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呼んでますよ、ゾンビさん

読んでくれると嬉しいです

 屋上。炎天下の中、俺はふと思い描いた。

 突然だが、俺は生きることがとても辛いと思う。

 起きたくもないのに起こされ、行きたくもない学校に行かされ、就職できないんだぞと脅される毎日が、とても辛い。

 万人が一度は夢見ること、それは自由だ。

 自由に寝て起きて、無駄とも思える時間を貪り、人生というリセット不可能のクソゲーをデッドエンド驀地に突き進む。

 だが、考えて欲しい。そこには確かに楽しみがある。でも、得られるものはあるか? ないだろう。

 そう。そんな人生に意味はない。自由に彩られた人生とは人をダメにするただ一つのスパイス。

 ならば問おう。俺のこの状況は不幸か否かを。魅惑的とも呼べる女子に囲まれ、騒動の中心に追いやられ、結局解決するこの状況をなんと呼ぼうか!

 え? リア充? いやいや、そんなことはない。確かに、美女、美少女、美幼女、と素晴らしいくらいの可愛さを持った子達だけど? 性格に難が……ねぇ?


「恭ちゃん。この唐揚げ私が作ったんだ! 食べてみてよ!」

「先輩。そんな油っぽいものより、厚巻き卵はいかがですか?」

「恭介さん、私が食べさせてあげましょうか!?」

「恭介ぇ~。お腹すいた~」

「恭介様、お茶をどうぞ」

「あはは、恭介くんの周りはいつも騒がしいね」


 だから、リア充じゃない。俺は断固としてリア充ではない。

 リア充ってのはな、幼馴染の包丁に気をつけたり、後輩の殺傷に怯えたり、幼女の扱いに困ったり、許嫁や結婚相手に呆れたりしない! あれ? これって、特殊じゃね? てことは、俺の私生活って、おかしいの?

 俺は現実逃避のために考え事をしていたのだが、ふと思った。

 俺は……なんで、こうなったんだ?

 俺がこんな生活になった理由。それは、忘れもしないあの日の事故だ。

 家を出たら通るはずのないトラックに轢かれ、哀れすぎる死を遂げ、そしてタナトスの力によって生き返った。

 それから早くも三ヶ月が経とうとしている。

 今の俺はどうだ? クラスに友達がいな――少なかった俺には最初は幼馴染だけだった。でも、三ヶ月という短い期間でこれだけの仲間、特に可愛い女の子が増えた。

 まあその分、面倒も増えましたけど。主に、こいつらの喧嘩は激しい。言い争いから殺し合いにシフトするのホントやめてもらえません? 家が何個あっても足りないよ? 野宿する?

 というように、俺は今日も生きてます。


「ねぇ、真理亜ちゃん? 恭ちゃんは『私が作った』唐揚げが食べたいって。わかってる?」

「何を言っているんですか? 綺羅さんが作った『油の塊』よりも、『私が作った』厚巻き卵のほうが食べたいに決まっているじゃないですか」

「恭介、ご~は~ん~!」

「恭介さん、ご飯より私はいかがですか!? お外でもいいですよ!?」

「恭介様、お茶……」

「き、恭介くんも大変だね……」


 う、うん。今にも死にそうなのは気のせいかな? おっかしいなぁ。この殺気はこいつらのじゃないぞ~? ここは屋上のはずなのに、なんで他人の殺気が感じるんだろう?

 殺気を感じるのはもはや当然なのだ。なぜか? 俺がこいつらと飯を食っているからだ。いや、それ以前に、俺がこいつらと話しているからだ。

 さっきも言ったが、俺の周りにいる女の子はみんな美、が着くほどの可愛い女の子たちだ。

 つまり、男子の男子による男子のための女子ランキングの上位ランカーなのだ。

 この事実が何を指すか、もうお分かりだろう。男子曰く、『お前の所業! 万死に値する!』だそうだ。これは、メガネをかけてヘロヘロした如何にもモテないだろうなぁと思わせてくる男子からの負のオーラ全開の言葉だった。目から血を流してたところを見ると、相当羨ましいんだろうなぁ。

 まあ、俺は違う意味で今、涙を流したいけど。


「あ、あの皆さん? 毎日毎日屋上でみんなでご飯とはいかがなものかと……」

「え? 死にたいの?」

「う、う~ん。どうしてそういう風になるかなぁ、綺羅さん」

「え? 殺されたいの?」

「女の子って怖い!」


 包丁を片手にしているあたり、マジで怖いっす。

 俺は綺羅の病んでいる心にマジでビビリながら、箸で口元に運ばれてきた厚巻き卵を口に含む。

 うん。ダシの味がしっかりしていて美味しい。いつもの厚巻き卵だ。

 飲み込むのも待たずに、俺は渡されていた唐揚げを食べる。

 こっちはこっちで下味がしっかりしている。揚げ方もうまかったのだろう。美味しい。

 でもなんでだろう。この状況は美味しくない。


「く、クロエ?」


 俺の股のあたりに勝手に座っていたクロエがすっと立ち上がり、振り返る。

 その表情は逆光だったため伺えなかったが、感覚で俺は悟った。

 クロエが、キレている。それも、盛大に。

 俺と同じく、それを感じ取った五人はすっと弁当箱を持って端に退避する。俺も退避しようとすると、クロエに呼び止められた。


「恭介?」

「な、何ですか?」

「無視……」

「はい?」

「……万死に値する」

「はい!?」


 何!? 食べさせてを無視したのがいけなかったの!? それな!!

 俺は自身の犯した過ちに頭を抱えた。

 そんなことまるっきり関係ないと言いたそうに、クロエの手には燃え盛る炎があった。

 あ~。魔法使いはこれだから嫌。

 その後。屋上から俺の叫び声が響き渡ったらしい。だが、学校のやつらの反応は二パターン『神の制裁か!? 御門恭介が死んだのか!? ヤッフー!』『まあ、いつものことだよね』

 うん。少しお前たちは学べよ? 俺のおかげで被害者が出てないんだからな? お前たちだと死んじゃうからな? 俺の寛大な心に感謝しろよ?

 俺はプシューと黒い煙をあげる体から、空を見上げて、


「人生って辛いわー」


 最後の力を振り絞って、文字通りの全身全霊をかけた言葉を口にした。

 そして、ポックリと逝ってしまった。まあ、少しすれば生き返るからいいんですけどね。ええ、全開で生き返りますけど何か?


「本当に、恭介くんの周りっていつも楽しそうだね」

「……うっせ。お前もその一人だろうが」


 生き返ったばかりの俺に、春の悪戯な笑みをプラスされた憎まれ口は非常に気持ちがいい。M的な意味ではない。断じてない!

 ふふっと笑って、春はみんなの元に戻ってしまった。俺はまだ動けそうもない。でも、その輝かしい景色を見るだけでなぜだろうか、こんなことをされても許せてしまう気がした。

 俺は再び空を見上げ、眩しく熱い日差しに目を細めて言う。


「ホント、人生って辛いわ」

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