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序曲


「あの〜・・・・・?」


「なんだ」


「どうしてその・・・・ギターなんですかねえ・・・・」


「ギターはいいぞ、コイツは誰かに想いを伝えたくてこの世に生まれたものだ」


「は、はあ・・・・」


「想いを伝えるということがどれだけ大事であるか、今のお前ならわかるだろうよ」


「ええ、まあ・・・・」


夕暮れだった。

河川敷を一組の男女が歩いている。

片方は学生服を身に纏った少女だ。背丈は小さく髪は野暮ったく伸びている。ちょっと手を加えるだけでかわいくなりそうな気もするが、それをしてないから野暮ったいわけで、ちょっと見込みは薄い。

正面で学生鞄を手にして、隣を歩いている男をおどおどしながら見上げていた。

隣を歩く男は文字通り見上げるという表現がぴったりなほど長身だった。その身長実に190センチ近い。

全身真っ黒の皮のコートにすっぽりと身を包んだその風貌はまるでアカデミー賞俳優か何かのようにも見える。実際彼の髪は金髪で、目は青く、その顔立ちは日本人のものではなかった。

青い瞳は丸いサングラスによって覆われている。ガラスの色はオレンジ。派手なデザインだった。

そもそもこの男を見て派手でないところなどひとつとしてなかった。

一見して二人がどんな関係なのか、誰にもわからないと思われる。


「それにしても、あの・・・よかったんですか?色々壊れてましたけど、車、とか・・・・」


「ああ、いいんだあんなのは。モノってのはな、生まれた瞬間壊れるのが決まってんだ」


「そういうことじゃなくて・・・・」


「それにしても今日はいい天気だ。はらがへったな」


男の足はとんでもなく長い。少女の歩幅の倍はありそうだった。

いや実際あるのだろう。少女はさっきからほとんど競歩状態で歩いている。

男はすたすたと、少女の歩幅なんか考えずに歩いていく。

ある意味自己中心的というかマイペースなやつだった。

おそらくその男を一言で言い表せばまさにそのGoingMyWayウルトラマイペースの通りだった。

そして少女を一言で言い表せば・・・平凡。普通。特に英語にするべきでもない超ノーマル。


がこん、がこん。


『川』が躍動する音が聞こえる。

ゆっくりと川から水を巻き上げながら塔が立ち上ってくる。

それは定期的に毎日行われ、住民にとって時報のようなものになっていた。

もちろんそれは少女にとってもそうであり、それを見て、


「もう六時ですねー・・・・」


「そうだな、よい子のみんなはそろそろおうちに帰ってご飯を食べる時間だ」


「よい子って・・・・」


「ところで・・・・今日の夕飯は何?」


「ええっ!?ウチに来る気なんですかあっ!?」


「何をいっとんだね君は・・・おれは君の命の恩人だぞ?フツーなんかこう、お礼は体でしますわ・・・とか、ああいい、君みたいな中学生に興味はないし・・・まあともかくなんかお礼するのが道理ってもんだろう」


「中学生って・・・・・まあ、そりゃ・・・・中学生ですけど・・・・中学生相手にそういうこと・・・・」


「何いってんだ、君はもうちょっとすればこう、ボイーンってなってくる気がおれはするぞ」


「なななな、何いってんですか!?そうじゃなくてそういう話をしないでってことですよう!」


「アレ?そっち?なんだ、日本の学校は遅れてるんだな」


「え・・・・・あなたの国の学校ってどんなかんじなんですか・・・・?」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・フッ」


「・・・・・・・・・・・・・・」


二人の影が重なって歩いていく。

その内ゆっくりと塔から噴水のように水が放出された。

それは霧状になって大気をゆっくりと漂っていく。

二人の背後、太陽の光に照らされて美しくそれらは輝いていた。


「・・・・・・あ」


「どうした?」


「そういえば、あのう・・・・・ギター、いいんですか?」


「何が」


「置いてきちゃったんじゃないですか・・・・?」


立ち止まって男は自分の周りをきょろきょり見回す。

ポケットの中には・・・ビスケットしかない。それが何故あるのか逆に不思議だったが、コートを脱いでみてもやはりギターは出てこなかった。

それも当たり前だ。つい先ほどまで少女もその事実に気づかなかった。


大事な大事なギターを、二人は現場においてきてしまったというのに。


「何故早く言わないんだっ!おい、君はばかか!?」


「え・・・・ごめんなさい・・・・でも私、悪くないような・・・」


「いいから走れ!くそ、君、こうなったら夕飯は何か豪華にステーキとかにすることだ!!」


「え・・・・・?それだから、私は悪くないような・・・・」


「シャラップ!!いいから走れ!青春ダッシュだ!!!」


「え・・・・・・・?」


二人は来た道を慌てて駆け戻っていく。

夕日はゆっくりと沈んでいく。


それが始まり。



その日から少女は、その男の波乱に巻き込まれることになる。

巻き込まれるといえば、もうとっくの昔に巻き込まれていたといえるのだが。






さて、では始めよう。






それはほんの少し未来の、少し不思議な町で起こった、不思議な物語。




ギターと夕日と青春ダッシュな物語。






そして少女はその日のことをいつか振り返る時、


その男の事を思い出すだろう。





その男の名は―――。










Justice Logic Alternative











時はさかのぼり数日前。


それは、必然のように訪れた。






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