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解き放たれた全て

読んでくれると嬉しいです

 その頃、神社では……


「なんじゃ、この力は!!」

「……ふぇっく、どうやら神に近い存在になった奴がいるみたいだな。なあ、アマテラス。どういうやつだと思う?」


 驚く天照にほどよく酔って顔を赤くしたスサノオが言う。

 すると、天照は鼻を鳴らして言った。


「どうせ、あのガキじゃろうて。にしても、この力は一体どこから……」

「匂う匂うと思ったが、あの異教神。何かしやがったらしいな。ったく、人一人の人生をおかしくして何がしたいんだか」

「タナトス……そうか。なるほど、どうりでこの時期に帰ってきたわけだ。なるほどのぅ」


 一人頷くアマテラス。しかし、スサノオはその意図を尋ねない。

 どうせ、面倒なことに決まっている。それに、いざとなったら天叢雲劍があいつの傍に入る。この日本国を窮地に陥れた怪物から生まれた剣が。

 スサノオは手に持った酌をゆっくりと傾け、酒を口に含む。

 そして、ニヤッと笑ってまん丸の月を見上げて酌を突き出した。




 神崎邸、そこにあいつはいた。

 全身に巻かれた包帯を焼き切り、あらわになる姿。ツヤのある金髪に、御門恭介が最も嫌うイケメン顔。そこからは想像もできない凶悪な笑顔。

 そう、そこにいるのはフレア・フレイ。天上の業火の二つ名を持つ神、プロメテウスを相棒に持つ少年。


「フレイよ。もう行けそうか?」

「ああ、万全じゃないけど。まあ、彼が戦っているんだ。俺が参加しないでどうする?」

「はぁ、お前は昔から変わらないな。よかろう、我々に二度の敗北は存在しない。今度こそ、天上の業火と呼ばれた我らの力を披露しよう」

「さあ、行こう。俺たちの戦争に」


 凶悪な笑みを浮かべたまま、フレイは全身を燃やして宙を浮く。

 次の瞬間、天井に飛び上がり、目の前に現れる全ての障害を溶かしながら目的地に向かった。




 誰もいない部屋の中、神崎の祖母はある人物を待っていた。

 その人物はドアを蹴破って入ってきた。


「何の用だよ、ババァ」

「こんにちは、お婆ちゃん。いえ、こんばんわかしら? この頃外に出ないからわからなくなってきちゃったわ」

「よく来てくれた。急で悪いのじゃが、要件を言わせてもらおう」


 そう言って、神崎の祖母はディスプレイに映った少年を見せた。

 そこに写る少年は御門恭介。そして、少年が殺されかかっているシーンだ。

 普通なら、動揺して何も言えないか、もしくは目に涙を浮かべるところだが……


「おうおう。負けてんのか? ダメだねぇ、あのガキは」

「もう、あなたがちゃんと鍛えないからでしょう?」

「俺は仕事で忙しいんだよ。お前がしろよな」

「私だって研究で忙しいのよ。あ、そうだ。お婆ちゃん指導してあげてよ~」


 などと笑顔で話している点、この夫婦は頭がイカれているのだろう。

 だが、神崎の祖母は動じない。この程度、予測していたからだ。


「いいのかのぅ。このままでは御門恭介は死に至るぞ?」

「は?」

「え?」


 夫婦の表情が凍る。流石に状況が掴めたのだろう。と、神崎の祖母が思っていると、


「くくく」

「?」

「「あっはっはっはっはっは!!」」

「!??!」


 笑った。目の前の夫婦は息子の窮地を笑ったのだ。

 これには神崎の祖母もため息が漏れる。なにせ、目の前の夫婦はこの映像を見ても状況どころか何一つ感じ取っていないのだから。

 神崎の祖母が諦めきっているところに御門流星が言う。


「バカじゃねぇの? 俺の息子が死ぬかよ」

「は?」

「そうよ。私たちの息子がそう簡単に死ぬわけがないわ」

「現に今殺されそうなのじゃが……」

「見ろ。あいつ、やっと本気を出すぜ?」


 流星が指を指すディスプレイを見て、神崎の祖母は驚いた。

 全身から大量の血を流し、全身の骨も砕けているだろうに少年は立ち上がった。ある一つの目標のためだけに。

 孫娘の真理亜を助けるという突拍子もないただの偽善のためだけに。


「ババァ。アンタは何か勘違いしている」

「……?」

「「俺たち(私たち)の息子が何一つ成し遂げずにただ愚痴るなんていう、そんなくだらない人生は贈ら(ねぇ)(ないわ)」」


 その時見た夫婦の目は、誰しもを恐怖させ、希望を持たせ、信じさせてしまうほどの確かな光と自信があった。

 神崎の祖母はその目を見て、再びため息をついた。

 どうしてか。最初からあの少年には何かを感じていた。それは恐怖。それは希望。それは……。


「なるほど、ワシも潮時かのゥ」

「隠居するなら手伝うぜ? いい場所を知ってんだ」

「もしくはお婆ちゃんの体を調べさせてよ」


 屈託のない笑みを見せる夫婦。神崎の祖母はちらっとディスプレイを見て、少年にこう言った。


「勝て。これから先も、永遠に。お主の進む道は、修羅道じゃぞ」





 満月。少しに歪みもない大きな月を前に、タナトスは腹を抱えて笑っていた。


「やっとか。やっとなのかい。これで……これでやっと話が始められる。僕と君の、最初で最後の話を」


 タナトスの目の前には五人の主人公の残像が出現した。

 皆、タナトスを見て、呆れていた。


「君たちのおかげだ。君たちのおかげで、僕の願いは成就する」

『お前の願いのためじゃない。俺たちは、あのガキのために、この世界の主人公のために能力を発揮しただけだ』

「そうだとしても、結果的に僕のためになっているんだよ、神谷信五くん」

『いい加減、その薄笑いをやめたらどうだ。タナトス』

「君はもう少し笑ったほうがいいんじゃないかな? 岸谷妙理くん」


 残像のたちは皆黙った。タナトスはそれを見計らって、話を切り上げ満月に向って手を差し伸べる。


「さあ、始めよう。長い長いプロローグを終えて。勝って、始めよう」 

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