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死後も現世でゾンビやってます  ―三種の神器をもらってハイスペックゾンビな俺―  作者: 七詩のなめ
ハーレムって嬉しいものじゃないの? めっちゃ悲しいよ?編
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それでも父親だから……

読んでくれると嬉しいです

 息子、恭介が出て行ったリビングは一層静かだった。

 まあ、一万円を渡して女の子たちを出払ったことも関係しているが、それは自分でしたことなので黙認できる。

 しかし、自身が巻いてしまった失敗には黙認はできない。

 流星は小さくため息を吐く。


「俺って、こんな熱血だったか?」


 誰にともなく呟く。

 自分の息子にムキになり、仕事モードになってしまったことが恥ずかしい。

 冷静だった頭が急に暖かくなる。

 思い出しただけで赤くなるような失態に流星は首を振る。


「あいつも、もう大人か。にしても、人間をやめてたとは思わなかった。いやはや、さすが俺の子か」


 急速に自慢をする流星。

 その視線の先には何もない。だが、流星には何か見えているのかもしれない。

 それは例えば、過去の自分であったり。例えば、今の自分であったり。もしくは、先祖であったり。

 どちらにしろ、流星の言葉に返ってくる言葉はない。

 それをにやっと笑い飛ばすように表情を和らげて、流星は、


「……ああ、なりたかったよ。勇者や英雄に。かけがえのない存在に」


 表情とは裏腹に握り拳を固く作り、搾り出すように言うその姿は父親には見えない。

 現に、今の流星の言葉は現在の流星の言葉ではない。忘れた過去の、忘却の彼方に消えていったはずの若かりし頃の流星の言葉だ。

 失うということを知らず、自分は何にだって敵うと信じ込んでいる、ただの人間の頃の流星の言葉だ。


「俺は、俺の夢をあいつにやらせる気か? 俺が叶えられなかった夢を、あいつを通して見るのか? ふざけるな。そんなの『面白くない』だろ?」


 流星を動かす三種の原動力は、金、興味、そして娯楽だ。

 何事にもこの三種を求め、この三種がそろわなければ仕事はしない。それが流星のという人間だ。

 そして、今自分がしたことは娯楽がない。自分の夢を息子を通してみるなど、何も面白くない。

 面白くなければ、見る価値すらない。

 流星は歯を食い縛る。


「結局、俺は息子に甘いわけだ。でもって、あいつは大馬鹿だ。わかってる困難に自ら身を投げるなんてな。昔の俺のように、破綻して終わりなのにな。バカだよ。大馬鹿だよ。んで、面白いよ」


 笑い、そして怒る。

 矛盾が、矛盾して、まるで正常のように進む。

 数秒、時計の秒針の音だけが聞こえた。

 そして、


「あいつなら、知らずに勇者や英雄になるだろう。たとえ、それを否定しようとも、それでもあいつは何かを助けることをやめることはしない。だって――」


 視線をずらし、またもや虚空を見てニヤッと笑って、


「あいつは俺の息子だ。遺伝子ってのは面白いな。親と同じ道をバカみたいに進むなんてよ……ホント、嫌になるくらい、昔の俺に似てんだよ。バカみたいに突っ走って、転ぼうが何しようが、正しいと思った道を突き進んでさ。結局その先には何もない。周りを無視して走ってきたっていう意味を、この年になって理解すんだよ。あいつの未来は真っ暗だな。四方八方、暗闇だらけだ」


 流星は、虚空をみつめながら、ゆっくりと握り拳の力を抜き、解いていく。

 そして、完全に解き終わった時、


「だから、あいつのこと、よろしく頼むぞ。あいつは馬鹿で、アホで、愚鈍で、どうしようもないクズだけどさ。根は優しいし、単純だし、面白いし、なにより嘘を付くのが苦手なバカ正直なんだよ。あいつが、道を間違えたときは……そのときは、頼んだぞ」


 そう言って、流星はリビングを出て、玄関に向かう。

 さっきまで流星が話しかけていた虚空から、急に声が聞こえる。


「……それは僕の役目じゃないよ、彼女たちの役目だ……でも、そうだね。彼のような元人間は、間違え出すと面倒だ。その面倒を見るのは、もっと面倒そうだ。だから、その役目は、気が向いたら任されよう」


 虚空に突如現れたのは、ニヤニヤと笑うタナトスだ。

 タナトスは、笑いながら流星と秘密裏に約束をした。もちろん、タナトスはその役目を全うしようとは思っていなかったが、了承をした。

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