃねえ!おいこら!いい度胸してるなテメエ・・・・!」


「何拳なんか鳴らしてるですの?男が女に手を上げるんですの?まさに下種ですの」


「こ、こいつ・・・・・・・・・もう我慢ならねえ・・・・殺す・・・・・」


思わず夢ノ英雄りろんぶそうを発動しそうになる空也をあわててるるるが抑える。


「先にぶつかってきたのはそっちですの。悪いのもそっちですの。正当防衛ですの」


「だから先に謝っただろうが!」


「はっ!あれで謝ったつもりなんて勘違いも甚だしいですの!地面に頭を擦り付けながら泣き喚くくらいしなければ謝ったとはいえないでーすのーん」


「テメエの血は何色だァーーーーーー!!!!」


「落ち着くっす!一般人、しかも女の子に手をあげちゃまずいっす!!」


「男女平等!」


「いやいやいや、落ち着けっす!ああもう、あなたももう行って!」


「なんでえ?あたしは悪くないですの」


「いや、だから・・・・・」


二人がにらみ合い今すぐにでも殴り合いが始まりそうな空気。

腕を組んで傍観していた刹那が割ってはいろうとした瞬間、


「こんなところで虫としゃべってる場合じゃなかったですの。今日のところは見逃してやるから神様に感謝しながら家に帰ってママのおっぱいでも吸ってるがいいですの」


言いたい放題毒を吐き出すと少女は走り去っていった。

結局言い返す暇もなかった空也はわなわなと拳を震わせ、


「二度と来るんじゃねえ、クソアマーーーーーーッ!!!!」


冬空の下、叫んだのであった。






ヴァイオリンケースを担いだ少女は海沿いの公園を抜け人気のない倉庫街に足を踏み入れた。


「また遅刻か?てめーが最後だぜ」


頭上からの声に頭を上げると倉庫の屋根の上、ジョシュアが腰掛手を振っていた。

少女はそれを自然な動作で無視して歩き始める。


「おいこらテメエ!先輩に向かってその態度はなんだ!」


「うっさいですの。ちょっと先にいたからって偉そうにしてるとそのケツの穴にうさぎをぶち込んで炸裂させるですの、ワカメ頭」


「わか・・・・天然パーマを馬鹿にするんじゃねえ!」


「ハッ、ワカメは海に還るがいいですの。丁度目の前は海ですの、さっさとダイブするがいいですの」


「相変わらずむかつくやつだな・・・・・まあいい、中でテメエを待ってるぜ」


ジョシュアの言葉を最後まで聞かずに少女は倉庫の中へ足を踏み入れた。

薄暗い倉庫の中、廃材の台座の上にベルヴェールが座っていた。

その周囲、薄暗く様子が鮮明に伺えない場所に数人の人間が立っていた。


「遅かったね、エルザ」


「相変わらず穴倉が好きな連中ですの」


「きみの口の悪さも相変わらずだね。それでは作戦会議を始めようか」


エルザを含め、六つの影が顔を上げる。


「秋風響をこの手中に収めるために」


静かに言葉を聴く一同の中、エルザだけは表情をゆがめ秋風響という名前を口の中で反芻する。


秋風響。


「ディーンを・・・殺した女・・・・」


殺意に満ちたその言葉は誰の耳にも届かない。

暗闇の中、ゆっくりと、しかし確実に救世示は動き始めていた。




「にしても、あいつ救世示の中で最もハラ立つぜ・・・・」


一人、屋根の上でジョシュアが呟いていた。


キャラ紹介を書きたいところですが元が消え去ったのでなんとも・・・・。

要望があれば書いてもいいけど、面倒だしなあ。

ま、いっか。



あとがきおまけまんが

〜ジョシュアとロギア〜


ジョシュア「なあ・・・なんか、俺様たち出番少ないと思わないか?」


ロギア「・・・・・・」


ジョシュア「なあ・・・・俺様、適役としてちゃんとやれてるのかな・・・」


ロギア「・・・・・・あのさ」


ジョシュア「ん・・・?」


ロギア「ジョシュアって名前、いけてないよね」




あとがきおまけまんが

〜ジョシュアとロギア2〜


ジョシュア「ロギア、てめえいつもなんのゲームしてるんだ?」


ロギア「モンスターハン○ー」


ジョシュア「一人でか?」


ロギア「・・・・・・・・・・・・・」


ジョシュア「仕方ねえなあ、俺様も一緒にやってやるよ。こんなこともあろうかとベルの旦那にPS○を買ってきてもらったんだ」


ロギア「お前と組んで狩るくらいなら死ぬ」




あとがきおまけまんが

〜ジョシュアとロギア3〜


ベル「おや、どうしましたジョシュア。ひざをかかえて」


ジョシュア「いや、ロギアのやつ反抗期みたいで・・・」


ベル「ふむ・・・何があったかは知りませんが、わかりました。私のほうからロギアには言って置きましょう・・・安心しなさい、ジョシュア」


ジョシュア「ベルの旦那・・・やっぱ頼りになるぜ!」


数日後


ロギア「お前何ベルヴェールに言いつけてるんだ・・・マジ最悪」




あとがきおまけまんが

〜ジョシュアとロギア4〜


ジョシュア「俺様もう救世示やめよっかな・・・」


エミリア「何故ですか?」


ジョシュア「なんか最近いいことないんだよね・・・せっかく籠とか使ったのに俺様の能力名前すら出ないんだぜ?やになっちゃうよ」


エミリア「ここは居場所のないものたちがたどり着く最後の場所・・・あなたもここを出たら行く先などないでしょう」


ジョシュア「でも必要とされないのってつらいぜ・・・


エミリア「・・・・わかりました。ではこれを」


ジョシュア「こ、これは・・・わかったぜ、これでロギアの気を引くんだな」



数日後



ジョシュア「ロギア、これやるよ」


ロギア「DS?古っ・・・・今はライトだろ」



気づけば男も女も口が悪いのばっかりになってました。

どうなるこの小説。


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