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死後も現世でゾンビやってます  ―三種の神器をもらってハイスペックゾンビな俺―  作者: 七詩のなめ
ハーレムって嬉しいものじゃないの? めっちゃ悲しいよ?編
73/167

払拭しろ、全てを

読んでくれると嬉しいです

「やめろ。やめろぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおおおおおおおおお!!!!」

『な、何だ!?』


 俺の声に呼応して輝くメダルの光に、ヴリトラは嫌そうに弾いていく。

 それを見て俺は駆け、春を抱きしめる。

 春は何が起きたのか分からずに体を縮こませていた。


「……え? 恭介、くん? なんで、抱きついて……」


 どうやら、今の状況が少し理解できてきた春は俺を見てひどく驚いていた。

 そんな春を、俺は強く強く抱きしめる。強く抱きしめられてそのせいで、春は顔を顰めていた。

 それを知っていても、俺は春を離さない。離してしまったら、また行ってしまいそうな気がするから。

 どうして俺はこんなことしてる? 行っても、関係ないだろ? 逆に、行ってくれれば面倒事が一つ減る。俺にとってこれ以上嬉しいことはないはずだ。

 なら、どうしてこうしている? こんな小っ恥ずかしいことを、俺は何故している?


「行かせねぇ。あいつの元には、絶対に行かせねぇ」

「ど、どうして? だって、恭介くんは……」

「そんなもん――」

 ――お前が可愛いからだよ、コンチクショウ。


 俺は春の顔を見ずにそういった。

 そう、これは一種の習性。男性として、目の前で可愛い女の子を手放すことができない故の行動だ。

 春は可愛い。言動が、容姿が、なによりあの優しい微笑みが。

 それを手放すことができる男子は、男子ではない。否、男性ではない。

 つまり、俺は俺の女を取られたくないのだ。これは、俺のわがままを突き通すためのわがままだ。

 矛盾している? そんなもの関係あるか!


「春。お前は俺の許嫁だ。ほかの誰にも渡さねぇ。ほかの誰にも触らせねぇ。お前は、綺羅たちと同じく、俺の傍から離れるんゃねぇよ」

「そ、そんなのわがままだよ……」

「うるせぇ。それを言うなら、さっきのお前の行動だってわがままだ。綺羅たちの願いもわがままだ。あんな化け物、誰だって相手にしたくねぇよ」

「だ、だったら――」

「でも。それでも、お前を連れて行かせる理由にはなり得ない」


 怒りが、妬みが、悔しさが、抱きしめる力を強める。春は消え入るような声で痛いと言い、ポケットに入っているメダルは俺の思いに共鳴するように輝きを増す。

 願わくば、ではない。絶対に、この場を勝ち抜く。何が起きようとも、何度死のうとも、たとえドラゴンを殺すとしても。勝たなくてはならない。

 感情が荒々しく燃え上がる炎のように沸き立つ。

 しかし、メダルの力はまだ何かを欲している。引き金を引くための力を、欲しているようだった。


『何なんだ、その光は!! 邪魔だ邪魔だ邪魔だ!! もういい! その女ごと消えてなくなってしまえ!!』


 狂気とも思える程の呪詛が俺たち全員に向けて放たれる。

 その瞬間、輝くメダルの力もわからないのに能力の使用条件が達成されたことがわかった。

 すると、クロエが危機を悟っかのか急速に全員を守る障壁を作り出し、呪詛の攻撃を数秒遅らせてくれた。

 その数秒で十分だった。メダルの力を解放するのには。

 俺はポケットで輝いているメダルを取り、宙に弾く。


「俺、御門恭介が願い乞う。邪悪を消し去る異能を。悪を許さない神聖な心を。今、俺のもとに来い、不幸の申し子進藤雄馬の力!!」


 落ちてくるメダルをキャッチすると、俺の背後に透明みたいな透き通った魔法陣が現れ、俺たちに降りかかるはずだった呪詛を根こそぎ吸い込んでいく。

 同時に、俺の体がだるくなる。

 これが代償か? それとも、能力の延長線上みたいなものか? まあ、どちらにしろこの力でないと勝てない。そう感じる。

 だが、どうすればいいのか、それがわからない。

 わからない状況で全力を出そうとするのは自殺行為だ。勝てるような気がする、だからと言って信用しすぎるのはダメな気もする。

 数刻も迷っていられない状況で、俺は次なる一手を模索する。


『全てを出せばいいんだよ。包み隠さず、お前の仲間に全てを見せてみろって』


 軽々しい声が、目の前から聞こえる。

 その声の主は、半透明な体をしていて、すぐにこの力の本当の持ち主だとわかる。

 ヘラヘラと笑っているその顔が、俺に不信感を持たせる。


『時間がない。でも、全員を守りたい。なんていうわがままだ。わがまますぎてわがままじゃなくなっているような気がするよ……でも、すごい夢だと思うよ』


 相変わらずのヘラヘラ顔だが、どうやら言ってる事は本気のようだ。


『俺が初めてあいつらに会った時もそうだった。絶望に身を任せて、何の力もないはずだった俺を祭り上げて。結局は周りの期待だった。不幸な俺は、そういった期待が重すぎて、少し大変だったな』


