嫌な予感が寄ってくる
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朝日が出ると同時に、空は大量の雨雲によって光は遮られた。
その中で、不安がりながら揺れる船を運転する船長。
「おいおい。マジかよ……嵐に耐えられるほどの力は、この船にはないぞ?」
船長はついに降り出した雨を見ながら、苦い顔をする。
すると、同乗者である一人の少年が、船の上で上を見上げて笑っているのに気がつき、船長は声をかけようとすると、空が一瞬の閃光に包まれた。
雷である。
船長は苦い顔を再び渋らせた。
「クソッ。こりゃ、荒れるな。早く帰りたいが……それも叶わないようだぜ」
「どうしたんだ? これくらいの嵐で」
「お前みたいな小僧には海の怖さがわからねぇんだよ。この船で、嵐は越せねぇんだ。いざとなったら、覚悟してくれよ?」
「……絶対に嫌だ。なんで俺がこんなオヤジと心中しないといけないんだよ」
「そう言ってられるのも今のうちだ。さ、荒れるぞ」
船長は怖いもの知らずの少年をそのままに、舵を取る。
荒れる海。飲まれそうになる船を操縦し、船長は目的地まであと少しのところで、重大な問題が発生したことに気がついた。
船が動かない。
それは何かに掴まれているとか、そんなものではない。ただのガス欠というやつだ。
しかし、予備のガソリンはあるが、入れるところまで行くのにもこの嵐の中の移動には時間がかかる。
つまりだ。生き残るには、致命的な時間だったのだ。
「クソ!! ここまでなのか!!」
船長が叫ぶと、少年は首を傾げて小さく呟いた。
「そうか。そういうことか。君は、遊んでいるだけだと……?」
「おい小僧。何言ってんだ?」
「はは。そう荒ぶるなよ。俺は、別に戦いに来たんじゃないんだからさ」
「クソッタレ! こいつも頭がいかれちまったのか!! 俺は逃げるからな! お前も生きろよ!?」
そう言って、船長は荒ぶる海に身を投じて、船の上から姿を消した。
それに気がついた少年は、ため息を着く。
「はあ、あの人以外、この船を操れるのはいないんだけどな……まあ、いいや。後で火で船ごと移動すればいい話だし。楽勝だね。さすが俺」
『ぜはははは!! 俺様を前にしてよく生きてられると言い切れるな!!』
少年の前に、閃光が一閃する。
雷が落ちたというより、落ちてきたというほどの近距離で雷は落ちてきた。
しかし、少年は笑顔でその雷を見ていた。すると、雷は一匹の大きな何かに変わり、それはすべての人が畏怖する存在、力の権化、ドラゴンと姿を変えた。
「生きるも何も、君には俺を殺す理由がない。そうだろう?」
『だからと言って、殺さないとは限らねぇだろうが!!』
そう言って、ドラゴンは口から閃光を放つ。
閃光は雷と変わり、少年の腕を吹き飛ばした。だが、少年の腕から血は噴出さない。それどころか、腕の断面には肉ではなく、空洞になっていた。
「君も罪なドラゴンだね。俺に攻撃するとは」
『ほう……お前もただの人間じゃねぇようだな!』
「お前も? ……そうか。お前の真名は――」
『そんなことは今は関係ねぇんだよ!! 吹き飛べ!!』
再びドラゴンの口から雷が放たれる。
雷は少年の体を焼き飛ばすように光のスピードと同等の速さで向かってくる。
しかし、
『なっ……てめぇは……』
「思い出したか、同胞よ。直接的な関係などはない。しかし、我の名は、貴様も知っているだろう?」
『人に、火を与えた馬鹿野郎……先に考える愚か者、プロメテウス、じゃねぇか』
少年の背後に現れた青年の姿。それが雷を受け止め、無効化していく。
ドラゴンは表情では見て取れないが、口元を引き釣らせているようだ。
ドラゴンとプロメテウスが話をしている間に、少年の吹き飛ばされた腕の断面から火が吹き出し、少年の手と同じ形をしたものに変わり、ついには腕が出来上がった。
それを試すように少年は腕を振り、笑顔でウンウンと頷いている。
「いやぁ。治るのに時間がかかったね。まあ、俺もこれくらいは掛かるとは思っていたけどさ」
「ふむ。しかし、時間がかかりすぎだな。もう少し火を強くしよう。さすがの貴様もフェニックスではないのだ。灰からは蘇りはしないのだからな」
「いやいや、食らわなければいいだけじゃん? もう、俺はあれを食らわないよ」
少年は満面の笑みでもうドラゴンの攻撃など食らいはしないと、雷を避けると豪語したのだ。
これには、流石にドラゴンは怒りを覚えた。
だから、口を大きく開き、渾身の雷をお見舞いしようと閃光を放つ。
がしかし、
「甘い甘い。そんな熱さは、高が知れているよ。本物の熱さっていうのは、こういうのを言うのさ」
少年は雷を自身から出る灼熱の炎によって、『蒸発』させていった。
その炎は降る雨を少年に付着する前に蒸発させ、船の外装を溶かしつつあった。
少年は笑い。ドラゴンに手を向けた。
そして、
「人間の恨みを見るがいいよ。神よ、断罪の炎に焼かれろ」
『くっ』
ドラゴンは流石に熱さにやられて、既のところで逃げていった。
少年は、船上に座り込んで、考える。
「ありゃ。そういえば、船長いないじゃん。さて、どうやってジャパンまで行こうかな?」
「お前はいつだってそうだな。我、先に考える者と違って、お前はエピメテウスみたいだ」
「えっと……後に考える者、だっけ? ちょ、それってどういう意味さ!」
「ふむ、お前の育て方を、我はどこで間違ったのだろう?」
「プーローメーテーウースー? 聞いてますかー?」
戦いの後、二人の会話は、まるで親子のようなものであった。
気が付けば、嵐は去っており、快晴が広がっていた。
「うんうん。今日も晴れてていい天気だ。こういう日はいいことがありそうだよ」
「はあ……お前の能天気さは、神をもダメにするな」
「あははは。でそれってどういう意味?」
「……」
神を苦悩させる少年が、日本に向かっている。
しかし、日本にいる、神に苦悩させられる少年は、そんなことは知らない。
それよりも、目の前の青春という苦悩の方で手一杯で、そんなことを考えることすらできないようであった。