サービスシーンは忘れずに
読んでくれると嬉しいです
目を覚ますといつもの場所。いつもの和風の一室だった。
それを見て、俺は安堵する。上半身を起こし、自分は勝利したのだと痛感した。
外は真夏の花を咲かせようと一生懸命に暑くなっていく。その中で、俺は川の流れる音を聞きながら悠長に勝利の余韻に浸っていた。
すっと、和室のドアが開かれた。
「……起きたんですね」
「ああ……顔色が優れないようだけど、どうした?」
「いえいえ。私は寿命ですよ。もって、あと二日だそうですよ?」
入ってきて早々に死の宣告を自身にしたのは花宮薫。真理亜とは幼馴染で仲のいい姉妹のような友達だと聞いたことがある。
薫は自身を半女神にすることができるのだが、その代償は寿命だった。半女神化をし続けた薫の体は悲鳴を上げ、現在に至るというわけだろう。
薫は可愛らしかった顔を悲痛に歪め、今ここにいるのも辛そうにしていた。
「なあ、薫……」
「嫌ですよ。恭介先輩の仲間になるのは」
「……でも――」
「だって、私は恭介先輩のこと、嫌いですから」
そう言っている表情も辛そうだというのに、薫は延命の策を考えようとはしない。
きっと、自業自得だと思っているのだろうが、決してそうではない。
自業自得で死んでいいのはいい加減なやつだけで十分だ。薫は、他人を、友人を助けようとしたのだ。死んでいいはずがない。
しかし、俺の能力『絶対服従の言霊』は相手の了承がなければ鎖に与えられたデタラメを受け継がせることはできない。
俺は諦めて再び外を眺める。
「今回はあっさりしてるんだね、真理亜の時や、あの魔女の時はもっと入ってったのに」
「生きる意欲がないやつに興味なんてない。死にたいなら勝手にそうすればいい」
「……ひどい人。私に死ねって言うんだ」
「そうは言ってないだろ。お前自身が生きることを拒否してんだよ。こっちにはどうしようも――」
言い切る前に、俺は口を塞がれた。薫の、柔らかい唇によって。
唐突なことに俺の体はついてけなかった。離れていく薫の顔を見て、俺はハッとなる。
「お、おま! なにして!!」
「えへへ。恭介先輩とキスしっちゃった♪」
「しちゃったじゃねぇよ!! こういうのはだな――」
「私、ひとつだけ恭介先輩に嘘ついたんだ。えっとね、私ね? あの戦いの後から、どうしてか京介先輩のこと、気になり始めたの。これって、恋、だよね?」
頬を赤らめて言うその姿は可愛らしく、愛らしかった。が、同時に薄っぺらかった。
俺はジト目になって薫を見る。そして、言う。
「そう言う冗談はいいよ。本音を聞かせてくれ」
「あはは。やっぱりばれたか~。でも、恭介先輩を好きなのはホントだよ?」
「はいはいそうですか」
「たはは……ホントなのになぁ」
そっけない態度を見せる俺に、薫は困った顔をしながら頬を掻いた。
本人は俺に聞こえないように言ったつもりだろうが、俺には聞こえていた。最後の言葉は、信じるに値する本音であることに、俺はふっと笑った。
薫もただの女の子なんだな。まあ、恋愛対象が怪物なのが少々難ではあるけど。
俺は薫を見て、言う。
「花宮薫」
瞬間、薫は鎖に巻かれ、縛られていく。異能『絶対服従の言霊』だ。
俺に真名を言われ、仲間になることを了承すると一生俺の傍にいることを約束される。
それは、俺が死ぬまで続く。死ねない体を持った俺と一生いるということは、永遠を経験するということであり、同時に死ぬことができない怪物へと変化することを差す。
果たして、薫はこのことを深く考えたのだろうか。いや、考えるまでもなかったのだろう。
「どうだ? 体の倦怠感はないか?」
「まだ少し怠いかなぁ。でも、さっきみたいな重い感じゃないよ」
「そうか。まあ、じき慣れるだろ。それまではベッドとかで……っておい」
「てへへ♪ あったかーい」
俺が薫の体を重んじて言った言葉をどう解釈したのか、薫は俺の布団に入ってきた。
しかも、真夏に温かいなどとぼやき、笑顔で布団に顔をうずめていた。
なんだか、見ているだけで暑苦しいな。
そう思って、俺はかかっていた掛け布団を薫にかけてやる。
薫はダルさのためかすぐに寝てしまった。無邪気な寝顔と、とても女の子らしい無防備な体を俺の横でちらつかせながら。
いやね? 俺も男なわけですよ。ええ、死ねない体でも男なんですよ。横で可愛い女の子がいたらボディータッチとかしたくなるじゃないですか! あわよくばとか考えちゃうじゃないですか!
しかも、ついさっきキスをした仲ですよ!? これは誘っているとしか思えないじゃないですか!!
しかし、しかしだ御門恭介十七歳童貞! 相手は間違っても中学生! しかも、十五歳の美少女だ! ここで襲ったらどうなるか、貴様の能無しのわかるだろう? ロリコンになりたいのか? 変態になってもいいのか?
じっと寝ている薫を見つめ、俺は葛藤する。
いや待て、二歳下だからぎりぎりロリコンじゃない? しかも、さっき俺のこと好きとか言ってなかった? これはもう合法的に大丈夫なんじゃ……。
「先輩。薫を知りませんか――?」
「ですよね~、うん知ってた」
大抵の場合、俺が何かまずい状態にいるとき、必ずと言っていいほど邪魔が入る。しかも、最悪のタイミングで。
俺の手は薫の頬を触ろうとしていて、真理亜の冷たい視線はその手に殺意さえも感じさせるほどのものだった。
当然、そのあとは毎度恒例の真理亜さんのお仕置きが実施されたのだが、その際薫は幸せそうに眠っていた。その表情はまさに天使、女神だ。対して真理亜さんは……言わずともわかるだろう?
「そういえば、おばあさまが呼んでましたよ?」
「そ、それ、槍で殺す前に言ってくれませんかね……」
「はい?」
「い、いえ、なんでもございません」
ギランと光る銀色の刃先を向けられて、俺は恐縮する。
いやぁ。真理亜さんマジぱねぇっす。マジ怖ぇっす。
回復を終えた俺は立ち上がり、上着を脱ぎ出す。
「せ、先輩!?」
「なんだ?」
「なんで脱いで、いるんです?」
「いや、これから人に会うのに血だらけの服はまずいだろ……」
「そ、そうですよね! そうだと思います! で、では、私は廊下で待ってますから!!」
言って、真理亜は疾走する。どうやら、そんなに俺の体を見たくなかったらしい。
うん。なんで俺は嫌われているんでしょう? 助けたのもう忘れられてる?
見返りが何一つなかった戦いに、既に余韻など存在しない。俺の生活は今再スタート切ったのだ。切り替えが大事だと人が言うように、俺も切り替えていこう。
そういう趣きで、俺は部屋を出た。
ユニーク数一万超、ありがとうございます!
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします!