麗しき学校生活
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夏。蒸し暑いことにも慣れ始め、汗をかきながら机に向かう高校生。つまり俺。
もう、俺の横で二人の美幼女が高校生の俺に勉強を教えるのは日常化し、俺としては如何にも不本意というものなのだが、本人である俺がそれもいいかもしれないと思ってしまっているためどうにもならない。
「あ、恭介! そこ間違ってる!」
「え? どこが?」
「恭介様、Xに代入するのはそっちではなく、こっちの数字です」
「ああそういうことか」
とまあ、俺よりも数学ができる弱い十歳前後の美幼女に間違いを指摘されているのだが、ここでもう一度問いたい。
――俺よ。それでいいのか? と。
しかし、どうしてかそれを許可する俺がいる。
ここで俺は思うわけだ。俺はもしかしたらMなのかもしれない。と。
だってそうだろ!? 狂気にも似た何かを纏う幼馴染の包丁にも何も言わず、何かあれば槍を投げてくる後輩がいて、こうやって幼女にも指図される毎日ですよ!? これをMと言わずなんと言いましょうか!!
否! これは決してMとかそういうのじゃない! これは幼女に勉強を教えてもらっているという正当な……のか、それ?
ダメだ。考えれば考えるほどにあらぬ方に話が進んでいく。
「ちょっと恭介! また間違ってるんだけど!!」
「へ? ああ、わかってる分かってる」
「全然わかってないじゃない! アンタ、バッカじゃないの!?」
「なっ……お前に言われるとなんかムカっとするな」
「そうですよ。ガサツなクロエさんと違って、恭介様は器用な方ですよ? 昨日の夜もすごく……良かったです」
「ちょっと待て。俺が昨日の夜なんだって? 俺、なにかしたっけ!?」
身に覚えのないことに俺は動揺する。
この動揺には二つの意味がある。
一つ目は身に覚えがないことへの不安感。
二つ目は今の時間だ。現在時刻は十二時、四時限目が始まってすぐの時間だ。つまり、この教室は静かで、尚且つ教員がいる。
そして、教員はあの中二病、幼女好き、暴力教師という付いちゃいけない三つの王冠を持つ伝説的教師の授業。
つまり、何が言いたいかっていうとだな。
「おい、御門。いっぺん死ぬか、ずっと死ぬかどっちがいい?」
「待って。ずっと死ぬってどういうこと? ねぇ、どういうこと!?」
「精神的に、殺す」
「ダメだこの教師……」
その後、殺気のこもった熱い眼差しを受けながら汗をだらだらと流す一時間を過ごし、ステージは昼休みに突入する。
いつからだろう、昼休みが戦争になったのは。
昼休みが始まるやいなや綺羅、春、真理亜、アルが教室に笑顔で入ってきた。
その手には皆二つのお弁当が常備されている。
盛大なブッキングの始まりだ。そして俺は、生き残るためにこの大量の弁当を食べ尽くさなくてはならない。残すことは愚か、誰かにおすそ分けすることさえ許されないこの極刑に俺は立ち向かう。
……はずだった。
「あれ? 恭介先輩お弁当いっぱいあるんですね。食べていいですか?」
「へ? ちょ、おま!」
「もぐもぐ。おいっしいですね~!」
「そりゃそうだろうけど、ってすげえな! あれだけあった弁当が一瞬で半分になったぞ!?」
俺に作られた弁当を一瞬で半壊させたのは薫だった。
薫は満足そうに笑顔を浮かべると、ちょこんと俺の膝に座り頭を俺の肩に置いた。そして、
「すー、すー」
「待って、寝ないで? いや案外マジで!! 殺されるから! 俺が滅ぼされちゃうから!!」
ご飯を食べていい気分になった薫はそのまま爆睡。薫は突き飛ばすわけにも行かず、俺は身動きがとれなくなってしまった。
いやいやいやいやいや! これはまずいでしょ! ほら、お弁当作ってきたみんなの頭に青筋が!? ちょ、起きて! 起きてください、薫さぁぁぁぁぁぁぁああああああああん!?
