閑話、それでも俺はゾンビですよ その②
読んでくれると嬉しいです
新しい住人、野々宮春と久々に帰ってきた親父、御門流星を交えて夜食を取り終え、俺は夜空と夜風に当たりにベランダに出ていた。
夜だというのに、周りは街灯や家のあかり、遠くからの町の明かりで恐怖するほど暗くはない。
そのせいか、夜空は少し見えにくくなっているが、俺はそこまで夜空にロマンを求める男ではないのでどうこういうことはなかった。
「君って、そういうロマンチストだったっけ?」
「今、それを否定したところだ。で? 何の用だよ、タナトス」
俺は夜空をバックに宙を浮く奇妙な少年、タナトスに話しかける。
タナトスは、いつものようにニヤニヤと笑い、今にも不気味な事を言いそうな勢いで口を開く。
「そりゃあ、残念だ。君みたいな人間にロマンチックなんて言葉を当てはめたら、どれだけ面白いか。くくく、想像するだけで大笑いだ。それが実現しないのは、本当に残念だよ」
「お前がどう思っているのかは知らん。それに俺は――」
「怪物だって? 笑わせないでくれよ。君はまだ人間だ。他人よりも少し強いだけのね?」
それを聞いて、今度は俺が笑う。
俺が、人間だって? 死んでも生き返る俺が? こうやって、神と対話している俺が?
ありえない。そう、俺はありえない。
「お前は何か勘違いしてるみたいだな」
「ん~、何をかな?」
「人はな。自分たちと違うものを怪物って呼ぶんだよ」
そう言って、俺は空笑いする。
俺は、他人と違う。何もかもが、他人とはまるで違う。
だから、俺が怪物だ。異物で、怪物で、あとは……なんだろうな?
「それにしては楽しそうだ。自分と違う人と付き合って、そんなに楽しいかい?」
「ああ、楽しいね。怪物と人間の度を超えた奴らの物語は素晴らしいものだ」
「なんだか。僕は君がわからないよ。自身が怪物だと認識して、その上で全てを救う。前にも言ったかな? 君は異常だ」
「異常で結構。通常の怪物より清々しくていいじゃねぇか。どうせ、もう戻れない体なら。当たり前より、ありえない事をしようって、そう考えてんだよ」
開き直った俺に、タナトスは絶えず笑う。
それをひとしきり見て、タナトスに問う。
「さあ、ここからは真面目な話だ。タナトス。今、俺が使える能力。その代償を詳しく教えろ」
「代償……知りたいかい?」
「いや、語弊があったな。俺が考えている代償の内容と、相違を確認させろ」
「……ハハッ。やっぱり、君は面白い。いいだろう。君に与えた能力の全貌を教えよう」
「まず一つ。真実を貫く拳だが、あれは全身が痛む。なぜだ?」
「あれは、君の筋肉細胞を殺しているからだよ。ちなみに、なぜ動けるかというとだね。壊された瞬間に回復しているから。痛むのは、そのローテーションによるものだろう」
「二つ。勝利を約束された剣。あれは特に代償は見られなかった。あれの代償は一体何だ?」
「あれか。あれは、君の幸福を殺している。勝利の代償は、自身の幸福を裏切ることになるってことだね」
「三つ。神殺しの牙。代償は――」
「君の理性だ」
問をやめ、俺は夜空を見上げる。
タナトスも答え終え、何をすることがないのか宙を回っていた。
あー、なんだかなぁ。
「ホント。めちゃくちゃだな」
「仕方ないだろう? 君の能力じゃないんだから」
「そうじゃねぇよ。能力に文句も、代償に文句もない。めちゃくちゃなのは、その程度の代償で誰かを助けられちまうことだ」
「……その程度?」
タナトスは、俺の言葉が信じられないのか、驚きの声を上げていた。
俺はいつもヘラヘラしているタナトスに驚きを感じさせたことに、勝ったと笑う。
「だって、能力を使って傷つくのは俺だけだろ? なら、俺さえ我慢すれば誰も傷つかないし、誰だって助けられる。違うか?」
「……素直に驚いたよ。君は本物の馬鹿だったのかい? 人は自分を大切にするものだと思っていたけど……」
「ああ、それなら――」
俺は流石に夜風に当たりすぎたのか、肌寒くなり、窓を開け中に入ろうと足を動かしつつ。
「俺は、人じゃないんじゃないか?」
そう言って、窓を閉じる。
背後から聞こえたのは、タナトスの心から喜ぶ声だった。
それを聞いてから、ベッドに向かうと、スタンバッてましたと言わんばかりにいつもの四人が、俺が寝る場所を開けつつ、すでに可愛らしい寝息をたてていた。
はあ、とため息を着いて、
「これじゃあ、この事はこいつらには言えないな」
俺は、さっきまでの話に鍵を付け、誰にも盗まれまいと心の奥深くにしまいこんだ。