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英雄だって負けてもいいはずなんだ

読んでくれると嬉しいです

 俺たちと、英雄たち。両者は一斉に走り出す。


「あの時はよくもやってくれたね! でも、今回は最初から本気で行かせてもらうよ!!」

「う~ん。覚えがないけど、まあいいよ。君のたわいない攻撃なんて怖くはないからね」


 そう言われて、フレイが珍しくキレた。

 フレイが右手を振るうとスイカほどの炎の塊をインドラに向かって放った。

 しかし、


「させませんよ」


 剣を二本持ったベーオウルフの素早い斬撃によって炎はかき消された。それでもフレイは笑いながら攻撃を繰り返す。

 数発繰り返すと、フレイはリハビリを終えたような顔で、首をコキコキと鳴らした。


「さて、ウォーミングアップはここまでだよ。さあ、来い。プロメテウスの炎」


 瞬間、フレイを取り囲むように先ほどとは比べ物にならないほどの濃密な紅の炎が現れる。

 プロメテウスの炎。暗喩で原子力のことを差すその言葉を言い放つフレイに、俺は見とれた。

 なんと綺麗な炎だろうか。そして、何とも凶悪な炎だろう。ひと触れでもすれば骨の髄まで溶け出し、原型を残すことが困難になるほどの濃密な炎は、綺麗で同時に恐怖を覚えさせる。

 その炎を鎧を着こなすようにするフレイは本当に強い人材なのだろう。


「消え去れ、チリを残すこともできずに!!」


 放たれた炎は流石にベーオウルフでは受け止められず、インドラでさえも避けるほどの威力だった。しかし、その攻撃は少なからずのダメージを相手に負わせた。

 その頃、俺はというと記憶に入ってきた妙理の能力を読み上げていた。

 この真っ白な世界のこと。能力の詳細な情報。その全てを読み上げている最中、狂戦士ジークフリートの凶悪なバスターソードが迫り来る。


「隙だらけじゃねぇか!!」


 笑いながら殺人を行おうとするジークフリートに俺は軽く右手を触れた。すると、ジークフリートは全く動かない鉄へと姿を変えた。

 もちろん、凶悪なバスターソードはもう迫りこない。俺への驚異はいなくなったのだ。


「貴様!! ジークフリートに何をした!!」

「ちょっと鉄になってもらいましたが、何か?」


 怒るペルセウスに俺はニヤッと笑って言葉を返す。

 しかし、俺の中でもかなりきつかった。なにせ、少し動かしただけで肩の皮膚が割れ血が流れ出していたのだから。

 ちくしょう。これじゃあ力が使えても状況が変わらない。俺がどんなに不死身、超再生を持っていてもこのダメージは回復するには大きすぎる。


「雷電!」

「おうよ!」


 呼ぶと雷電は巨大な龍へと姿を変え、宙を飛び回る。その体からはまるで電気ウナギのように電気を帯びており、触れば感電死する程のものだった。

 雷電は自身の尻尾を噛み、円を作り出す。

 そう、これはいつぞやの超兵器『レールガン』。

 でも、鉄がないって? ないなら作ればいいのよ。

 俺は手を振るう。すると鮮血と共に雷電の作り出した円の中心に超巨大な鉄の塊が現れる。

 それは雷電の電気を帯びていく。あとは押し出すだけ、俺はもう一度手を振るい、それを打ち出すハンマーを虚空に作り出した。

 そして、そのハンマーは電気を帯びた鉄の塊を押し出し、レールガンが発動した。


「なっ……!」

「お前の自慢の矢で射抜けるものなら射抜いてみな。ただし、亜音速で移動する超巨大なエネルギーの塊を射抜けるというのならの話だけどな」


 口からも、腕からも、もはや臓器からも流血の感触を覚える中で、俺はペルセウスに今までのことをお返しした。

 ペルセウスは何もできずに亜音速で移動するエネルギーの塊にまもなく飲み込まれていき、姿を消した。これで、残るはあと三人。


「俺を、忘れる、なよ?」

「ああ、わかってるよ。でも――」


 俺の背後をとった巨人が俺の体を掴もうとするが、それはかなわない。なぜなら、


「我も忘れてくれるなよ?」

「くっ……これ、は」


 ヘラクレスはヴリトラに巻き付かれ、身動きが取れなくなってしまった。だが、ヘラクレスが身動きできないのにはもう一つ理由が存在する。

 それはヴリトラの強力な呪いだ。ヴリトラは巻きつくと同時に呪いを何重にもかけたのだろう。もう、ヘラクレスはあそこから出ることはできない。

 その光景はまさに狩りを行う蛇のごとし。ヴリトラはヘラクレスが動けないことを確認してから頭から丸のみした。

 これで、残り二人。


「どうだ、フレイ。終わったか?」

「ああ、でも一匹取り逃がしてしまったよ。さすがに神はしぶとい」

「そうか。あとは任せていいぞ」


 俺はフレイが取り逃がした英雄神インドラの元に向って歩く。

 歩くたびに皮膚は破れ、血管が破裂し、全身を赤く染め上げる。

 だが、背後で寝ている二人の影を見ると、そんなことはどうでもよくなった。


「よお、インドラ。随分と傷を負ってるじゃないか」

「き、君もね。いやはや、まさかここまで強いとは思わなかった。僕の集めた先鋭をものの一瞬で消し去ってくれるとは……僕は一体どこで間違えたんだろうね?」

「知るか。でも、お前の間違いはきっと、俺の仲間に手を出したことだと思うぞ?」

「ふふ……でも残念だ。君の本気は、僕の本気に負けてしまうのだから」


 まだ負けを認めないインドラは、右手に棒状の先に槍のような刃を持つ何かを取り出す。


「貫け。雷光の名のもとに……金剛杵(ヴァジュラ)!!!!」


 それは白銀の雷を纏い、俺に向け投射された。

 高速で移動するそれを見て、俺はため息と共に言う。


「悲しいな。死を急ぐのか」

「なっ……がはっ」


 ヴァジュラと呼ばれたそれは投げられた俺にではなく、投げたインドラの腹をえぐった。

 インドラの腹からは大量の血が流れ出し、真っ白な世界を禍々しい赤色で赤く染めていく。


「な、なんで!」

「この世界は俺の世界だ。位置を移動させるなんてお手の物だろう?」

「くっ……僕のいた位置と、君のいた位置を咄嗟に反転させたのかい……?」

「そういうことだ……インドラ。お前は間違えた。俺を、俺たちを本気にさせてよく平気でいられると思ったな」


 だらだらと血を流しながら、俺はもう動けないであろうインドラに近づいていく。

 その右手にはいつの間にか刀が握られている。この刀は、名を『夢幻』という。もう一刀、夢幻と同じ姿をする刀、名を『無限』というものが真っ白な世界の中で唯一の本物を手に取る。

 すると、真っ白だった世界は時間と元の姿を取り戻し、俺たちは倒壊した元ビル跡地に足を踏み入り、手に持った刀を俺はインドラの顔の前にかざす。


「もう、ここには近づくな。俺の視界に入った瞬間、俺はお前を殺す」

「……逃がすつもりかい?」

「俺に面倒が降りかからないのなら、別にお前が生きていても問題はないからな」


 能力を消し、俺はインドラから離れていく。真理亜と薫のもとに行って、二人の安全を確認してから俺はもう一度振り返る。

 だが、そこにはインドラの姿はもうない。

 安心したからか、全身から力が抜けていくのがわかった。気が付けば俺は地面に倒れていて、気を失っていった。

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