目に見えない悪魔
久々にあの子が登場!
読んでくれると嬉しいです
昼休みを終え、午後の地獄が始まろうとしている時。俺はある疑問に気がついた。
俺の隣に、当たり前のように幼女たちが居座っているのだ。
言っておくが、こいつらは俺の娘たちではないぞ? 決して、誘拐してきた子でもない。俺の仲間だ。うん。そうだよね? 間違いないよね?
ちょっと心配になりながらも俺は横にいる二人に声をかける。
「あのクロエさん? そろそろ家に帰ったほうが――」
「何?」
「いえ、なんでもございません」
何を幼女の尻に敷かれてんだ、羨ましすぎんだろって? いやいやいや、言っておきますけど、この幼女達はただの幼女ではありませんよ? 魔法使ったり、元剣だったりする危ない幼女ですよ?
そんな訳で、素で俺のスペックを凌駕する二人に恐怖しながら授業をすることになりそうです。
ああ、こうして俺は一生尻に敷かれるんだろうなぁ……。なんでだろう、視界が滲んできたぞ?
「恭介様。どうかなされました?」
「いやね? ここは高校なんだよ」
「? それがどうかしましたか」
「薙さん。高校ってのは大人が知識を蓄える場所なんだ。わかるか? 『大人』のための場所なんだよ」
「知識を付けるのに、大人も子供も存在しませよ?」
「お、おう……」
どうしてだろう。幼女に言葉で負けるとかなんだか悲しい。
まあ、俺が言葉で負けるのも頷ける理由が実はあるのだが、それはこいつらマジで天才なんだって。クロエなんて、前まで中学校の問題すら解けなかったのに、今では大学の問題すら解いちまうし、薙に至っては勉強が最初っからできてた。
うん。なんだろうね、このモヤモヤは。今では幼女に勉強を教えてもらっていますよ、はい……。
と、素晴らしくハイスペックな幼女に挟まれ、俺は涙……心の冷や汗を流していた。
『え~、テステス、テストのマイク中~。あ~、うん。三年B組金○先生……じゃなかった。二年六組、御門恭介先輩。おばあちゃ――校長が呼んでますよ~』
授業の支度をしていると、そんな放送が流れた。
だが、俺には関係ないだろう。御門恭介なんてありふれた名前だしな。そうそう、それがたまたま同じ学年で同じクラスだったってだけで――ありえないよね。なんだよ全く。
俺は深く深くため息を着く。
「恭介。なにさっきの放送?」
「知るか。でも、校長にお呼ばれとかホントやめてもらいたいんだけど」
「まあ、ほどほどに殺されてきなよ」
「クロエさん? この頃俺への言葉がひどいと思うのですがどうでしょうか?」
「普通じゃない?」
「あっそ。……この幼女め」
「よ、幼女じゃないもん! 年だって、十一歳になったもん!」
「お~、よしよし。クロエちゃんは大きもんなぁ」
「――ッ! 恭介のバカ――――!!」
と、俺を罵倒しながらも、頭を撫でる手は退かさないところを見ると撫でられるのはいいのだろう。
だから、俺は飽きるまで頭を撫でていると、俺の教室のドアの前に可愛い女の子が来ていた。そして、クラスの誰かに説明して誰かを呼んでもらったらしい。頼まれた同じクラスの女子が俺に寄ってきて――はい?
女子は俺の前に立って、こう言った。
「恭介くん。中等部の花宮薫さんが呼んでるよ?」
俺の中で世界が止まった。
花宮薫。後日談で、真理亜から実は幼馴染だと聞かされた俺の仲間に引けを取らない美人さん。スポーツをしているせいか髪は短く、だが中学生ということもありちょっと幼さが残った顔には中高生男子には第二の聖女と呼ばれている。ちなみに第一の聖女は真理亜だ。
そして、その男子の注目を浴びる女子と同姓同名の女の子が俺を呼んでいる? やめてくれ。いや切実にそう思うんだけど。
「セ~ンパイ! どうしたんですか~?」
「……はあ~」
「何ですか、そのあからさまに会いたくないようなため息は~」
「会いたくなかったんだよ」
「またまた~。センパイはそんな人じゃないってわかってるんですよ~」
「お前さ。性格戻したら?」
「じゃあ、お言葉に甘えて……恭介先輩。おばあちゃんが呼んでるって放送聞きましたよね?」
口調、目つき、その他の見繕っていたものをとっぱらった薫は笑顔で俺に言ってくる。
薫という女の子は、意外にもボーイッシュで、上との会話に慣れていないようだ。でなきゃ、俺を年上だと見てないかだな。
しかし、即刻にも話を切り上げたい俺は周りに目をやる。そこには男子の射殺さんという目がヒシヒシと突き刺さってくる。
それを知ってか知らずか、薫はまだ笑顔で俺の答えを待っている。
「か、薫。話は放課後――」
「おばあちゃんが呼んでるんですよね~」
「だから、それも放課後――」
「おばあちゃんが呼んでるんですよね~」
極力聞こえないように小さな声で言っているのに、薫はわざと大きな声でみんなに聞こえるように言う。
そのせいで、周りでは早くも噂が流れ始めた。
『ねえねえ。おばあちゃんが呼んでるって言ってるけど……』『マジかよ。あのクズ、結婚するのか?』『あいつ人生辞めるってよ……』
おい。最後のやつ言った野郎、顔覚えたからな? 後で覚えとけよ?
しかし、薫の攻撃は止まらない。
「困りましたね~。来てくれないと、私の話とか、あのことの話とか、『真理亜ちゃん』の話とかできないですよね~」
ニンマリと悪魔の笑みが浮かべられた。
こいつ……わざとしてやがるな? ふん。わかってたぞ? そうやって、俺を困らせようとしてんだろ? だが無駄だ。俺にはそんな小細工は通用――
「そういえば、子供は無事産まれました~?」
「マジすみません今すぐ行きますから何卒話をデカくしないでください!」
「最初からそういえばいいんですよ、恭介先輩♪」
「この悪魔め――」
「そういえば真理亜ちゃんがこの頃、体重が重くなったって言ってたけど……」
「さて! 校長室に行こうかな! 可愛い薫さん!?」
やめて! そういうデマ流すの! ノーモア、デマ!!
本格的に女の子に使われてしまう俺に、男子からの刺激的な視線が身にしみる。というより痛い。女の子の視線は――見なかったことにしよう。あんな、ウキウキした輝かしい目なんて俺は見なかった!!
「この頃寝苦しいと思ったら、アタシが寝てる隣でそんなことしてたの?」
「なあ、クロエ。俺をどこまで苦しめたら気が済むの?」
「どこまでも?」
「泣いていい?」
「キモイ」
「うん。わかってた」
言葉が痛い! 物理的に痛いよ! 教室を出ようとする俺の背後で女の子たちのキャーキャーという甲高い声も、男子たちの呪いの言葉も総じて痛い!そして、なによりクロエの人を殺せそうなほどの視線と言葉がマジで死にたくなる!
「恭介先輩」
「なんだよ」
「モテモテですね!」
「もういっぺん死ねよお前……」
薫の容赦ない追撃に撃沈させられながら、身に覚えのない校長室への御呼ばれに馳せ参じる俺であった。