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閑話 僕らの真理亜さん その①

筆休めです

短くてすみません


読んでくれると嬉しいです

 とある神社。寂れたとも、真新しいとも言えない独特な雰囲気を醸し出すその神社で、少女、神崎真理亜はため息を着いていた。

 理由は、先日のある少年との会合……いや、自分自身が勝手に襲ったのだが、真理亜はそんなこととうの昔に忘れてしまっていた。

 木々からこぼれ落ちる木漏れ日の下で、真理亜は浮かない顔で神社への道を歩く。

 その手には、大量の酒の空瓶。缶ビールなどの空き缶が両手いっぱいに持たされていた。


「なんで……なんで私がこんな雑務なんてしなくてはいけないのでしょう?」


 真理亜は小さく、そんな愚痴を漏らした。

 生まれてすぐに、自分は神に好まれる体だと叔父たちが騒ぎ、小さい頃から神というものに触れてきた。しかし、その中で感じ取ったのは、神という存在は案外雑で、自由奔放な性格をしていて、何よりわがままだということだった。

 さっきだって、


「おぉ~い。酒はまだか? 私は酒が飲みたいぞ!」

「なら勝手に取っていけばいいじゃないですか。なんでいちいち私を通して出てくるんですか」

「何をいう。神社には男子しかおらん。男子というのは……男子というのはのぅ!」

「あーはいはい。わかってますよ。男子はダメな子、バカな子ですねぇ~」

「き、貴様! 聞いておらんな!? 男子というのはのぅ! いつだって女子の体が好きなのじゃ! 貴様もその体を狙われておるのじゃぞ!?」


 とてつもなく酒臭さを醸し出しながら、天照からのありがたい(?)お言葉をもらって、真理亜はやれやれと首を振りながら、空き缶などを片付けていった。

 天照とは神話の中ではさぞすごいことを書かれているが、その実、どこまでもわがままで独身に悩む女性なのだ。

 おとなしくしていれば可愛いのに。まあ、お酒を飲むからいけないのでしょうけど……。

 真理亜は日本神話最高の神に向かって、そんなことを思うのだった。


「須佐之男も全然顔を見せんし、全然面白うない! 私は全然面白うないぞ!」

「なら、外を出歩けば――」

「外は嫌じゃ! 外は男だらけじゃないか!」

「世の中を男子だけしかいないようなことを言わないでくださいよ……」

「それでも嫌じゃ! 男子と同じ空気を吸とうない!」

「はぁ……勝手にしてください」


 慈悲に溢れ、何事も笑顔で対処できる真理亜も流石にお手上げだ。

 こうなったら、須佐之男様を……いやダメです。あの方は違う意味で厄介ですから。

 手詰まりのところに、真理亜を誰かが呼んでいるのに気がつき社を出る。


「どうかしました?」

「いえ、天照様はどうですか?」


 真理亜を呼んだのは、天照を心から信仰する巫女の一人だった。

 間違っても、あぁ、天照さんなら中で不貞腐れてますよ? とは口が裂けても言えはしない。

 だが、どう言い訳をするべきか。まず第一に絶対に中は見せてはいけないだろう。確実に目の前の少女は絶望してしまう。


「あの、天照様は中にいらっしゃるのですよね? 少しだけ、姿を見せてもらえませんか?」

「ダメです。天照様はお休みになっています」

「し、しかし、先ほど声が――」

「さっきのは私の独り言です。盛大な独り言ですから」

「は、はあ……?」


 なんということでしょう。つい今さっき変人が一人出来上がりましたよ。

 あ、私ですね……。

 と、真理亜は涙ながらに状況説明をした。


「なら、せめてお声だけでも」

「ダメです。今、天照様はよっぱら――お休みになっています」

「よっぱら?」

「いえ、もっぱらを聞き間違えたんでしょう」

「はあ……?」


 危なかった。今のは危なかった。つい口が滑ってしまいそうになって、酔っ払っていると言いかけてしまった。もう一度言おう、危なかった。

 よくやりました、私! 偉いですね! 最高ですね! はあ……。

 真理亜は自分の頑張りを誰かに認めて欲しい衝動にかられ、それが叶わないと知ると自分自身でほめたたえた。

 それでも最後は、悲しみのせいかため息も漏れてしまった。


「明日の早朝。また来てください。きっと、天照様のお声でもお姿でも見られますよ」

「ほ、本当ですか!」

「ええ。私は、嘘は付きません」

「はい! 分かりました! 明日の早朝ですね!」


 少女は手を振って、帰っていった。

 それを見送り、姿が見えなくなった瞬間、真理亜の体が社の床に落ちた。

 はあ……疲れました。なんで、皆さんあんなに熱心にわがままな神様に縋るのでしょう? まあ、それしか縋るものがないとは言え、あれは……ある種の嫌悪感を感じ得ないのは私だけなのでしょうか?

 真理亜は床の節目を数えながら、そんなことを考える。


「これは確かに……興味が乗るかと言われれば、乗らないまでもないかな?」

「あははははは! そうだろうそうだろう! ゲームとは面白いのじゃ!」


 部屋の中から話し声が聞こえる。

 さっきまで、天照は一人だった。というか、酔いつぶれていた。

 つまり、話し相手などいない状態なのに、話し声が聞こえるということは……。

 もしかして、独り身に嫌気がさしてとうとう壊れた!?

 真理亜は相棒でもある天照の異変を感知し、収束に向かうと、


「のぅ、タナトス。よく見たら、お主。いい少年じゃないか」

「あははは。何を言っているのかわからないねぇ。まあ、カッコいいのは認めるけどさ」

「私と、子を成さないか?」

「んー。そういうのは興味ないかなぁ。どちらかというと、今の僕は、このゲームの今後の展開が気になるなぁ」


 割り込んではいけない話をしていた。

 子を成す。しかも、他神話の神と。

 これは……喜ぶべきなのでしょうか。止めるべきなのでしょうか?

 だが、今の問題はそこではない。天照の近くにいるあの神。確か、あの少年の近くにいた神だ。

 それに気が付くと、あらかじめ聖なる光で清めておいた槍を片手に真理亜は突っ込んだ。


「愚弄は許しませんよ? そもそも他神話のあなたがここに何の用なんですか?」

「おお。それは聖なる光で清められた聖槍かな? うん。やっぱり僕はこっちのほうが興味が沸くなぁ」

「じ、ジロジロ見ないでください!」

「おっと。流石に天照の光を帯びた槍を喰らえば僕もタダじゃ済まされないからね。攻撃は控えてほしいなぁ」


 タナトスのどこまでもふざけた態度に、すぐそこまで来ていた堪忍袋の緒を切るほどの怒りが、爆発した。


「あ、あなた方神は……どうしていつもいつも、ふざけた態度を取っているのですか! もっとシャッキとしてくださいよ、シャッキと! 付き合わされる私の身にもなってください!」

「んー。君がなんで怒っているのかなんとなくわかるけど、なんで怒ってるの?」

「ちなみに、その理由はなんだとお思いですか?」

「ん? ノーパンなんでしょ? だから怒りやすいって――――」

「あなたは馬鹿なのですか!?」

「馬鹿じゃないさ。ただ、パンツをこよなく愛する神様さ!」

「バカじゃないですか!」


 それから、真理亜による長い長いお説教が始まったのは言うまでもないだろう。






 



その頃、恭介は、


「タナトスの野郎。今どこで何してやがるんだよ」


 こちらはこちらで大変苦労しているようだった。

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