高校生からゾンビへ、今度は国王へ?
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神崎の婆さんに呼ばれていたらしいので顔を出しに来たのだが、そこで俺は絶句する。
未だに冷たい視線を向け続ける真理亜に案内された一室は薄暗く、唯一の明かりは壁一面に張り巡らされているディスプレイの光のみ、そこにいたのは神崎の婆さんと、俺の両親、そして仲間たちだった。
「え? なんで勢ぞろいしてんの? まだこの話終わりじゃないよね?」
「バーカ。大事な話をするからに決まってんだろ。それともガキの頭じゃそんなこともわからねぇのか?」
「なぁ、親父。会って早々に息子の心をエグるのやめてくれませんか?」
ニヤニヤと笑いながら、親父は嬉しそうに言った。
その笑顔に不信感と不安をもって、俺は恐る恐る部屋の中に入った。
部屋の中心には神崎の婆さんがいて、それを取り囲むように皆がいる。
なんか、悪の集団みたいだな。え? 悪なんだ……。
「御門恭介」
「な、なんだよ」
「一つ、おぬしに質問じゃ。もし、この国に王がいたらどうする?」
「は? いたらって……別にどうもしねぇよ」
婆さんの変な質問に俺は首をかしげる。
そもそも日本に王なんていない……あれ? そういえば薫が王がどうとかって……。
「そうか。ならば、質問を変えよう。おぬし、王になったらどうする?」
「……なりたくないなぁ。面倒そうだし、なにより面倒そうだ」
俺の答えに親父が吹く。腹を抱えて笑い出し、何とも場違いなものとなっていた。
普段、研究室から一歩も足を出さない母さんも俺の答えにニコニコと笑っていた。
え? なに? 俺の両親は俺の不安を加速させたいの?
「やはり、おぬしにこの国は任せられんのぅ。破滅の一歩を辿るだけじゃ」
「ですが、おばあさま。先輩は――」
「何の話かわかんないけどさ。勝手に話を終わらせるなよ」
真理亜の弁解に割って入って、俺は言う。
なんか馬鹿にされているような気がするんだよな。気のせいではなさそうだし、そもそも話が理解できていないからこうなってもしょうがないんだけどさ。
それでも、真理亜の必死さに俺は言葉を出さずにはいられなかった。
「王とか、日本を任せるとか、そんなことはどうでもいい。俺には荷が重いとかそう思っているわけじゃないさ。ただ、俺は『ただの』高校生なんだ。普通に暮らして、普通に生きていければそれでいい」
「それを脅かす存在が出てきたとしてもか?」
「そんなもの、全力でお帰りいただくよ。力ずくでも」
「そんなことがただの高校生に果たして出来るのかのぅ?」
言われたくないことを言われて俺は言葉に詰まる。
周りを見れば、俺の答えを待ち望む体勢になっていて、後には引けない状況になってしまった。
はあっと俺は溜息をつく。
どうやっても事実は変わらないとは言うけど、本当だな。
俺は、言いたくはなかったことを言う決心をして、息を吸い込んだ。
「俺は見ての通りの怪物だ。神だろうが、英雄だろうが、ドラゴンだろうが、決して俺は殺せない。俺は死ねない体を持っていて、異能を持っていて、それだから常人にはなれない」
「先輩……」
「でも、だからこの生活が楽しいんだ。怪物の俺を一人の人だと見てくれるみんながいるこの日常が、嬉しいんだ。そんな日常が脆いことはわかってる。ハリボテの生活だということも。たとえそうだとしても、俺はこの脆くて美しい日常を何を犠牲にしても守りたい。それだけなんだ」
俺の本音など面白味も何もない。怪物の言葉など聞いていて苦しいだけだ。
だけど、これだけは俺の本音。これだけが、俺の本音なんだ。
神崎の婆さんはふぅっと小さく溜息をつく。
そして、
「やはり、おぬしには王としての素質も力も見えない。じゃが、おぬしにこの国を任せてもいいと思うた。わしの目には、未来が見える。おぬしが、この日本を守っていく未来が。辛い思いをさせただけのわしの孫娘が笑っている未来が。よかろう! おぬしは今日この時を持ってこの日本国の王者! 覇道を進む覇王だと認定する!!」
……あれ? なんか面倒な方に進んでいる気が……。
「い、いや! ちょっと待て!! 覇王とか王者とか、なにそれ!?」
「さて、わしは隠居の準備をするかのぅ」
「待てよ!!」
神崎の婆さんは部屋をサッサかと出て行ってしまった。
待って! どういうこと!? 何がどうしたの!? 俺はどうなっちゃったの!?
わけのわからないまま話が進んだため、わけのわからないまま何かに認定されてしまった。
「てことで、これからはお前が日本の王様だ。どうだ、気持ちは?」
「お、親父。なんで笑ってんの?」
「いや、俺の息子が王になるってどれだけ偉大なことか――」
「単純に俺で遊んでるだろ!!」
「あ、バレた? くくく、あははははは! お、おま、お前が王とか……似合わねぇ~!」
腹を抱えて大笑いしている親父に静かに母さんが近づき、さすがに起こってくれるのかと思ったのだが、そうではなかった。
「ダメよ。こ、こういうのは、か、影で笑わない、と……ぷっ」
「ダメだこの両親、息子で遊びまくってる……」
その後、両親は俺を再三馬鹿にしたあとあっさりと帰っていった。
残ったのはいつもの面々、ただタナトスだけはいなかった。
きっとあいつのことだ、アマテラスたちに迷惑をかけているのだろう。後で酒でも差し上げようか。あ、でも俺、酒が帰る年齢じゃなかった。酒のつまみにしておこうかな?
時期に夜になり、俺らがいた部屋には俺以外、誰もいなくなってしまった。
帰ればみんなが美味しいご飯を作って待っているのだろう。だが、その前に、
「なあ、タナトス。話をしようぜ?」
星雲の空を見上げながら、俺は虚空に話しかける。
しかし、そこにはいる。相棒が、タナトスが。
「バレちゃったか~。いいよ、二人だけのお話をしようか」
虚空から現れ、宙を浮かぶ神、タナトスを前にして、俺はふっと笑った。