俺曰く、ハーレムはかなり辛い
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意識がはっきりとするにつれ、俺の顔は赤くなる。
横に裸の女の子がいるから? いや、こないだの戦いでの一件でだ。
もうお婿に行けない! 何ってんだよ、あの時の俺は! ばっかじゃないの!?
俺はこないだの戦い、ヴリトラとの戦いで言い張った言葉、行動、その全てが恥ずかしくてたまらなかった。
キスですよ!? プロポーズですよ!? 死んでもいいくらい恥ずかしいよ!
俺は穴があった隠れたいくらい恥ずかしくなり、顔を両手で覆って低く唸っていた。
いやね? 一人だったら叫んでましたよ。うん。一人だったら叫んでた。でもね? 俺の横にキスをしてしまった当人たちがいるわけですよ。そりゃね? 勝つためとは言えあんなことをしてしまったわけですからね
仕方が無かったんですよ。はい。
俺は言い聞かせるように自分に言って、精神を安定しようとしたが、あの時のことを思い出してもっと顔が熱くなる。
「おはよ。恭介くん」
「おう。おはよう……って、春さん!?」
「しー。起きちゃうよ?」
そう言って、春は口元に人差し指を立てて、大声を出すなと命令してくる。
俺も、今こいつらを起こすと危険だと思い声を弱める。
「な、何してんだよ」
「何って、起きちゃったから起こしに来たんだけど?」
「じゃあ、大声出しても良くない!?」
「だーかーらー。こんな可愛い寝顔の女の子を起こしてもいいの?」
「……」
言って、春はいたずらな笑顔を浮かべた。
これが、春の素……なのか? まあ、こっちのほうが可愛いとは思うけどな。
俺は春の意外な一面を見て、微笑んだ。
「どうしたの?」
「いや。お前、変わったなって。前は自分はいなくてもいいとか言ってたくせに、今ではこんな可愛い笑顔を浮かべるんだからな」
「あ、あはは……女の子は変わるものだよ、恭介くん」
春は言い当てられたことが恥ずかしいのか、顔を背けてしまった。
「女心と秋の空ってか? 女って怖いな」
「ちょっと違うかな? 私は、恋の病ってやつみたい」
「は?」
訳が分からないでいると、春が振り返り、ニコッと笑って顔を近づけてきた。
すると、俺の頬に柔らかく暖かい感触があり、春が顔を遠ざけるとそれはだんだん熱をなくしていった。
俺は瞬時に顔が赤くなり、今にも湯気が出そうだった。
「ぁ……ぇ?」
「あはは、恭介くんって面白いね。これは私を救ってくれたお礼。それと――」
春は俺の横を見、俺もそれに釣られて横を見る。
と、そこには悪魔が四匹、牙を剥き目を光らせ、俺を掴んで睨んでいた。
「私からの宣戦布告かな?」
四匹の悪魔に対して、悪魔の笑みを浮かべる春。
あれ? 春って、もっと可愛げがあって、お淑やかな子じゃなかったっけ? 今の俺には、悪魔にしか見えないぞ?
だが、そんなことより、四匹の悪魔たちはなぜか俺の腕を掴む力が強くなっていく。
「あ、あの……痛いんですけど?」
「「「「大丈夫。一回死ぬくらいだから」」」」
「何が大丈夫なの!? 死んでるじゃん! いや、死ぬじゃん!」
「「「「中身を出すか、ぺちゃんこになるか、どっちがいい?」」」」
「え、待って。俺のこと無視?」
「「「「行っくよ~♪」」」」
「ひぃ!」
四匹の悪魔たちが剣やら槍やら包丁やら怪しく光やらをチラつかせている。
やばい。死んだ。
俺、終了のお知らせである。
「私の夫に何をしているんですか!!」
そこに、助け舟が飛んでくる。物理的に。
いや、あれは助け舟じゃない! 光の槍だ!
こちらに飛んでくる槍を見て、四匹の悪魔たちは俺からすぐさま飛び退く。俺も逃げようとすると、服と床が槍、包丁のせいで縫い付けられていた。
待って! コレ逃げられない!
