どうやら、俺は面倒なことに巻き込まれたらしい
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学校が終わり、俺は別段何をするわけでもなく、みんなを待たずに一人で帰った。
その帰り途中、
「……」
目の前におかしい奴を見つけた。
一人は、胸に人生は面白いと書かれたTシャツと普通のジーパンを着こなしてニヤニヤしている男性。
一人は、目つきが悪く睨むように辺りを見回している女性。
一人は、ニヤニヤしている男性を熱い眼差しを向けている女性。
一人は、背中に大きな剣を携えて爽やかに笑っている明らかにおかしい男性。
一人は、空を見上げてぼーっとしている巨人。
これはぁ……関わったらマズイやつだろ。
瞬時にそう判断した俺は、さっさとそいつらの横を逃げるように通ると、
「釣れないなぁ。こうやって僕たちから出向いてあげたのに」
「す、すみません。人違いじゃないですか? 少なくとも俺はあなたたちを知りませんけど?」
「そりゃあ知らないよ。会ったのは初めてだからね」
完全におかしい奴らだわー。コレ、マジやばい奴らですわー。
内心焦りまくりで俺は冷や汗が流れないことを切実に願った。
だが、そんなことお見通しと言わんばかりに自己紹介が行われる。
「僕たちは、知らずと知れた『ヴリトラを殺す者』だよ♪」
「あー、うん。で?」
「あっれ~? まさかのそういう反応~?」
駄目だ。こいつら頭がイカれてるか、もしくは馬鹿だ。
とにかく逃げなくちゃいけないと理性が言ってくる。俺もそれに従いたいが、相手が『ヴリトラを殺す者』だとわかった瞬間、その選択肢は潰された。
「俺に接触してきて、なんのつもりだ?」
「君を僕たちの仲間にお呼びしようと思ってね。どうだい?」
「断る」
「即答だねぇ~。うん。わかってた。だから、こうさせてもらう」
ニヤニヤした男性が手を挙げると、後ろにいた仲間と思しき者たちが一斉に剣やら何やらを取り出し、鋭い目でこちらを睨む。
おいおい。やめてくれよ。ここ公道! 人います! 俺までおかしい人みたいに見られるじゃん!
と、何とも呑気なことを考えている俺。その理由は右手に握られたメダルだ。
多分、こいつらの目的は俺の力。なぜなら、それが通用する力になり得るかも知れないから。そう考えるのが妥当だろう。
ならば、この力を使って撃退すればいい。
俺がメダルを弾くと、
「俺、御門恭介が願い乞う。理念を貫き、世界を否定し、自身の力を夢の為に仲間の為に使い、全てを圧倒し続ける最強の力を。今、俺のもとに来い、最強の人間神谷信五の力!」
メダルをキャッチすると全身に痛みと力が流れ込む。
「……インドラ、あいつ、殺していい?」
「殺すのはタブーだよ。といっても死ななみたいだけど。まあ、『三十回』くらい殺せば大人しくなるんじゃない?」
「言ってくれるじゃねぇか、クソ野郎!」
ニヤニヤと余裕を見せている男にそんなことを言われては、流石に男のプライドがどうのこうのだ。俺は地面を蹴り、男の顔を殴り行くが……、
「がっ……」
その前に巨人に遮られ、巨大な腕で俺の腹を殴られた。
その際、背骨も折られたらしい。嫌な音と全身が動かないほどの痛みが背中に走っている。
だが、俺の回復力を甘く見てもらってはいけない。そんなケガは直ぐに治って、反撃を――
「お前……よわい」
立ち上がろうとする俺の足を巨大な足で踏み潰し、そんなことを吐く巨人。
俺の足からバキバキと嫌な音が午後の住宅街に鳴り響く。
「があああああああああ!!!!」
足の痛みに耐えられず声が出てしまう。しかし、そんなことをしている暇はない。
この力が通じないなら!
「俺、御門恭介が願い乞う。理不尽を嫌い、日常を愛し、仲間を救う強い力を。黄金に輝きし英雄の剣を。来い、アーサーの意思を継ぎし剣、磯崎京介の力!!」
一本の剣が握られ、巨人に突き立てようとする俺に、目つきの悪い女性が剣と盾を取り出し、女の顔が掘られた盾から無数の蛇がまるで生きているかのように俺の剣に絡みつき動きを止め、剣で俺の腕を容易く貫いた。
同時に熱い眼差しを送っていた女性が一転、冷徹な目で二本の剣を俺の腕と足を地面に縫い付けた。
「がはっ、クソが!」
それでも立ち上がろうとする俺の首元に分厚く大きい剣が置かれ、俺は絶句する。
「チェックメイトだ。なぁ、ガキ?」
ニッと笑いながら剣を突きつける男性を見ながら、俺は絶対に敵わないと思った。
ありえねぇ。ここまで圧倒的に押されるなんて……。
全身はボロボロ。力は通用しない。逃げることは皆無。絶対的、致命的に最低な状況な中、ニヤニヤと笑いながら歩いてくる男性。
「そこまでだよ、みんな。もう大人しくなった」
「ですが、これほどまでに雑魚ですと、邪魔にしかならないように思えるのですが」
「わかってるよ。ねぇ、御門恭介。そろそろ本気を出してくれないかい?」
「……いや、これでも結構頑張ったんだけどな」
「ふ~ん。まだ完全じゃないってことか。うんうん。なるほどねぇ」
なぜか頷き、ニヤニヤし続ける男。
あたりはそろそろ暗くなり始めている。
このままだと、本当にまずいかも知れない。そういう考えはあるのだが何分動けないんでどうしようもない。
しかし、
「困るんですよね~。恭介先輩をいじめてもらうと」
暗闇になりかけている場所から、薫が出て来きた。
だが、ここは危険区域。薫のような人物がいてはいけない場所なのだ。
逃げろと俺が叫ぼうとすると、薫は笑ってそれを遮った。
「大丈夫ですよ、恭介先輩。こいつらは私を殺せませ~ん」
「なっ……どうして」
「だって、私は女神の祝福を得た半女神ですから♪」
それがどういう意味かは全くわからない。だが、その効力はあるらしい。
さっきまで俺を拘束していた奴らが俺から離れ、ニヤニヤしている男の元に戻っていた。
「これはこれは。女神アマテラスの祝福を得た巫女さんじゃないか。ふ~ん。まあ、いっか。英雄は女神を殺すことはできない。それが神話の真理か。それを利用するのも一つの戦術だ。君は頭がいいねぇ、えっと……」
「花宮薫です♪」
「うん。花宮薫くん。では、僕たちはここらへんで帰らせてもらおうかな」
振り返り、ニヤニヤと笑う男は俺を見て、
「御門恭介くん。僕たちは君をいつまでも待ってるよ。君が完成したそのときは、ぜひ僕たちと一緒に来るといいよ。僕たちの名前は英雄たちの円卓、『ヴリトラを殺す者』。僕名前は、インドラだ」
そう言って男、インドラは消えていった。それの後を追うように皆消えていった。
残された二人、薫は俺の怪我を見てくれて、俺は意識が朦朧としていた。