見えないもの、見えるもの
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気が付くと、俺は瓦礫に足腰をやられ、身動きが全くできなかった。
視界は赤く染まり、口の中は鉄の味だけ。きっと傍から見ればとても痛々しいのだろう。
なんで、俺はこうなった? どうして、俺はここで寝ている?
「うっ……あぁ……」
時間が少し経ったおかげか体の自由が少しは戻ったので瓦礫をどけて、俺はゆっくり立ち上がる。
見ると、この街で一番大きかったビルは倒壊しており、その瓦礫の上にそいつらはいた。
「おやぁ? まだ生きてたのかい?」
「あぁ、死ねないんでな」
「くっ、ははははははは! 皮肉も皮肉、惨めも惨めだね! 君は何も守れずに、そうやってただ見ることしかできない! 今、確信した! 君は英雄にはなれない!!」
まだ、こいつは俺を英雄にしようとしていたのか。俺がなれるはずがないのに。
英雄にはなれない。当然だ。俺は英雄に狩られる側の怪物だ。でも、それでも――
「英雄が負けることだってあることはある」
俺は間違いようのない怪物だ。だからこそ、英雄に匹敵するほどの力がある。
ならば、英雄に勝ったっていいじゃないか。英雄が俺に敗北しないという確証はない。俺は勝てるはずだ。まだ、その一手を使っていないだけで。
「まだ、勝つつもりなのかい?」
「当然だ。俺の助けを必要とする奴が、目の前にいる限り俺は負けられない」
「……なるほど、君の原動力はこの女の子というわけか。じゃあ、殺そうか♪」
「なっ……」
インドラは軽い気持ちで剣で真理亜の華奢な体を貫いた。
真理亜の腹からドクドクと真っ赤な血が流れ出し、地面を真っ赤に染め上げていく。
嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ! ――夢、なんだろ?
何度目をつぶろうと、何度頭をふろうと、この悪夢は終わってくれない。
インドラは俺に追い打ちをかますかのように、横たわっていた薫にも剣を突き刺した。
「うっ……」
「か、薫!!」
「あ、あははは。まさか、女神の加護を得ていても攻撃できたとは思いませんよ~」
「ふふ、君は気が付いていないのかな? 君自身が、女神化を解いていたんだよ。無意識のうちにね。だから、僕たちにも殺すことができた」
「な、なるほど~。わ、私は、無意識の、うち、に……」
薫の目から光が失われていく。
駄目だ。行くな! 行くなよ! まだ、まだ俺はお前を――
プチンっ
俺の中で何かが切れたような気がした。
「嘘だ。嘘だぁぁぁぁあああああ!!!!」
「うるさいですよ――――え?」
ベーオウルフが不思議そうな声を上げる。
当然だ。剣を突き刺したと思った相手が目の前から消えたのだから。
剣を突き刺されそうになった俺はというと、地面に捨てられた薫と真理亜のもとにいた。
俺は、薫と真理亜を抱き上げ、頬を撫でる。大丈夫だ。まだ生きてる。まだ、希望はある。
すると、俺が背後に現れたことに気がついたペルセウスが剣を携え、俺に突進してくる。
「近づくな」
俺がそう言った瞬間、光を放ちながら俺を取り囲むように鎖が螺旋し、ペルセウスの進行を邪魔する。
絶対服従の言霊。絶対服従とは、人ではなくこの鎖のことだったのだ。きっと、神崎の婆さんは人を操れるのだろう。だが、俺にはそんな強制力は存在しない。ただ、この鎖に与えられた命令が人に作用するだけなのだ。
なぜか、俺はそんなことを瞬間的に会得していた。
真理亜たちに応急処置を施してから地面に寝かせて、俺は立ち上がる。
ポケットに手を突っ込み、押し黙っているメダルを掴みとり、叫ぶ。
「ここまでされて黙りか!!」
俺の怒りが、苦しみが、その全てを感じても反応しないメダルに、俺は怒りを覚えた。
しかし、メダルは光らない。
「それでも……それでも主人公か!!!!」
なんでもいい。あいつらに勝てる力が欲しい。仲間を守れる力が欲しい。何を犠牲にしてもいい。仲間を助けられるなら、この世界を消しても構わない。
だから、だから!!
「俺に力を寄越しやがれぇぇぇぇぇええええええ!!!!」
メダルを強く強く握り締め、叫ぶ。すると、メダルは神々しい光を放つ。
俺はメダルを宙に弾き、唱える。
「俺、御門恭介が願い奪う。森羅万象有象無象の全てを破壊する力を。世界という隔たりを超越する無限と夢幻の力を。今、俺のもとに来い、無と夢の狭間を彷徨う力!!」
唱えると、世界が真っ白の空間と化した。