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俺は俺という存在を再認識します

読んでくれると嬉しいです

 夜。漆黒が闊歩する時間。外は例外なく真っ暗で、人通りは言うまでもなく少なくなっている。

 ゾンビという俺でさえも、流石にこの時間は外を出歩かない。まあ、出歩く理由がないというのも理由ではあるのだが。

 そして、今日はいつも晩飯を作りに来る綺羅も来ていない。何やら用事があるということだが。俺には関係ないので放っておいてもいいだろう。

 よって、俺は今家に一人ということになる。


「と言っても、別に一人で何を感じるというわけじゃないんだけどな」

「忘れてもらっては困るなぁ。僕もちゃんといるよ? 君はひとりじゃない。……お、今僕いいこと言った、めちゃくちゃいいこと言ったよ?」

「最後の一言がなければ素直に褒め称えたよ……」

「よしじゃあこうしよう。今からゲームをしようじゃないか!」

「……あ、全然聞いてないのね」


 俺の言葉など気にもせず、タナトスはぱっと出てきて、いきなり新しい興味を俺に強制してくる。

 ……てか、『君がゾンビになるかもしれない人生ゲーム』ってなんだよ。普通に人生送らせてやれよ……。

 俺は驚愕の人生ゲームを前に、目を輝かせているタナトスにわかりきっている質問をした。


「なあ一応聞くけど、これって誰が作ったんだ?」

「ん? 聞いて驚かないでくれ。これは僕が作ったのさ!!」

「……なんとなく予想は出来てたけど、マジでか……」

「あれ? そんなに驚かないのかい? じゃあ、こっちの『美少女(ヤンデレ)に追い掛け回されるかもしれない人生ゲーム』でもするかい?」

「するか! なんでヤンデレに追い掛け回されないといけないんだよ! 普通の人生させてくれよ!!」

「もしくは『人生ゲーム。いつするの? 今でしょ!』もあるけど……?」

「しねぇよ! てか、どんだけ人生ゲームにハマってるんだよ!」


 俺は小さくため息を着いてから、ソファに腰掛けデリバリーの用意を始めた。

 綺羅がいない時は、大概デリバリーでこと済ましている。まあ、お金は親の十分すぎる仕送りで余りすぎて困り果てているからいいのだが、タナトスは何が好きなんだろうな?


「なあ、メシ頼むけど、何にする?」

「ん? ああ、僕たち神は食事はしないんだ。君たち人間と違ってエネルギー源は食べ物ではないからね」

「そうなのか? でも、食えないことはないんだろ?」

「……まあ、そうなるけどね」

「じゃあ、食ってみろよ。意外にうまいんだぜ?」

「……じゃあ、このピザとかいう円形のものをもらおうかな」

「ピザだな。よし、ちょっと待ってろ」


 俺は手早く注文を済まして、到着を待つ。

 一時間もしないうちに届き、笑顔のバイトらしき店員にお金を払って注文の品を受け取った。

 そして、食卓に座っているタナトスの前に熱々のピザを出す。


「ほう。これが……ピザ、なのかい?」

「ああ、うまいんだぜ? こうやって食うんだ」


 そう言って、俺はピザの食べ方を見せてから、タナトスがピザを口にする瞬間を見る。

 タナトスはピザを口にすると、目を見開き少しの笑みを浮かべた。

 その笑みが、少年の純粋な笑みに見えたのは秘密だ。


「どうだ? うまいだろ?」

「ああ……なんというか、人とはすごいんだね。こんなものを作り出すなんて」

「まだまだうまいものはあるんだ。でも、それはまたいつかだな。まあ、死ねない体なんだし、長い目で行こうぜ」

「ふむ。これはまた違う味がする……おお、うまい。これはこれで興味が出るねぇ」


 タナトスのやつ。どうやらピザに興味を示したらしい。ピザを食べながら、ニヤニヤと笑い、ブツブツとなにかを言いながら面白がっている。

 俺も、そんなタナトスが面白くて少しの笑いを漏らしながら夜飯を食らっていた。

 まるで何も知らない子供が初めて体験したかのような笑みと好奇心、不思議に感じる感情の全てをいり混ぜた子供独特の笑みを浮かべるタナトスと、それを温かい目で見る俺というなんともシュールな絵だが、そんな感じで食事は続けられた。







