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死後も現世でゾンビやってます  ―三種の神器をもらってハイスペックゾンビな俺―  作者: 七詩のなめ
ハーレムって嬉しいものじゃないの? めっちゃ悲しいよ?編
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俺の尊敬とはきっと、俺の夢なのだろう

読んでくれると嬉しいです


 家に着くと、あれだけうるさかった四人の悪魔たちがいなくなっており、物静かさだけが痛いくらいに広がっていた。

 その中、俺は逆に助かったと言いそうになるほど気落ちし、重い足取りでゆっくりとリビングを目指す。

 リビングには、渋い顔をした親父が椅子に座っていた。


「帰ったのか」

「……ああ」

「その様子じゃあ、助けられなかったな?」

「…………ああ」

「はっはっはっは! そうかそうか。お前でも助けられなかったのか!」

「何嬉しがってんだよ」

「何も嬉しくはないさ。まあ、楽しいがな」


 俺は親父の無神経さに怒りを覚えた。

 一発殴ってやろうかとも思ったが、返り討ちにされるのが目に見えていたのでやめた。

 居心地が悪くなり、自室に逃げようと足を動かすと、


「まあ待て。少し、話をしよう」

「親父が話? どうせ碌でもないことだろ?」

「お前、いつ人間をやめた?」


 言葉が詰まる。

 人間をやめる。これはどう考えても……そういうことだよな。

 俺は一通の封筒をテーブルに叩きつけた。


「これ、どうせ親父が置いていったんだろ? どうやったかは知らないけど、どういうつもりだよ」

「ほう。俺がやった証拠でもあるのか? それとも、それをやる意図が俺にあったとでも?」

「ああ、そうだよ。親父はあいつを、春を救うために俺という絶対的鎮静剤を与えた! その上で楽しんで、遠くから見てたんだろ!!」


 怒りが、とうとう爆発する。

 春を助けられなかったことが、目の前の無神経な親父が、何よりもこんな情けない俺がムカついた。

 俺は握りこぶしを作り、肩を震わせる。


「あははは。それは面白いな。うん、なかなかの推理だ。でも、穴があるぞ?」

「ああ?」

「そもそも、俺はお前を『絶対的』鎮静剤とは考えてない。『一時的』鎮静剤だとは考えたがな」

「なっ……」


 笑顔で言う親父に、俺は驚きを隠せなかった。

 なおも、親父は進める。


「お前は少し自分を過大評価しすぎじゃないか? 自分しか春を助けられないと? 自分は特別だと? 馬鹿言っちゃいけねぇ。お前の代わりはいくらでもいるんだよ」


 無慈悲に、無愛想に、親父は言う。


「世界には、絶対なんてことはない。人は、人を殺してはいけないと言っておきながら人を殺す。盗んではいけないと言っておきながら平気で盗む。絶対のルールが、穴だらけだ。それは、お前にも当てはまるんだよ、恭介」


 親父の表情から、笑みが消える。

 それは親父が無心で仕事に就くときの顔だった。

 冷徹で、冷静で、何もかもを見通したような目を、俺に向ける。


「たとえ、お前がいなくなっても綺羅ちゃんたちは新たな道を見つけるだろう。いずれはお前のことを忘れて、幸せになるだろう。今回だって同じだ。お前はいてもいなくても関係ない。ただ、安定する時間が少しだけあっただけだ」


 ふぅっと親父は息を吐き、


「今一度問う。恭介、お前は……いつ人間をやめた?」

「……つい、三か月前だよ」

「そこに神がいるのはそのせいか。まったく、お前はいつも面白い状況にいるな」


 茶化すように、親父は変なことをいう。

 どうやら、親父にはタナトスが見えていたようだ。タナトスも、あまり驚いていないところから知っていたのだろう。

 俺は、視線をずらして親父を直視しないようにした。


「恭介、お前は人間じゃない。それはお前が一番理解してるな?」

「ああ」

「今までは、どうにかしてきたみたいだが、今回ばかりはどうしようもないって顔だな」

「……ああ」

「クックック、あーっはっはっハッハッハ!」


 親父はいきなり笑い出すやいなや、俺の胸ぐらを掴み、


「舐めるなよ、くそガキ」

「……っ!」


 口調が一気に変わった。

 これは親父なのだろうか。いや、これが親父の本性か?

 理由のわからない俺は親父の怒気にあふれた顔を見ることしかできない。


「テメェ、自分が勇者か英雄だとか思ってんじゃねぇだろうな? 自惚れるのも大概にしろよ。そういうのはやらねぇぞ? なあ、ガキ?」

「くっ……」


 わかっている。わかってんだよ、そんなこと。

 俺は勇者じゃない。誰も救おうとは思っていないから。

 俺は英雄じゃない。誰も意図して助けてはいないから。

 わかってる。俺はそんな偉くはないことくらい。わがままを突き通しているだけだといういことくらい。


「わか……ってんだよ!」


 俺は胸ぐらを掴んでいた手を払う。

 親父は鼻を鳴らし、見下すように俺を見てくる。


「お前は何者だ? 何様のつもりだ?」

「俺は……怪物だ。敢えて言うなら、愚者だよ」

「わかってんじゃねぇか。人間の度合いを通り過ぎれば、それは怪物だ。そして、お前は紛れもない怪物だ。理解しろ、怪物は何にもなれない。ただ一つ、愚者を除いては」


 俺は親父から目を逸らさない。

 じっと見る。それが俺の決心だと言うかのように。


「お前も、勇者や英雄になれない。なぜなら、それだけの勇気と覚悟がないからだ。勇者になるには、何かを犠牲にする勇気が必要だ。英雄になるには、なにが起ころうと自分の道を突き進む覚悟が必要だ。お前には、そのどちらもない」

「わかってる。だから、俺は怪物でいい。何も犠牲できないから、自分の道を突き進むなんて一人ではできないから。情けない俺は、怪物でいい」

「その道は厳しいぞ。何も犠牲にしないなんて、全てを蹴散らして行くようなもんだ。自分の道を誰かと歩くってことは、誰かの道を閉ざすってことだ。それが、情けないお前にできるのか?」

「出来るかできないかじゃない。やる……いや、付いてきてもらう。まっすぐ前しか見てないから、後ろなんて見たくないから、付いて来てくれていることを、俺は信じる」


 そう言って、俺は振り返る。

 リビングを出る途中、振り返りこそしないが親父に聞く。


「なあ、親父。親父も、勇者や英雄になりたかったのか?」


 親父は答えはしなかったが、笑っているような気がした。

 なぜか、そんなふうな気がした。

次回は親父回!!

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