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俺に目に、何が写っているのか

読んでくれると嬉しいです

 真っ白な世界。ビルも、人も、恐怖を覚えるほどの夜も、何もかもがなくなり、残ったのは俺と英雄たち、そして真理亜と薫だった。

 

「へぇ。これは面白い趣向だね。でも、これで君は隠れることもできなくなったわけだ」

「隠れる必要なんてないさ。お前たちはここで負けるんだから」

「……どこから来る言葉かわからないけど、ふざけているようではなさそうだね」


 眉を上げ、俺の変貌に驚きを覚えるインドラ。それもその筈だ。俺は体を動かすのも無茶な状況だったのだから。だが、それすらも過去形でしかない。

 今は、もっとひどい有様だ。

 クソッ! 指一本でも動かそうとすると血管が浮き出て破裂しそうじゃねぇか!

 現に、言葉を発しただけで口の中に何とも言えない鉄の味が広がっていた。

 どうやら、これがこの能力の代償ということらしい。まだどんな力かもわかっていないのだが、この致命傷を受け続けるのは危ない。

 そうは思うのだが動かすことのできない体に困惑し、どうすればいいのかと頭がパニックを起こしていた。

 すると、


『……見るに見兼ねるほどのアホだな。力を欲して身を破滅させるのか』


 俺の前にこの能力者の残像が現れ、やれやれと首を振った。

 名前は、確か岸谷妙理。他世界の主人公で、能力は……。


「うっ……」

『俺がいつ、お前を認めたと言った? お前は、誠意を見せてないぞ。俺の力を使いたいという誠意を』

「んなもん。どうすれば……」

『考えろ。脳が焼き切れるまで考えて考えて考えろ。ありとあらゆる可能性を潰していって、最後に残ったものこそが俺の能力の本領だ』


 それがヒントだと言わんばかりに妙理は腕を組む。

 考えろ? この状況で、何を考えろって言うんだよ。

 目の前は敵、後ろには傷ついた仲間たち、俺の体は言う事を聞かない。

 こんな悪条件で、何を、どうすればいいかなんて、可能性もなにもないだろうが!

 頭を抱えたいが、その行動をしようにも大怪我を負うので出来ない。


「どうしたのかな? 能力を発動して向かってこないのかい? それとも、能力に異常でも発見したのかな?」


 ニヤッと、インドラは俺の状況を把握したように笑う。

 先ほど、強がりを言ったのだが、今になって俺は馬鹿なんじゃないかと思う。そんなことをすればただでさえこんな状況を楽しんでいる英雄たちに火をつけるだけじゃないか!

 こんな危険な状況に置かれても、妙理は何もしない。してくれない。

 どうすればいい!? この力の記憶さえもないこの手探りの状況で。全ての仲間を助ける方法は、なんだ!!


「行っていいよ。彼は、詰んだ」


 インドラの終わりの合図がくだされる。

 一斉に迫り来る英雄たち。なす術のない……いや、本当にそうか?

 思い出せ、今までの全てを。今日に至るまでの全ての記憶をこの一瞬で思い返せ!

 何か、何かあるはずなんだ。この状況を打破する最善の一手が!!


「……これか!」

「もう遅い!!」


 迫り来る剣。切先が俺に触れようとするとき、俺の一言で全ては逆転する。


「来やがれ! 邪龍ヴリトラ!!」


 瞬間、白い世界に真っ黒のウロコを全身に纏う禍々しい龍が顕現する。

 野々宮春に取り付いていた不運の元凶、一度俺に屈服した龍。数々の呪いを駆使する絶対の邪龍。その姿が今、俺の前に立ち、英雄たちの攻撃を跳ね返す。

 そう。俺の下した最善の手。俺が感じ取った最高の一手を駆使したのだ。


「まさか、気づかれるとはな」

「俺もびっくりだぜ。あの一瞬でお前が俺の仲間になることを了承したなんて」

「ふん。そうでもなければ我は跡形もなく消え去っていただろう?」

「まあ、な」


 先の戦い。ヴリトラとの戦いで、俺は絶対服従の言霊を発動した。そのときは能力の全貌を知らなかった俺はヴリトラの名前をフルネームで言ってしまった。その時に、ヴリトラは自分の死を予感し、俺の仲間になることを了承して延命していたということだ。

 そして、数日が経ち俺は能力の全貌の一端を知り、能力を使って仲間を呼び出したのだ。

 だが、俺の呼び出しはそれだけでは終わらない。


「来やがれ! 雷電!!」


 二匹目の龍、雷電を呼び出すと、ダンディな格好をした雷電が颯爽と現れた。

 理由を聞かずとも雷電は状況をどうにか把握し、戦闘態勢に入った。


「主様。どうやら腹は決まったようだなぁ?」

「ああ、腹どころか、命まで決まったよ」

「そりゃあいい! その命の決定、俺様は一生ついて行ってやるよ!」

「言ったな? 言っとくが俺は死なないからな? 途中で飽きてもどこにも行かせないからな」


 ゲラゲラと笑う雷電。

 それを見てふっと笑うヴリトラ。昨日の敵は今日の味方とはよく言ったものだ。しかし、俺と英雄たち(こいつら)は仲良く出来そうにないな。

 仲間を呼び出し、あとは能力を使えるようになるだけという状況で、主人公妙理は拍手した。


『仲間に頼る。素晴らしい答えだ。そう、頼れるのは信頼に富む仲間と、それを信じさせるほどの力。お前には仲間がいなかった。だけど、まだ足りない。お前には、まだ仲間がいるはずだ』

「わかってるよ。もうすぐ、全員揃う」


 言うやいなや、空を駆ける紅蓮の炎を纏う何か。

 俺はそれを見て、呆れ半分、嬉しさ半分の微妙な気持ちになる。


「待たせたね!!」

「待ってないが、よく傷が治ったな、フレイ。重傷だったんだろう?」

「聖なる炎に当たればどうってことないさ!!」


 そう言って、屈託のない笑みを見せるフレイ。

 背後には相棒のプロメテウスが毅然とした態度で立っていた。

 これで仲間は揃った。あとは、こいつらを信じさせるほどの絶対の力があればいいだけだ。


「もらうぞ。お前の力を」

『好きに使え。今いる俺は、力に残されたただの意識だ。でも、そんな俺だが賞賛しよう。お前は、いい主人公だよ』

「ありがとよ」


 舞台は整った。役者も揃った。この茶番みたいなふざけた戦いを終わらせる最後の時間、悔いのないように圧倒的な大差で勝ち進む。

 英雄たちと、異常な高校生の意地と意地の争いが、再開する。

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