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狼のように美しく、鬼のように傲慢で――

読んでくれると嬉しいです

 意識が飛んで目を覚ますと、俺は地面に寝ていた。

 いや、おかしい。

 ――なんで、俺の前に俺がいるんだ?


『やあ、目覚めたか?』


 状況が理解できていない俺に、呑気に声を掛けてくる青年がいた。

 青年はあたりに転がっている大きながれきの一つに座って、俺をじっと見ていた。

 誰だ。こいつ?


「おい。お前、誰――うっ」


 目の前の青年が誰なのか聞こうとすると、頭に激痛が走った。

 それは、頭に膨大な知識、記憶が入り込んできたからだ。

 その中に、目の前の青年の情報があった。


「お前は……鬼怒狼太?」

『おおう。やっぱりわかるのか。ったく、やっぱあのガキに力を渡すんじゃなかったわ』

「ガキ? タナトスのことか?」

『タナトス? ……ああ、ここではそういう名前なのか』


 青年、狼太が言ったことがわけがわからないと思うと、そのことについての記憶も入ってきたので、すぐに理解した。

 あいつ、ほかの世界でもやりたい放題してたんだな。

 俺は、密かに狼太の苦労に感銘を覚えた。


『お前もお前だ。暴走するような力を、安易に貰うな』

「は? 暴走?」


 俺が問うと狼太は静かに指をさし、俺はそれに釣られてそちらを見る。

 すると、そこには神スサノオを圧倒する俺の姿があった。

 あれを、ホントに俺がやっているのか?


『自惚れるなよ? あれはお前じゃない。怪物だ』

「なら、安心しろ。俺は、怪物だ」

『……ふっ』

「何が面白い?」

『いや、お前が俺のように見えてな。ホント、お前は俺に似てるな』

「何言ってんだよ、気持ち悪い」


 俺は体に走る悪寒に身を捩らせ、鳥肌を立つのを我慢していた。

 すると、狼太はまたつまらなさそうな目に戻り、静かに現状を見ていた。


『お前、さ。あのままで、いいと思うか?』

「何言ってんだ?」

『だからさ。暴走している自分が神を殺してもいいと、本当に思うか?』


 静かに言っているが、その言葉がどうも本気だということに気がつき、俺は口ごもる。

 しかし、それは答えられないためのものじゃない。わかりきった答えを出すための時間稼ぎ。

 数秒の空き、それがなぜか長く感じ、俺は思っている言葉を口にする。


「勝ちは勝ちだ……とは思わねぇよ。こんな勝ち方は、認めねぇ」

『……なんでだ?』

「だってよ。こんな戦い……勝ったところで、誰も得しないだろ? それに――」


 俺は目を伏せ、笑うと、


「――何よりも、面白くない」

『…………ふっ、ふふっ。はははは。やっぱ、おもしれぇや、お前。お前になら、俺の力を与えてもいいかな? 少なくとも、あのガキに悪用されるよりはマシだ』

「そりゃどーも」


 俺は笑う狼太に向かって簡素な返事を返す。

 すると、狼太は空を見上げ、静かに言い出した。


『ホント、ここはいいところだ。空には青空が、白い雲が漂っている。俺の世界とは大違いだ』

「お前の記憶の中の世界は、荒んでたな」

『ああ、毎日が反乱万丈と危険でいっぱいだ。こんな世界、ホントにあったんだな』

「俺の、唯一自慢できる世界さ」

『はっ、こんなことを自慢されても困るな。まあ、でも。ほんとにいいよ、ここは。お前さ、俺の記憶見てるなら、知ってるだろ?』

「何をだ?」

『俺の唯一自慢できるものだよ』

「……」

『少年漫画の主人公ってのはさ。何かを守るために戦ってんだよ。ラノベの主人公も、自分が信じたものを守ってんだよ。俺は、俺たちはどうだ?』


 狼太は空を見上げたまま、小さく笑う。

 それが意図していることは、少なくともわかる俺が、どこか悲しい。


『何もない。空っぽだ。守るべきものも、守りたいものも何もない。ただ壊すだけ、ただむやみに時間を消費する毎日。くだらない日常をどうするわけでもなく、ただ空を見上げて笑うだけ。この世に生きる人っていう大概はこういうものだ。世界という理に屈服して、つまらないと愚痴を零しながら安全圏で不幸を笑う。でも、俺たちはその他以外の中でもイレギュラーだ』

「……」

『俺たちには、力がある。神をも殺すことができる異能が、俺らみたいな高校生っていう子供に備わっている。力は、全てを壊すだけだっていうのにな』


 狼太は、きっとある言葉を探している。

 自分という存在理由を探して、毎日を生きている。

 なぜ、それが分かるか。同じだからだ。俺も、それを知りたくてしょうがなかった。

 生きている理由はなんだ? くだらない日常に放り出された理由は、一体何なんだ?


『人には、明るい未来なんてものはない。決まりきったルールが、道筋が、人生が、そこにあるだけだ。だから、人は求める。自由を、栄誉を、名声を。本当は、そんなものないのにな』

「お前は、真理に至ったみたいな言い方をするけど、本当にわかってるのか?」

『どうだろうな。俺は、求めていた結論に至ったのか、わからない』


 狼太の投げやりな答えに、俺は言葉を発せずにいると、狼太が小さく言葉をこぼす。


『でも、そんな俺にも、笑顔を向けるやつがいるんだよ。人生を否定して、他者からも否定され続けられた俺に、微笑む少女がいたんだ』

「……」

『正直、めんどくさかった。守ることも、守られることも。だが、あいつは面倒だと思わせることを諦めさせるように付きまとって、気がついたら大切な人の枠に入ってやがった。お前も、同じだろ?』

「同意を求められても困るが……まあ、近いかな」


 そう言うと、狼太は笑って立ち上がる。

 そして、どこかに歩いて行ってしまう。


「お、おい!」

『なんだ?』

「もういいのか?」

『ああ、確認は済んだ。お前なら、俺の力を使うことを許可する』

「……随分と簡単だな」

『面倒事はすぐに解決するやつなんでね。何事も簡単で十分だ』

「そうかい」

『ああ、そうそう。まだ時間あるみたいだから言っておく。お前、このままだと死ぬぞ? いつかは知らん。だが、いつの日かきっと。お前は、死ぬ』

「嫌な、忠告だな」

『お前は、自分の甘さで誰かを傷つけ、一矢報いることもできずに死んでいく。容易な予想だ』

「……」


 その未来は、現にあたっている。未来、俺は死んでいる。そこで、誰かを傷つけたかどうかはわからないが、死んでいるんだ。

 しかし、狼太はそこでは話はやめなかった。


『もし、それを回避したいんなら。方法は簡単だ』

「……は?」

『鬼になれ。少なくとも、仲間を傷つけたやつくらいは、殺せるだけの鬼になれ。

 狼になれ。少なくとも、仲間を一番に守れるくらいに、仲間思いな狼になれ。

 狼のように美しく、鬼のように傲慢であれ』

「その忠告、心の奥深くにしまっとくよ」

『ああ、そうしてくれ。お前の人生が、少しでも神に抗える微力になれることを信じてるよ』


 言い残し、狼太は消えていった。

 ふんっ。微力だァ? いい加減なことを言うんじゃねぇよ。


「俺は、仲間を守るためなら、なんだってするさ。たとえ、それが神と呼ばれる存在でも、ぶっ倒してやるよ」


 俺はそう言って、自分の体の元に走った。

 さて、最終決戦だ。

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