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死後も現世でゾンビやってます  ―三種の神器をもらってハイスペックゾンビな俺―  作者: 七詩のなめ
ハーレムって嬉しいものじゃないの? めっちゃ悲しいよ?編
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太陽のような暖かな微笑みを

読んでくれると嬉しいです

 突如として現れた俺の許嫁、野々宮春。

 思い返せば、あっという間の面倒事だ。何かが解決したら、何かが起こる。まるで、どこかの物語の中みたいだ。

 その通りに行けば、俺はきっとその物語の主人公なのだろう。

 しかし、世界とは、現実とはそんな甘いものではない。

 いつだって壁があり、それを越えることでしか幸せを手に入れることはできない。そして、その壁は一筋縄では……いや、それ以上に厄介で、それはもう嫌がらせの類になっている。

 話を戻そう。もし、俺が主人公ならば、この状況を簡単に打破するはずだ。当然、そのあとにはサービスシーンだって存在して、幸福の絶ッ長なのだろう。

 さっきも言ったとおり、世界はそんなに甘くない。ゆえに、俺はこの状況を打破するのは困難を強いられ、同時に無茶ぶりを強いられるだろう。

 だが、俺はその全てを受け入れる。

 もし、神がいるのなら、こう言ってやろう。


「さあ、幸福の準備をしておけよ、この野郎(世界)。俺にこれだけ働かせんだ。最上級中の最上級の幸福を与えなかったら、世界だろうが神だろうが、盛大な八つ当たりをしてるからな!」


 俺は不穏なことを宣いながら、俺の横にいる真理亜に手を伸ばして肩を掴む。

 真理亜は俺に触られたことに驚き、体を小さくする。


「真理亜。約束してくれるか? 世界が敵に回ろうとも、全類が敵に回ろうとも、俺の傍にいてくれるって。俺を助けてくれるって」

「せ、先輩?」


 いきなり戦場でそんなことを言われて、常人では理解できないだろう。しかし残念だったな。ここにいる時点で常人じゃないのだ。この戦場で生きていける奴は、既に常人ではない。

 俺は両手で肩をしっかりと掴み、抱き寄せるように顔を近くする。

 すると、真理亜は顔を朱色にして、恥ずかしそうに視線をずらす。


「どうなんだ?」

「あ、えっと、その……はい」

「聞こえないよ」

「うぅ……はい! 絶対に離れたりしません!」


 真理亜に意地悪をしたつもりだったが、その意図が汲み取れなかったらしい真理亜は大きな声で返事する。考えていなかった行動にも関わらず、俺はそれを見てもさして驚かない。それどころか、微笑みもっと顔を近づける。

