暴れる俺に、女神は微笑み、涙する
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今にも勝利の咆哮を上げそうてしまいそうになる恭介を、二人の少女たちが恐怖しながら見ていた。
もちろん、その二人というのは神崎と真理亜である。
「先輩……なんですか?」
「間違えようもないでしょう? あれが、先輩の能力ですよ。いえ、厳密には他世界の主人公の力です」
「他世界?」
「ああ、そうでしたね。先輩は、死の神タナトスによって三種の神器を与えられた怪物なんですよ」
「さ、三種の神器ですか?」
「ええ」
言って、神崎は未来で得た知識を過去の自分、真理亜に与えていく。
一つ、恭介は完全無欠に、どうしようもなく死ねない。
二つ、この世の全ての事柄、事象、生き物でさえも意のままに操る言霊。
三つ、他世界でタナトスが見つけた神に匹敵する、または超えるほどの力。
その三つの力を持ち、恭介という存在は構成されていると、真理亜は聞かされた。
「そ、そんな……それじゃあ、まるで……」
「先輩が人間じゃないようだって、言いたいのでしょう? 私も認めてませんよ。先輩こそ、人と呼ぶに等しい。でも、本人はそれを否定し続けるんですよ」
「なぜ?」
「なぜだと思います?」
「な、長生きだから、ですか?」
「いいえ。本人に聞いたら、こう答えましたよ。『俺はもう、一度死んでるんだ。だから、人間じゃない』って。ホント、わけのわからない人ですよ」
呆れたような声を上げて、神崎は恭介を見る。
その目に、少しばかりの悲しみを感じたのは、真理亜だけであった。
と、
「なる、ほどね……これが、スサノオが言ってた、隠し事、かぁ」
「き、綺羅さん!? 起きて大丈夫なんですか!?」
「うん。痛みは引いたし。それにしても、恭ちゃん。そんなことを私に黙ってるなんて、後でお仕置きだね」
意外に元気そうな綺羅を見て、真理亜が安堵の声を上げた。
だが、綺羅は自身の力で暴走する恭介を見て、哀れな目を向ける。
立ち上がり、綺羅はゆっくりと恭介のもとに向かっていく。
「あ、危ないですよ!」
「大丈夫だよ」
「巻き込まれたら――」
「大丈夫。大丈夫だよ――――恭ちゃん」
「「え?」」
綺羅は、綺羅本人を心配する神崎と真理亜の声を無視して、恭介に近づき、尚且つ恭介に向かって大丈夫と連呼する。
すると、恭介は安心したように顔を綺羅に向け、頬ずりする。
その姿、まるで犬と飼い主だ。
しかし、その言葉もあながち間違ってはいない。
「あれ? 先輩の目って、赤かったですか?」
「あれも、能力の一部なんですよ。右は赤いですが、左を見てください」
「え? ……あ、黄色い、というより金色?」
「ええ、いわゆるオッドアイというやつですよ。両目の色が違い。それは、能力を示す唯一の証拠。先輩は、獣のように超直感を持ち、鬼のように人の身には溢れてしまう膨大な力を持っているんです」
「そ、それも、やはり未来で?」
「ええ、あの先輩は、誰にも止められません。たとえ、先輩でも」
そんなに凶暴かつ、危険な先輩に綺羅は躊躇なく近づき頭を撫でていた。
そんな行動を見て、真理亜は血の気が引いていくのを感じる。
しかし、そんな心配はなかったことを神崎の口から明かされる。
「でも、たった一人だけあの状態の先輩を止める術があるんですよ。それは、綺羅さん。あなたの言葉です」
「わかってるよ。恭ちゃんは、私のために怒ってるんだもん。それを止められるのは、私だけだよね?」
「え? ええ? ど、どういうことですか?」
「それだけ、愛が深いということですよ」
「ええ? あ、ええ!?」
ムスっと機嫌が悪くなったように神崎が言い捨てるが、その意図をこの時の真理亜が知る由もない。
つまり、恭介という男は、全くどうしようもなく、女たらしということなのだが。それを理解できるのはいつの日だったか。神崎は、古い昔を思い出すことをしたが、すぐにやめた。
「く、くくくく。ガハハハハ!! やってくれたな、人間風情が!!」
「グルルルルル……」
「ダメ、恭ちゃん。待って」
地面に突き刺さった頭を引っこ抜き、スサノオが大いに狂いながら嬉しそうに叫ぶ。
それに反応して恭介が威嚇の声を上げるが、綺羅がそれを制した。
一気に緊張が走る。
「スサノオ。私はあなたに感謝してる。本当に愛してくれていたことも知ってた。でも、私は、恭ちゃんが、この御門恭介が好きなの」
緊張でピリピリする空気の中、それとは違う何かが、胸のあたりをチクリと刺すのを真理亜は不思議そうに思った。
「そうか。だが、恋とは昔から奪うものとだということを忘れたか? 我が妃よ。再びお前を賭けた決闘を申し込む。いいだろう? 人間」
「グルルルル」
「いやはや、もうすでに人ではなくなってしまっていたのか。まあ良い。ここで殺すのが賢明だと思えば、我が武勇を貴様に見せ、女神の祝福をもらうことにしよう」
構えを取るスサノオに、完全に獣と化した恭介。
今、幼馴染を賭けた最終決戦が、始める。