そして、俺は再戦の地に足を運ぶ
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家について早々にカバンを放り投げると、俺は深く息を吸った。
それを吐いて、俺は決心する。
「さて、行くか」
玄関のドアを開け、潜るとそこには神崎と真理亜が立っていた。
「……びっくりしたな。一瞬、双子じゃないかと思ったぞ?」
「それはあながち間違いじゃないですよ。遺伝子レベルで同じですから」
「だそうですよ?」
「あ、っそ」
俺は答えを求めていたのではないと気がつき、話を短くとどめた。
そして、
「で? 何しに来たの?」
「先輩の迷惑を分割しに来ましたが? どうせ、綺羅さんの家に行くのでしょう?」
「えっと、なんで知ってんの?」
「先輩は顔に出やすいですからね」
交互に喋るので、俺の中でよくわからない混乱が巻き起こる。
「そもそも先輩は馬鹿なくらいにわかりやすいくせに、それを隠そうともしないところがまた馬鹿です」
「アホなくらいめちゃくちゃなこともしますしね」
「あの……交互に話すのやめてくれます? 俺、かなり混乱してるからね?」
「「嫌です」」
「……さいですか」
こんなところで話していてもしょうがない。ということで、俺は諦めムードで背後に二人の巫女を引き連れて約束の地に向かった。
俺の家から綺羅の家まで実を言うとそれほどかからない。
よって、目的地は数分後にはついていた。
「先輩」
「ん? なに?」
「本当に勝てるとお思いですか? 相手は腐っても英雄であり、神ですよ?」
「腐ったら英雄でも神でもねぇよ。それに、俺。負ける気ねぇから。お前を殺しかけて、尚且つ綺羅まで連れてかれそうになってんだ。流石に俺だって本気くらい出すさ」
「だからといって――」
「無駄ですよ。それは、あなたが一番知っているでしょう?」
神崎の言葉を真理亜が制す。なんか、もうよくわかんないけど、解説しなくていい? あ、しろ? マジで? ああもう、わかったよ。
「神だか、英雄だか知らないけどさ。あいつは俺の大切な人を巻き込みすぎた。まあ、当の本人はそんなこと気が付いちゃいないけどな」
俺は上を見上げ、家の屋根に仁王立ちしているスサノオを見る。
スサノオはにやりと笑うと、高らかに叫んだ。
「よくぞ来た、人間! 逃げなかったことを我が称えよう! しかし、ここが貴様の死に場所だ!!」
「異様にテンション高いよな、神様って。ホント、毎日が楽しそうで羨ましいよ」
「冗談を言っている場合ですか! 戦闘準備……え?」
「せ、先輩?」
神崎と真理亜が槍を用意する中、疑問の声が響いた。
いや、悲鳴と言ったほうがいいだろうか。声にならない悲鳴が、俺に向けて放たれていた。
その理由は、俺の顔がいつにも増して怒りに満ちていたからにほかならない。
実際に、俺は怒り狂うのを寸前で留めていたのだ。
「ひとつだけ聞くスサノオ」
「なんだ?」
「神崎を吹き飛ばしたの事故か? それとも、故意か?」
「ふむ。なにせ突然だったからな。どちらかと言われれば、後者のほうが面白そうだ」
面白そう? その程度の考えで神崎は死ぬ覚悟をしたのか?
怒りがまた増す。
いい度胸だ。塵も残さないように消し去ってやるよ。
俺はメダルを手に取り、弾く。
「俺、御門恭介が願い奪う――」
詠唱を唱える途中で、スサノオが攻撃を仕掛けてきやがった。
「甘い!!」
「ば、ヒーローの変身途中は攻撃しないのがセオリーだろうが! ――がはっ」
容赦なくぶち込まれた一撃に、何の防御もできずに真正面から受けてしまい。尚且つ、最強の人間のメダルを地面に落としてしまった。
続いて、スサノオの攻撃が降り注ぐ。
メダルを取る余裕は、ない。
ああ、クソ。ここでも、死んじまうのかよ。
死を覚悟した俺に、またしても阻むものが現れた。
「なにっ!?」
「なっ……」
まるでデジャブのように、吹き飛ばされていく少女。しかし、違うのはその少女だ。
少女は、綺羅だったのだ。
綺羅は、無言で吹き飛ばされ民家の壁に背中を強打する。
その現場を、この場にいる全ての人がスローモーションで見たことだろう。少なくとも、俺にはスローモーションで見えていた。
なんだ? 何が、起きたんだ?
綺羅が吹き飛ばされた。
綺羅から赤い液が流れている。
綺羅が、死ぬ?
「き、綺羅……綺羅!!」
判断するまでもなく、俺は綺羅に駆け寄った。
激しく動かさないように綺羅を持ち上げ、薄らと開いている目に向かって叫ぶ。
「綺羅、綺羅! 大丈夫か、綺羅!!」
「あ、あはは。ど、どうしたの? そんな怖い顔をして、か、格好いい顔が、台無し、だよ?」
「バカ、しゃべるな!」
「こ、怖い、よ? 最後、なんだから、わ、笑って、よ」
最後という言葉に、俺の心臓が大きく跳ねる。
何言ってんだよ。俺は、お前を助けに来たんだぞ? 死ぬなよ。何とかするからさ。俺が、どうにかするからさ。死なないでくれよ!
俺は思考を巡らせ、なにか延命できる措置はないか探す。
「そ、そうだ。絶対選択肢を使って……駄目だ。コイツにもしものことがあったら……で、でも!!」
「先輩落ち着いてください! この傷なら、私たちで治療できますから!」
「どうするどうするどうする!! なにか、なにかないのか!?」
「先輩!!」
視界から入ってくる情報は綺羅が死にそうということだけ。耳からの情報も、嗅覚も、何も感じない。
ただ、目の前の事態だけが俺の焦りを加速させ、判断を鈍らせる。
「あ、あは、は……」
「綺羅? おい、綺羅。綺羅、しっかりしろよ。おいってば」
肩を揺らしても綺羅は返事をしなくなった。
目を閉じ、綺羅は完全に動かなくなっている。
全身から、血の気が引けた。
同時に、
「あ、あああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!」
俺の頭も吹き飛んだ。
大切な人を助けられなかったというストレス、助けられたかもしれない人を見捨ててしまった罪悪感、神の仕出かした許されざる行為への怒りから、俺の思考は完全に吹き飛び、ただ情報を取り込むだけの屍になっていた。
「先輩! 先輩!!」
誰だ?
「しっかりしてください、先輩!!」
誰なんだ?
「先輩ぃ!!!!」
俺から、綺羅を奪った奴は……一体誰だ?
「――――ふむ。殺してしまったのか。止むを得ない。新しい嫁を見つけに行こうか」
こいつは、誰だ?
俺は、目玉だけを動かしてスサノオを視界に捉える。
スサノオは腕を組み、うんうんと頷きながらブツブツと言っている。
……こいつか? コイツが、やったのか?
「貴様かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああ!?!?!?!?!?」
甲高い声があたりに響く。
同時に、俺のポケットに入っているメダルが強く反応した。
眩い黄金の光を放ちながら、俺の感情に応えるようにメダルは輝く。
そして。
そして。
そして。
――――――――俺という存在は、完全な怪物と化した。