 そして、真理亜の桜色の唇に俺の唇が重なって、


「んっ……」


 瞬間、真理亜の体が硬直し、痙攣のように肩を震わせる。

 本当に小さな叫びと、盛大な羞恥が俺たちの体を熱くする。感情を高ぶらせていく。

 キスを終えると、俺の背後にあったはずの透き通るような魔法陣は陽炎のように鮮やかな紅へと変わり、俺の両手には二振りのとても大きい手裏剣を手にしていた。

 恥ずかしさのためか、地面にヘタリ混んでしまった真理亜を放って、俺はまっすぐヴリトラを見る。


「なあ。お前は、誰かを恨んで楽しいか?」

『不思議なことを言う。この世で誰かを陥れるのに、これ以上の楽しさが存在すると?』

「やっぱ、わかんねぇや、お前のこと」

『無論。最初から理解など求めてなどはおらんよ。どうせ、貴様もここで消えてしまうのだからな!』


 そう言って、ヴリトラは巨体にも関わらず素早く、そして重々しくまっすぐ突進してくる。

 俺は手に持っていた二振りの手裏剣を同時に投げる。すると、手裏剣は意思を持っているかのごとく目的の場所に向かっていき、ヴリトラの後ろ足二本を切断する。


『がっ!』


 後ろ足がなくなったにも関わらず、ヴリトラは前足を使って突進を続ける。


「クロエ、薙」


 俺はクロエと薙を呼び、抱き寄せ、抱っこする。

 二人はそれを嫌がらず、だが恥ずかしがって顔を赤くする。


「二人は、俺の傍にいてくれるか?」

「もちろんよ。離れられないじゃない」

「もちろんですよ。私の命は、恭介様のものです」


 二人は交互に俺の唇にそっと唇を合わせる。

 すると、陽炎の鮮やかな紅から、何もかもを飲み込むような漆黒に魔法陣の色が変わり、両手には手裏剣ではなく、ものすごく大きい鎌が二本収まっていた。

 俺はそれを躊躇なく振り、今度はヴリトラの前足二本を切断する。


『ぬぅ!』


 とうとう移動できなくなったヴリトラは地面をバウンドしながら、ゆっくりと俺たちに近づいてくる。


「綺羅」


 次に綺羅の肩を掴み、引き寄せる。


「私のことは、知ってるよね?」

「……ああ。いつもいつも、面倒なことばかり押し付けてごめんな」

「いいよ。それに、今日は面倒なことじゃないでしょ?」

「まあ……そうなるかな」


 幼馴染はなんでも知っている。そんな言葉を思い出す。

 本当に、こいつには敵わない。俺のことを俺以上に知ってて、俺の考えなんて筒抜けで、困ったようで本当に頼りになる。

 俺は顔を近づけ、目を瞑った綺羅の唇に唇を重ねる。

 すると、全てを飲み込むような漆黒から目を瞑りたくなるほど眩しい黄金に魔法陣の色が変わり、俺の手には一本の剣が握られている。

 俺はそれを横薙ぎに振るうと、斬撃が近づいてきていたヴリトラの首を飛ばす。


『くがっ! ま、まだだ!!』


 さすがというべきか、呪うのが得意なヴリトラは執念深い。そして、しぶといと来たもんだ。面倒なことこの上ないな。

 だが、それももうおしまいだ。

 俺は既に黒い何かに戻りつつあるヴリトラを見据え、その上で春を呼ぶ。


「なあ、春。お前は、一体何ものだ?」

「え? ……野々宮春、だけど」

「そう。それでいい。お前は野々宮春。ほかの誰でもない。お前はお前だ。不幸も幸福も、絶望も希望も、今まで感じてきた感情全ても、今ある自分も、その全てをひっくるめてお前だ。過去の自分を否定するな。これからの自分を諦めるな。お前はお前で、お前しかいない、お前自身なんだから。否定するより、諦めるより、期待して希望を持って笑っている方がよっぽど楽しいだろ?」


 俺は、春に手を差し伸べる。

 

「俺は、春に会って時間も関係性もない。でも困っているなら助けるし、手伝って欲しいなら全力で強力する。だからさ、俺を信じてくれ。お前の不幸を、俺が消し去るから。さあ……行こう」


 言っていることがデタラメだということはわかっている。論が成り立っていないことだって重々承知だ。でも、わかってもらいたい。俺は、お前を、お前たちを守るためだったら、理屈も理由も真理も森羅万象も全部ぶっ壊して、何もかも助けるから。


「……うん」


 春は強い決心と希望への小さな一歩を踏み出し、俺の手を取った。

 それが間違いだと誰が言える? 言った奴がいるのなら、そいつは俺が屠ろう。間違いじゃなかったと、吠え続けよう。この勇気ある行動を、間違いじゃなかったと断言し続けよう。

 そのためにこの手は、二度と離さない。

 手を引き、体をこちらに持ってくる。そして、春の顔が近づいてきた瞬間、優しく唇を重ね合わせる。

 すると、眩い光が辺りを照らし、俺の右手に銀色の拳銃が握られる。


『まだ、ま、まだだ!!!!』

「いや、もう終わりだ。邪龍ヴリトラ」


 執念深いヴリトラは顔だけでも動き、俺と春を食い千切ろうと口を開けて飛んでくるが、それを俺はヴリトラを正式に呼び、絶対服従の言霊を使って寸前で動きを止める。

 同時に、俺は拳銃を開いたヴリトラの口に向けて至近距離で突きつける。


「不幸も幸福も、絶望も希望も、どれもこれも表裏一体だ。だからこそ、逃げ切れないものだからこそ認めて受け入れなくちゃいけない。そのどちらだけをとっても成立しない理不尽でもさえも、一つの表裏一体だ。矛盾を矛盾として見るのではなく、矛盾があってもいいと認める。そうしなくちゃ、一生つまらないんだぜ、ヴリトラ」

『ま、待て! わ、我を、我を邪龍ヴリトラだと知って引き金を引くつもりか!!』

「ああ。お前はやりすぎた。誰かを苦しめ続けることは、認められない。だって、それには裏も表も存在しないんだから」

『や、やめ――』

「あの世で後悔しな。お前の行動の一つ一つが、今日この日の結末につながった」


 そう言って、俺は引き金を引く。


『きぃぃぃぃざぁぁぁぁばぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!!!!!!!』


 ヴリトラの絶叫が空気を震わせる。

 その絶叫はまさに呪い。恨みと妬みと怒りと、その他のマイナスの感情が入り混じった濃厚な悪の言霊。

 絶叫が止むと、そこにはもう何もなかった。世界から存在を削り取られるのかのように忽然として消えていったヴリトラに向かって、俺は言う。


「希望は、幸福は、なくちゃいけないんだよ。一発の希望が、それまでの絶望を覆すことだってありえるんだから」


 言って、俺は体から力が抜けて地面に膝を着く。

 げ、限界だ。もう、体が動かない。心臓は動くことをやめようとして、なんだか眠く感じてきた。息は途切れとぎれになり、倒れそうになる体を支えることさえ億劫だ。

 これが代償か。あながち、ありとあらゆる気力の衰弱、あるいは消失。

 どうりで、眠いわけだ。よく持ったよな。偉いよ。だから、もう寝よう。

 俺は地面に体を預け、薄れゆく視界からみんなを見た。

 誰一人欠けていない。誰ひとり悲しそうな涙を流していない。

 その事実を確認できて、俺は笑う。

 ああ、良かった。俺は、誰も失うことなく面倒を打破した。


「どう、だよ……神……俺は……やり、きった、ぞ……」


 普段からヘラヘラしているタナトスに、自慢するように俺は言ってやった。

 そのあとのことは、よく覚えていない。真理亜が近づいてきたのか、またもや綺羅か。とにかく、俺は勝った。その事実だけで、今十分だった。

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