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それでも俺は……

読んでくれると嬉しいです

 全てを振り払って、俺はベッドにダイブする。

 ベッドにダイブしても、モヤモヤは張り付く夏のジメジメと同じように離れてはくれない。

 何度頭を振っても、何度感情をリセットしても、決して消えることのないこの不思議に俺はとうとう苛立ちを覚えた。

 枕を殴り、殴った場所に顔をうずめる。


「君にしては、随分と不器用なやり方だねぇ~」

「……見てたのかよ、タナトス」


 枕から顔を上げると、そこにはタナトスがいつものように宙を浮いていた。

 継続する苛立ちのせいでタナトスを鋭い眼差しで睨みつけてしまっているが、タナトスはそんなことお構いなしに言葉を続けた。


「ああ。なにせ、僕は暇だからね」

「アマテラスと酒は交わさないのか?」

「彼女は飲むと激しいからね。特別な時でもないとお断りだよ。今日は、スサノオを生贄にしてきたんだよ」

「お前って、ホント悪魔だな」

「嫌だなぁ。僕は死神だよ」


 にやっと不敵な笑みが、タナトスの威圧を物語る。

 そう、忘れていたがタナトスは神。しかも、死を司る神にして、人間以上に我が儘で遊戯が大好きな変人ならぬ変神。

 故に、そこら辺の赤ちゃんに異能を持たせたような危険さを持ち合わせた神なのだ。


「なあ、タナトス」

「何かな?」

「俺は……間違ってるのか?」

「何を?」

「全部言わなきゃわからないか?」

「……僕の独断で決めていいのなら、君は間違っていない。かと言って、合っているとも言えない」

「というと?」

「まあ、本当のところ、誰にも正解なんてわからないのさ。特に、今の君のような問の答えはね」


 と、タナトスは茶を濁すような言葉を言って宙を舞う。

 そんなものかと、俺は天井を見上げてじっとする。


「でも、君の行動は正義だと、僕は思うよ」

「正義?」

「誰も傷つけない。誰も傷つけさせない。どれもこれも大層素晴らしく、大層愚かな考えだ。この世に、絶対の事柄なんてない。いつだって例外が存在する。この世界の例外は、君なんだよ」

「……俺はそんな大物じゃないさ」

「はは、確かに。今の君はどう見ても生き方を探している最中の高校生だ。でもね? それでも君の行動は正義なんだよ。君の言動はいつだって理屈も何もないただの空想。でも、それを体現してしまえば、それはただの空想ではなくなる。それをするのは、いつだって愚者なのさ」

「正義はどこいったんだよ?」

「君は愚者。その上で正義を貫く者。じゃあ、愚者の正義はどこまで通用するのかなぁ?」


 ニンマリと三日月のような笑みを見せるタナトスに、俺は笑って返す。

 そんなの、決まってるだろ?


「どこまでも。愚者は決して自分の行動を顧みず、自身が果てようとそれをし続ける。だから、終わりなんてものはない。だろ?」

「ふふん♪ やはり、君は僕の選んだ人材だ」


 それだけ言い残して、タナトスは消えた。

 誰かと話せたことで気持ちが落ち着いた。それのせいもあってか、気持ちが楽になった瞬間、いきなり睡魔が俺の意識を刈り取った。

 きっと体の方に疲れがあったのだろう。今日はいろいろあった。明日以降もっとあるのだろう。そのためにも、今日は早く寝よう。

 目を閉じ、ゆっくり体から力を抜いていく。たとえ、この暑苦しい夜の中、俺のベッドに七人もの美女、美少女、美幼女が侵入してきても。

 もぞもぞ……。

 あー、うん。これはきっついかなぁ~。


「み、皆さん? もうちょっと離れてくれると嬉しいかなぁ~」

「恭ちゃん♪」

「ちょっと、押さないでくださいよ! あ、ちょ、待って~」

「恭介ぇ、むにゃむにゃ……」

「恭介様を枕にすると寝やすいですね」

「恭介さんの汗、ハァハァ。グへへへへへへへへへ」

「流石に今日は暑いねぇ。でも、汗かいてでも恭介くんの傍にいてあげるね」


 まあ、皆さんホントに仲がよろしいことで。まあね? 嬉しいんですよ? 嬉しいけど、この暑さは流石に常軌を逸脱しているといいますか。まあ、なんですね。

 もうどうにでもなりやがれ!

 俺は暑苦しい中、一生懸命羊を数えて眠りに着いた。

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