世界は面白い夢を見るか――?
今回は久々にあの馬鹿が!
読んでくれると嬉しいです!
高校の屋上、昼休みに入ったばかりの屋上は春ということもあってか、少しだけポカポカとして冬服では暑いくらいだった。
そんな中、青年、フレア・フレイは空を飛んで自身に手紙を渡すために来た伝書鳩を人差し指で撫でながらニヤニヤと手紙に目を通す。
一通り読み終えて、返事を書こうとして手を休める。
そして、背後にいる炎の神プロメテウスに向けて言葉を放つ。
「あっちの神話体系も大変だぁ。ホント、俺たちっていいタイミングで逃げれたね」
「ふむ。ゼウスが苦悩する難題か。まあ、我らには到底関係ない事だろう。いや、そうでもないのか?」
「ああ、何せ相手はあの『ヴリトラを殺す者』だからねぇ。それに、あいつらが狙ってるのはゼウスの座じゃない。永遠だ」
そう言って、フレイは空を見上げ、笑う。
プロメテウスはその意図をなんとなくだが感知している。
ゆえに、
「すでに、お前がしようとしていることの大概はわかった。その上で、言っておく。やめておけ。お前がどのくらいの馬鹿であろうと、たとえ強かろうと、あいつらには敵わない」
「知ってるっしょ? 俺がこういうの大好きなこと」
「重々わかっている。しかしだな、これは流石にお前の領分を――」
「ああ、楽しみだぁ。早く来ないかなぁ」
「ああ、わかっていた。わかっていたが、ここまで馬鹿だと何故か清々しいな」
喜ぶフレイを他所に、プロメテウスは頭を抱えていた。
日本に来て早三ヶ月。相棒にあってすでに十数年。長い付き合いの中で、プロメテウスはある方程式を編み出した。
馬鹿=フレア・フレイ。
ここ、今度のテストに出るよ。
そんな、教師の常套句みたいな言葉を付け加えて言おう。それほどまでに、フレイは馬鹿なのだ。
平穏を嫌い。危機を喜び。危険に身を投じることに何の躊躇もないフレイは、常に自身の強さの証明だけが行動目的なのだ。
「なになにぃ~? なんか、面白そうな話ししてるじゃん!」
「……タナトス。貴様、何しに来た?」
「ん~? プロメテウスのアホ顔を見に?」
「殺すぞ?」
「学習しなよぉ~。君じゃ、僕は殺せな~い」
若干の火花を散らし、突如現れたタナトスに向けて敵意しかない視線を向けるプロメテウス。
だが、そこに現れたのはタナトスだけではなかった。
「ホント。テメェの周りは退屈しねぇのな」
「やあ! 我が親友、御門恭介!!」
「そして、このテンションである……」
呆れる青年、御門恭介はフレイを見て、先ほどのプロメテウスの如く頭を抱える。
なおも恭介は言葉を続ける。
「で? 何が来るって?」
「えっと――」
「なぜ、キサマらに教えねばならない?」
フレイが景気よく情報を漏洩しようとしているところをプロメテウスがやめさせる。
それを見て、恭介は肩をすくめた。
そして、タナトスに向き直り、続きをどうぞとジェスチャーすると、
「今、日本神話以外の神話体系が微妙なバランスを崩し始めたのさ」
「で? その主犯は?」
「さあ? ただ、『ヴリトラを殺す者』と書かれてるよ?」
「なるほど、正体は不明、と。ああ、これ。タナトスの母ちゃんがくれたらしいぞ?」
「なっ……夜の女神、だと?」
驚くプロメテウスを置いて、恭介は話す。
「んでだ、フレイ。お前、戦い好きだろ? ちょっくら戦ってこいや」
「ん~。それもいいかと思うんだけど。流石に俺でもやられるかなぁ~ってプロメテウスが話してたのさ」
なるほど、と言って恭介は何度も頷く。
そして、
「つまり、お前の相棒は、同じく相棒であるお前の事を信じるに値しないと言ったわけだ」
「な、何を言う! そんなことは決して――」
「おっと。どこに違いが? 絶対敵わない相手だとしても、信じて特攻させるのが相棒だろ?」
「穏便に済ませるのが本物の相棒だ!」
いつの間にか本当の相棒とは何かという話になっているが、コホンっと恭介が咳払いして話を戻す。
そこから放たれた驚くべき言葉に、当の本人たちもかなり動揺していた。
「何が『天上の業火』だ。『原爆』以上の力を持っているのに、勝てない相手が居ると? ははぁん。そりゃ、『誰も』勝てないわ」
恭介のいかにも挑発していると言わんばかりの言い方に、プロメテウスは我慢できた。
しかし、フレイはできなかった。何故か? バカだからだ。
「ふっ、言ってくれるね。そこまで言われたら行かなきゃいけないだろう、相棒!」
「ま、待て! これはどう考えても挑発だ! 陰謀だ!! もう少し考えろ、フレ――」
「さあ、無限の彼方にいざ行こう!!」
「待て――――!!!!」
天上の業火を惜しみなく使って空を飛んでいったフレイ達を見て、ふぅっとため息を着く恭介。
宙を浮きながらケラケラと爆笑するタナトスを見て、恭介も少し笑ってしまう。
「マジで、バカって扱い易すぎんだろ。これで、あっちはバランスが取れるかな?」
「ああ。君の考え通りなら、あと少しであちらの神話体系は安定する。といってもまた微妙だけどね」
「それでいい。今、あっちの神話体系が崩れるのはまずい」
「一応、理由を聞いてもいいかな?」
「俺に面倒事がもれなく来る」
「な~る。それは困るねぇ」
タナトスの別に困らないというニュアンスを秘めた言葉には何も言わず、恭介は振り返り屋上のドアに手を掛ける。
だが、すぐには開けず、一旦空を見る。
「ホンット。一難去ってまた一難なこと、やめてくださいよ?」
懇願するように祈る恭介。
すると、ドアを開け、勢いよく閉める。
春の陽気で暖かくなっているはずの屋上。
だが、そこには嫌な寒気さと異様なくらいの静けさだけが残った。