 進藤雄馬は昔を思い出したのか、ははっと笑っていた。

 その姿が、ああこいつは主人公だったんだと思わせてくる。思わざる負えなくしてくるのだ。

 この主人公もまた、困難という壁を越えてきた猛者なのだと気づいたとき、俺は進藤雄馬のヘラヘラとした顔が凛々しく見えた。


『人は期待されて、想われて、生きていく。でも、されるだけじゃない。するんだよ。期待して、想って、生きて欲しいと願っている。そうやって、人ってのは繋がってる。お前は、仲間を信じきれてるか?』


 俺は何も答えない。

 だが、答えは知っていると言いたそうな顔で、話は続けられた。


『不幸は、必ずしも不幸じゃない。幸福もまた、必ずしも幸福じゃない。裏と表がはっきりしないグズグズの世界だけどさ。信じられるものは、必ずあるんだよ。俺は、それが仲間だと思ってる。互いが互いを思いやっているのなら、思い合っているのなら、それには裏も表もない。一面しかない答えは、絶対の真実だ』


 俺は、またも何も反応しない。

 そして、またも同じ顔をされ、今度は手を差し伸べられた。


『さあ、俺の手をとるか。それとも自力で解決するか。どっちを選ぶ?』


 そこで初めて俺は微笑んだ。そして、差し伸べられた手を払いのける。

 立ち上がり、進藤雄馬の横を通り過ぎ、一言言ってやる。


「お前の手なんて必要ねぇ。これは俺のわがままだ。誰にも手伝わせてやらねぇ、誰にも馬鹿にさせてたまるか。降りかかろうとする面倒も、幸福も、不幸も、全部俺のものだ。誰にも分けてやらねぇよ。だから、降りかかろうとしたお前の力も俺のものだ。ここに置いていけ」


 その回答を知っていたかのように、進藤雄馬は笑い、返事を送る。


『あはは。言っていることは暴論にすらならない論だけど、それでいい。いや、それがいい。どうせ降りかかるんだ。幸福だって不幸だって裏も表もないっていうのなら、全部愛して、独占して、自慢しろ。俺は、誰もが羨むような不幸があったっていいと思うんだ。それも、一つの現象なんだから、羨んだって損はない。俺の力を使いたいのなら、仲間を信じきって、自分の全てを曝け出せ』


 曝け出す事は危険だ。全てを知られるのは怖いことだ。でも、あいつらなら、俺の仲間たちだったら信じてもいいかも知れない。

 俺はメダルに手を伸ばし、手に掴む。


『俺も、お前も、最初はただの一般人だ。でも、化け物と戦うには化け物になるしかない。なら、化け物じみた信頼を持とうぜ。どうせ化け物にならなきゃいけないんだったら、正義の化け物の方がよっぽどマシだろ?』


 ああ、俺もそう思う。

 どうせ行き着くのは化け物だ。なら、誇れる化け物になりたい。誰かの役に立った化け物になりたいんだ。

 全員を救う。そのために、力を寄越しやがれ!!


「俺、御門恭介が願い奪う。悲しみに暮れる女神の宝具を。目まぐるしいほどの収束する信頼を。今、俺のもとに来い、目指すべき希望!!」


 唱えると、頭の中に映像化された記憶が次々と早送りされ、能力の使い方を身につけていく。

 能力の使い方が大体わかると、俺は長らく放っていた春に目をやる。

 そして、


「なあ、春?」

「な、なに?」

「お前は、今でも自分が不幸だと言い張るか?」

「……え?」

「まあ、いいや。もし、お前が一生自分は不幸だと言い張るなら、きっとお前は不幸なんだろう。でも、俺はそれを一生をかけて否定し続けてやる。お前が自分は不幸ではないと泣きながら言うまで、俺はお前を否定する」

「な、なんで?」

「――だって、お前は不幸なんかじゃないからさ」


 俺が、お前の不幸を殺すから。お前の苦しみを、消し去るから。

 だから――


「だから、笑っていてくれ。俺は、俺たちはお前の笑った顔が大好きだからさ」


 言うと、俺の横に綺羅、真理亜、クロエ、薙が並ぶ。

 そして、


「俺の仲間を助ける。手伝ってくれるか、みんな?」


 返事はない。でも、頷きはあった。

 みんな、俺を信頼して。俺もまた、みんなを信頼する。

 あいも変わらず体はダルイし、重い。できるなら動きたくもない。俺はそれを感情の高ぶりによって無理やり体を動かしている。

 さあ、行くぞ。邪龍ヴリトラ。

 お前を倒して、俺たちはみんなで幸福になる。

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