「いや、く、来るな! 来るなぁぁぁぁぁああああああグゲッ」
結局、逃げられずに俺は光の槍を受けてしまった。
光の槍は俺の下半身を削りながら消えていく。消え終わったあとには、上半身しかない俺と、呆然とする六人の異形の者ども。
「きゃぁぁぁぁああああああ!! 私の、私の下半身がぁぁぁぁああああ!!!!」
「俺のだよ! てか、いってぇ!!! おま、なにしてくれてんだよ! 下半身がまるっと消えてんじゃねぇか! ついでにベッドも消えてんぞ!?」
忘れていたが、駄天使、アルも俺の家に住むことになった。
住むことになったとは言うが、半ば無理やり住んでいるのだ。ちなみに、アルの住処は外の犬小屋だ。
なんだか、かわいそうだから家に入れてやったら? と言ったら、じゃあ代わりに外に出ていく? と言われたのでアルを外に追いやった。
全く。モテる男はつらいよね! 主に身体的に! 毎日がエブリデイだよ! 何言ってんだよ、俺……。
「おう、恭介。起きたのか……てか、朝からフィーバーだな」
「親父……もう行くのかよ」
「なんだ。俺が恋しいのか? もしかして男も食うのか、お前は」
「馬鹿言ってんじゃねぇよ!」
親父はわーっはっはっはと笑いながら、俺を見て、
「まあ、子づくりもほどほどにな」
「「「「「「はい!」」」」」」
「作らないからな? 絶対に作らないからな?」
親としてどうかと思う発言をして、親父は俺の部屋を後にする。
今気がついたが、親父は俺の下半身がなかったことに対して何も驚いていなかった。え? もしかして、放任主義? 放任しすぎじゃね?
とまあ、こんなことを考えていたのだが、あることが気になり俺は復活したての足で立ち上がり親父を負う。
親父は玄関で靴を履いていた。
「親父」
「なんだ、恭介。本当にこっち派か? それは男としてまずいんじゃないか? ほら、孫とか俺も見たいし」
「それは置いておいて。なあ、親父。何も答えてはくれなかったけど、せめてこれだけは答えてくれ。親父は、俺に何をさせたいんだ?」
俺の問いに、親父は少しびっくりしていた。
そして、少し考えたのか。親父は明後日の方も見ながらじっとする。
「……そうだな。別段、何をさせたいといったことはない。ただ――」
視線は未だ明後日の方向だった。でも、次の瞬間、親父は俺を見て、
「強く生きろ。何もかもを守れるように。何もかもを諦めないように。貪欲に勝利を求め続けろ。何を代償にしたとしても、絶対に振り返ってはいけない。後悔を後悔してはいけない。お前の選んだ道は、そう言う苦難や苦行の道、修羅道だ」
笑った。
言っていることは決して甘いものじゃない。だが、親父は笑ったのだ。
まるで、その先に何があるのかをわかっているように。その結果を見据えるように。親父は、笑った。
言い残して、親父は家を後にする。
静まった玄関で、俺は親父がいたところに話す。
「振り返らねぇよ。俺の後ろにはみんながいるんだから。振り返る必要なんてねぇんだよ」
そう。俺の後ろにはみんながいる。少なくとも、こんなチャチな世界より信用できる仲間が。
だから、振り返らない。俺は前だけを見て走り続ける。みんながついてきていることを信じて。
俺は親父が出て行ったドアに背を向けて、リビングに向かう。
リビングにはみんながいた。
綺羅と真理亜は、弁当のおかずについて言い争ったりして、ああでもないこうでもないと叫んでいる。
クロエと薙は、朝ごはんが今か今かと待ちくたびれたようにフォークとスプーンを持って唸っている。
春とアルは、待ちくたびれているみんなのために朝ごはんを用意している。
そこに、雷電とタナトスがいい匂いに釣られて部屋から出てきた。
これが、俺の仲間。俺の日常。平凡で、非日常的で、毎日が退屈しない俺たちの生活。
な? 振り返る必要なんてないだろ?
俺は親父に自慢するように心で言う。
そして、
「さあ、飯にしようぜ?」
今日も、その生活が幕を開ける。非日常的で、暇を与えてくれないどうしようもない生活が。でも、どこか代え難いくらいに楽しい生活が。
ちょっと大胆になった後輩。数が増えた悪魔たち。それを見て笑う異形の者ども。御門恭介は今日も元気です。
面倒事は回避できても、女心までは回避できない恭介は今日も今日もで苦労する。そんな苦労をあざ笑うかのように、またしても恭介の前に面倒が歩いてくる。
次章 『俺に恋する面倒は、お引き取り願いたい編』