 タナトスの意外な一面を垣間見てから、俺たちはピザのゴミを捨て、自室に来ていた。


「つまらないなぁ。何か起きて欲しいものだね」

「余計なことを言うなよ。俺って存在がすでに異質なのに、これ以上異質なことが起きてたまるか」

「まあ、そう自分を毛嫌いするもんじゃないよ。と言っても、確かに君の存在は異質も異質、不思議の中の怪異だ。だとしても、君はここに存在している」

「……何が言いたい?」

「簡単な話、諦めろってことさ」

「……神が笑顔で諦めろとか言うなよ。勉強に追われてた受験生はどうなるんだよ……」

「諦めるんだね♪」

「その笑顔で言うなよ!!」


 タナトスの他人事のような話しぶり(まあ、実際他人事なのだが)は悔しいが清々しく、はっきりとしていた。

 だからだろうか。反論もできない状況が嫌で、俺は話題を変えることにした。


「そういえば、あのメダル。あれってなんだよ」

「メダル……?」

「お前が渡してきた三種の神器とかいうやつの一個だよ……まさか、忘れてるのか?」

「……ああ! そ、そんな訳無いだろう!? 覚えているさ!」


 ああ、この口ぶりは忘れてたな。

 俺は小さくため息を着いて、机の中から五枚のメダルを取り出す。

 そして、一枚一枚見て、タナトスを問いただす。


「これは一体何だ? 確か、他世界の五人の主人公たちの力の一部とか言ってたけど」

「そうさ。それは僕が知り合って、対峙して、そして認めた者たちの力の一部。それ以上でも、それ以下でもないよ」

「俺が聞きたいのはそんなんじゃない。俺はこの力を……実は掌握したいとは思っていない。ただ、念のための予防策として、これは使えるかもしれないから。だから、知っていることを全て言え」

「ほう。君は神に指図するのかい?」

「違う。……命令だ」


 俺とタナトスはにらみ合い。そして、笑った。

 何がおかしいわけでもなく、ただ笑った。


「ははは。君には敵わないな。いいだろう。全てを教えよう。……と言っても、そのメダルについては僕はよく知らないんだ。ただ、それが状況下では力を与えるというだけで、その発動条件などは知らない」

「いや、一つなら知ってるよ。最強の人間神谷信五、だったか? あいつはすごいな。神をも己の拳一つで笑って吹き飛ばす狂戦士だ。その発動条件は、俺自身の信念を突き通すときに障害が現れ、それが俺の信念を邪魔したら……らしい」

「驚いたな。どこでそれを?」

「今朝、これを使ったろ? その時に頭の中に響いてきたんだよ。理念を、信念を突き通したいかってな」


 俺は事実を述べただけだが、それがタナトスにはツボだったらしく、腹を抱えて転げまわっている。

 ホンットムカつくな。一発殴るか?

 俺が握りこぶしを作って耐えていると、タナトスはそれを見て察したのか、


「どうしたんだい? もしかして、壁を殴りたくなっとか? ダメだよ、自分は大切にしなくちゃ」

「誰のせいだと思ってるんだよ!」

「え? ……君?」

「ちげぇよ! お前だよ!」

「そんな……もしかして、おやつに取っておいたプリンを食べたから?」

「やっぱお前かよ! ……って、そんなことじゃねぇよ!!」


 こうしてまた、話は終わりを迎えた。

 メダルについては何も分からず、いまいちパッとしない状態で夜は更けていく。

 しかし、未だに嫌な予感は消えはしない。

 まるで、心の中で黒い何かが何かを蝕んていき、自分という存在を消し去ってしまうのではないかという恐怖にまで思えてくる。

 だが知らない。俺は、のうのうとこの夜を過ごし、のうのうと学校に登校するだろう。

 だってそれが、俺という存在を確立できる理由、エゴなのだから、





――――――――それこそが、俺なのだから。





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