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王様の物語

読んでくれると嬉しいです

 あ、俺ゾンビっす。それとこないだ王様になりました。

 俺は御門恭介。十七歳の普通じゃない高校生だ。

 俺はある朝トラックに轢かれ、一度死んだ。そのあと、死の神タナトスによって永遠の命をもらって今日に至る。

 日に日に熱くなる朝の日差しと、寝苦しさで目を覚ました。

 見れば、布団は昨日の夜見た時よりも数倍大きくなっていて、かなりの重さになっている。

 まあ、どう考えても布団を何枚も重ねられたようには思えない。というより、布団よりも熱くて柔らかいものがさっきから俺の手に置かれているのだが、これはどうすればいい?

 いっそ揉んでみるか? いやいや、さすがに不味いだろう。

 俺の中で揉むか揉まないかの葛藤がしばしば行われていたが、結果揉まされた。

 ふにょんとやんわらかい溢れ出しそうなおっぱいが俺の手をいじめる。


「んっ……」


 もはや誰の喘ぎ声かわからないくらいたくさんベッドにいるため、俺の妄想はさらに加速する。

 い、今のは結構でかかった! ということは真理亜か!? い、いや、そういえばこないだ綺羅も胸がどうこう言ってたな。もしかしたら……。

 ゴクリと、生唾を飲み、俺は空いている方の手で布団をゆっくり持ち上げて俺の手に収まっていない大きな胸が誰のなのかを確認する。

 すると、そこには女神がいたのだ!!


「……恭介しぇんぱ~い」


 なあ、男どもよ。中学生の女の子にこんなことを言われていろいろな意味で立たないでいられるか? これは俺がロリコンだからではないよな? 大丈夫だよな?

 俺の腕に抱きつき、胸を触らせていたのは少し幼いような顔をした薫だった。

 ちょっと前に気がついたのだが薫の言葉使いや、態度、その他諸々が以前とは全く違った。どう違うかというと、なんだかフレンドリーになったというか、むしろ甘えるようになったというか……。まあ嬉しいんだけどね!


「んんっ……あ、れ? 恭介先輩?」

「お、おう。ど、どうした?」

「なんだか、おっきくて硬いのが……えへへ♪ 恭介先輩のエッチ」

「い、言わないでくれ!!」

「だーめだよ~? 勝手に薫で妄想しちゃ~。けど、嬉しいなぁ。薫でも妄想してくれたんだね~」

「口調変わりすぎだろ!? ていうか、別にそういうんじゃ……」


 ダメだ。限界だ。こんな愛らしい女の子を見てここまで我慢できた俺をほめたたえてくれ!

 俺は布団に寝ているというのに体をくの字曲げ、前のめりになる。


「口調? ああ、薫はこっちのほうが普通なんだ~。お婆ちゃんに恭介先輩の前では丁寧でいろとか、女の子らしい服装でいなさいとかうるさかったけど、今は関係ないもんね?」


 にこにこと非常に可愛い笑顔を浮かべながら夏だというのにも関わらず布団に顔をうずめる薫。


「ど、どうりで寒がりなのに薄着でいたり、変な敬語になってたのか。で、でも、こ、これはまずいだろ……?」

「何が? 薫は恭介先輩の事好きだし、恭介先輩も薫のこと好きだよね?」

「す、好きとか嫌いとか以前の問題だよ!!」

「え~。けち~」

「とか言って抱きつくな!!」


 言って、俺は額に滲む汗を拭う。

 この汗は焦りで出た汗もあるが、その大半がこの分厚い布団に理由がある。

 何度も言うが今は夏だ。普通薄い掛け布団や、もしくは何もかけずに寝るのが普通のなのだが、薫がとんでもなく寒がりなのだ。今だって長袖長ズボンのパジャマを着て尚且つこのむさ苦しい布団をかけているのに汗一つかいていない。

 このこともあって、俺は大量の汗をかいているのだ。


「ふふん♪ 恭介先輩あったか~い♪」

「ああもう! 勝手にしろ!!」


 俺はもう諦めた! この暑い中でも、たとえ服の上からでも胸が触れればそれでいい!

 しかし、そんなエデンも長くは続かない。

 薫が飛び退いたかと思った瞬間、俺の腹は包丁、槍、光の槍によって上下にちぎられた。


「ぐはっ!」

「「「ちっ!!」」」


 盛大な舌打ちはおふざけがすぎる薫に向けたものだろう。でないと俺が泣く。

 てか、こいつら本気出しすぎだろ。俺の体が別れましたけど? まあ、直ぐにくっついたけど。


「薫。少しばかりおふざけがすぎるんじゃないですか?」

「そーかな? でも、しょうがないよ。恭介先輩は薫のこと好きなんだもん」


 ピキッ


「そ、そんなことないと思うよ? 恭ちゃんはそういうのに疎いから」

「それは綺羅さんに魅力がないからじゃないんですか~?」


 ピキピキッ


「恭介さんには私という奥様がいるんだから、少しは自重してくださいな」

「そーなんだ、『自称』奥様(笑)?」


 ピキピキピキッ


「先輩!」

「恭ちゃん!」

「恭介さん!」

「えー、おかしくない?」


 薫の巧みな話術(?)によってターゲットは薫から俺に変更、瞬殺された。

 いやね? おかしいと思うんですよ。どう考えても薫のせいじゃないですか? なんで俺が一日に二度も下半身にこんにちわしないといけないの? 

 泣いていい? むしろ泣いたほうがいい? この虚しさをどう表現すればいい!?

 俺は自身の流血を回復した体で一生懸命きれいにしている未来を考えながら泣く泣く攻撃された。


「えへへ、ごめんね恭介先輩♪」

「謝るならやらないでくれよ」

「だって、あのままだと薫殺されちゃうよ?」

「お前は死なねぇよ。少なくとも俺と契約してるうちは」

「そーだね。恭介先輩は薫を怪物にしたんだもんね」

「うっ……何がのぞみだ?」

「う~んと、赤ちゃん?」

「随分と飛躍したな!?」

「あはは、冗談だよ冗談。じゃ、朝ごはん食べてくるね~」

「ああ」


 本当に楽しそうに笑いながら薫はご飯を食べに行った。

 俺はというと、先ほど見た未来が本当にそうなって、布団、床に付着した俺の血液をきれいにしていた。

 もう一度だけ言おう。俺はゾンビだ。そして、こないだ日本国の王様になった。

 その王様の日常は、こんなにも羨ましく、悲しいものだ。

 だけどまあ――


「こんな生活も悪くない、か」


 ニッと笑って、俺は目の前の仕事に集中した。

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