「おい、見ろよ。あれって、中等部の薫様じゃ……」「あ、ホントだ。薫様だ」「待って、薫様が座ってる場所って……」「裏切り者には死を!!」
いや、待ってくださいよ皆さん!! これは俺が座れといったわけではないんですよ! 勝手に座られたんですよ! だから俺のせいでは……ああもう、いいよ! 俺のせいだよ!
クラスからの冷たい視線は氷河期が温かく思えるほどのものでした。
そんなクラスの冷たい視線よりももっと冷たく、背筋が砕けるほどの恐怖を覚えさせるものが存在した。はい、ウチの六大悪魔様ですね~。
六大悪魔様は皆笑顔! 清々しすぎるほどの笑顔! だけど、そこが怖い! むしろ、笑ってるのが怖い!
「あ、あの皆さん?」
「恭ちゃん?」
「な、何ですか?」
「死ぬ?」
「いや、死なないけど……」
「死んで♪」
「なんで♪」
綺羅の口撃になんとか抵抗しつつ、ほかの笑顔に注目……しようとして諦めた。
ダメだ。これは手に負えない。さすがに教室で殺傷行為はしないと思っていた俺が馬鹿だった! モロ殺る気まんまんだよ、こいつら!
しかし、神はいた。俺の腕の中で神々しい光を放つ存在が。
「か、薫?」
「ふぁ……あれ、恭介先輩。どうしたの?」
「ど、どうしたのじゃねぇよ! おま、女神の力が漏れて……」
「え? あ、ホントだ。まあ大丈夫だよ」
可愛くウィンクして薫はクラスのみんなの方を見る。それに釣られて俺も見ると、クラスのみんなは呆然と薫を見ていて、こう言った。
「「「「「「「「「「め、女神だ……」」」」」」」」」」
「ね?」
「……ああ、うん。わかった。分かりたくないことだけはわかった」
どうやら、女神化した薫の光を受けるとただの人間は見とれてしまうのだ。
つまり、それは俺が普通じゃない証拠であり、目の前の悪魔六人も同じということになる。
だが、六大悪魔様たちは先の光を見て殺る気をしまいこんだ。
そして、みんなして小さくため息をつく。
「もうお昼休みも終わりだよ、じゃあ私は教室もどるから……」
「じゃあ私をそうしましょうか」
「うぅ……なんで私だけ家に戻らないといけないんですかぁ~」
「恭介! さっきの数学のところもう一回するわよ!」
「恭介様、お茶はいかがですか?」
「あーあ。恭介くんのはお預けか」
諸々愚痴りながらも教室を出て行く。
俺は……自由だ。じゃない。どうやら俺の危機は去ったらしい。
いや、その前に、
「おい、薫。お前起きてたな?」
「うっ……バレちゃった?」
「タイミングが良すぎだ。ったく、なんでそんなことすんだよ。俺が殺されるところだっただろうが」
「まあまあ。薫の寝顔も見れたし、薫を抱けたし、なにより薫のおかげで何事もなかったんだよ? 感謝してくれないかな~?」
「するか馬鹿。さっさと帰れ」
「は~い。……あ、恭介先輩」
「ん? ……んんっ!?」
教科書を出そうとしてよそ見をしていたのが悪かった。
不意を打たれて、俺は頬に湿っぽく柔らかい何かを感じる。背中がゾクッとし、頬が高潮するのを抑えられず、バッと俺は薫の方を見た。
そこにはいたずらな笑みを浮かべた可愛らしい薫が舌を出して笑っていた。
「へへ♪」
「お、お、おま……」
「大好きだよ、恭介先輩♪」
その後、俺が教室でどんな目にあったか、聞くまでもないだろう。いや、聞かないで欲しい。