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死後も現世でゾンビやってます  ―三種の神器をもらってハイスペックゾンビな俺―  作者: 七詩のなめ
ハーレムって嬉しいものじゃないの? めっちゃ悲しいよ?編
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真実の裏の裏

読んでくれると嬉しいです

 普段は誰にも見えるはずのない神社裏の豪邸。神崎邸。

 そこをニヤニヤと、まるで自分の家を闊歩するかのように不審者が歩いていた。

 不審者は今まで通り過ぎてきた扉とはまるで違う、頑丈で大きな扉の前で立ち止まる。そして、ノックのつもりなのか、扉を足で蹴り破った。

 扉はドンッと鈍い音を上げて蹴破られ、不審者は中を見て、笑う。


「よお。婆さん」

「……なんじゃ。今更」


 不審者、御門流星は満面の笑みで挨拶をすると、スタスタと中に入っていく。

 それを止めることもせず、神崎の祖母は呆れたように首を振る。


「その扉は、結構な値段がしたのじゃぞ?」

「ああ? こんな弱っちい扉に価値なんてねぇよ。隠れようとするなら、核爆弾でも壊されることのない部屋に隠れないと、俺からは逃げられないぞ?」

「……無邪気というべきか、単純に馬鹿というべきか。お主は昔からそうじゃったな」

「ああ、昔からイケメンだ」

「違うわ、阿呆。貴様にはやりすぎという言葉はないのか?」

「物事にやりすぎなんて言葉は通用しねぇよ」


 首をすくめて、流星は自分は悪くないと主張していた。

 それを見て、神崎の祖母は再び呆れる。今度は首も振らない。ただただ、重々しい溜息が漏れる。

 不法侵入者であるはずの流星は手短な椅子を引っ張り出し、それに座ると何が面白いのか笑い続けていた。


「なんのようじゃ?」

「いやぁ。婆さんが面白いことをしてるみたいだからさ。ちょっと忠告かな?」

「忠告? なんじゃ、お前らしくもない」

「いやいや。俺だって忠告くらいするさ。それが家族に関わっているんだから」


 流星は笑っている。だが、目だけは笑っていない。

 まるで、怒りを必死に隠そうとしているようにしか見えない笑みは、嫌な寒気と悪寒を同時に思わせる。それを感じ取ったのか、神崎の祖母は静かに続きを聞く。


「婆さんも趣味が悪いな。未来あるはずの若者を弄ぶなんてさ」

「未来など決まった道筋じゃ。お主もそれは重々承知じゃろう?」

「ああ。よく知ってるさ。未来は、人生とは決まった道筋を辿るだけのただの作業ゲーだ」

「ゆえに、わしは弄んでなど――」

「――でも、それにだってバグはある」


 流星は神崎の祖母の言葉を遮って言葉を放つ。

 神崎の祖母はそれにぴくりと反応して、言葉を詰まらせた。


「婆さんも知っての通り、人生とはゲームだ。ゲームには必ずと言っていいほどバグが生じる。ただ、そのバグがデカいか小さいかは置いておいて、存在は必ずする。さて、問題だ。人生とはゲームである。ならば、バグが生じる可能性は?」

「……」

「答えは百パーセントだ。ゲームなら、バグはある。人生におけるこれは、運と言ったり、誤算と言ったりする。なあ、婆さん。アンタ一体、何回自分の孫を殺そうとした?」


 流星の問にも、自身の問にも答えは出さない神崎の祖母。

 今度は、流星が呆れてため息を漏らした。それを見て、神崎の祖母はキッと鋭い視線をする。

 だが、流星は退かない。


「婆さんさ。俺の息子が救わなかったら、きっと死んでたぞ? アンタの孫」

「分かっておるわ」

「じゃあ、わかるだろ? アンタは間違えた。これからどうするつもりだ?」

「どうもこうもない。わしはわしのしたことで悔いはしない。いつだってそれが最善なのじゃ」

「……あー。やっぱ、婆さんは苦手だわ。まだ悪い癖が治ってないんだもんな」


 流星はかわいそうな目で神崎の祖母を見つめる。

 だが、神崎の祖母はそれを否定するように冷ややかな目を向けていた。

 夏だというのに温度が一気にマイナスになっていく。余りにも冷たい空間で、壁にヒビが入りそうだ。


「婆さんは、何かを切り捨てなきゃ何かを得られないのか?」

「それが自然の摂理じゃ」

「そうじゃないだろ? 婆さんが払う代償はデカすぎんだよ。それに対する報酬が一時の平穏だと? ふざけるのも大概にしろよな。人が一人死にかかってんだ、そんな辺鄙な報酬じゃあ満足できないだろ」

「そうでもしなければ、この街は消えてなくなるのじゃぞ?」


 神崎の祖母はそれが当たり前だと言い張った。

 人が一人死んで、得られるのは限りある平和。それでは余りにも不条理だ。理にかなっていない。


「わしらにできるのは祈ること。自らの体を捨て、多を救うことなのじゃ。お主と違って、逃げられぬ運命なのじゃ」

「……別に、運命から逃げたわけじゃねぇよ」


 バツが悪そうに流星は顔を背ける。

 流星は、話が脱線したと気がつき咳払いを一つして、ポケットに手を突っ込む。


「まあ、気をつけろよ。婆さんは未来がわかるけど、バグを通した未来はさっぱりだからな。今回もそうなんだろ?」

「うむ。奴らが日本に侵入した。経路は全くわからないが、侵入を許してしまったのじゃ。これは対処――」

「そうじゃねぇよ。御門恭介、俺の息子に気をつけろよってことだっつの」

「? どうしてあんな小童に気をつけなくてはならんのじゃ」

「あんま、甘く見てると寝首を狩られるぞ? あいつは、世界が生み出したバグだからな」


 そう言って、流星は立ち上がりスタスタと最初と同じ足取りで蹴破ったドアの方に歩いていく。

 ドアを潜ると、徐ろに声が聞こえる。


「……そうか。最強の異端者(バグ)と呼ばれた者からの忠告、心の片隅にでも置いておこうかの」

「いやいや。俺は、ただの元陰陽師、現SPだ。でも、心の片隅にその言葉を刻んとけ。あいつは、俺に成し遂げられなかったことをやり遂げるぞ。星読みの神崎さん」


 その言葉を最後に、部屋には沈黙が訪れる。

 冷め切っていた空間にわずかな温度が戻ってきて、温まった頭をもっと温める。

 その中で、神崎の祖母、星読みの神崎は何も含まれていない笑いを起こす。

 その声が、誰に聞こえただろうか。いや、聞こえなかっただろう。それほどまでに空しく、虚しい、空虚な笑いだったのだ。

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