こうして、俺は再戦を申し込まれる
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目の前には神、スサノオがニヤついた顔で立っていた。
その姿を見ながら、俺は身構えることもせずにスサノオの行動を観察する。
「で? 結局なんのようなの?」
「ガハハ! そこを聞いてくれるか、人間よ。我が妃がこの間の戦いを認めないのだ。再戦を申し込むという訳のわからないことを言い出してな。すまぬが、完全に死んでくれぬか?」
「ああ、それは無理だな。俺、死ねないし。そもそも、痛いの嫌いだし」
「ふむ、困った。非常に困った。神という立場ゆえ、むやみに人を殺すことはやめていたのだが、やむを得ない」
そう言って、スサノオの体が消えた。
次の瞬間、俺はフェンスまで吹き飛ばされていた。
「がっ」
「ぬぅ。この薄っぺらな壁は、意外にも強度がある。おかげで不意打ちも無になってしまったか」
殴ったポーズをとって、スサノオはそういった。
ここは屋上。フェンスがなければ一階まで落ち、即死だっただろう。まあ、生き返るのだが。
俺は立ち上がり、口から血混じりの唾液を吐き出す。
ったくよ。神ってのはなんでこう荒っぽいんだ?
「ほう。我一撃をくらって、立つか。なかなかに強者だな」
「馬鹿言え。こちとら命が掛かってんだ。生存本能くらい発動するわ」
「しかし困った。一撃で死なぬということは……嬲り殺ししかないな!!」
スサノオは笑顔で、俺に飛びかかってくる。
俺は、それを寸前でよけ、何回か転がって俺がいたところを見る。
すると、コンクリートがあった場所には崩れ去った何かしかなく、下の階が見えていた。
おいおい。昼休みとは言え教室に人がいないとは限らないだろうが。
「おおう!! 避けるか! 避けてしまうのか!! 楽しいな! 貴様、本当に楽しいな!!」
「こんの、戦闘狂が」
笑いながら、もしくは楽しそうに殺しを叫ぶスサノオに俺の愚痴が飛ぶ。
しかしながら、このまま屋上で戦うのは学校が崩壊する危険性がある。どうにか場所を変えないと。
だが、相手は強者。こちらは弱者。弱者には選択権は実質無いのだ。
それを理解した上で、俺は屋上を駆け回る。
「ほらほら!! どうした、逃げるだけなのか!!」
「お前の一撃食らったら死んじまうよ!」
「ガハハハハ!!」
本当に楽しそうに凶悪な腕を振るうスサノオに、俺は焦りを感じていた。
今の俺に、きっとメダルは応えてくれない。意思を固めていない俺では、力が使えない。
でも、このまま逃げててもジリ貧だ。何か、手はないのか?
焦る目に、勝機の輝きは見えない。それが焦りを加速させるという、悪循環が起こる。
「おおおおおお!!」
スサノオが放った一撃を辛うじて避けると、床に落ちていた瓦礫に足をつまづき、バランスを崩す。
スサノオがそんな好機を見逃す訳もなく。俺はその隙を狙われ、凶悪な一撃が俺のもとに飛んでくる。
チクショウ。一回は死ぬのか。
そう思った俺に、一向に攻撃は飛んでこない。当たり前だ。それを阻むものがあったのだから。
「きゃっ」
「ぬ?」
俺とスサノオを挟むように、神崎が割って入りスサノオの攻撃が直撃した。
俺より軽い神崎はもちろん吹き飛ばされ、フェンスに激突する。しかし、事は起こった。
何度もぶつかったフェンスは脆くなる。それは最大まで行けば、壊れる。
それが、今だった。
「え……?」
そんな神崎の言葉が屋上に響く。
フェンスが破れ、威力は多少収まったものの、完全ではないらしく神崎の体は屋上の範囲を超えた。
そこから自由落下が始まり、屋上から消えそうになったところを、滑り込んだ俺が神崎の右手を掴んだ。
「ぐっぁ……」
「先輩!?」
俺の右手に神崎の全体重が伸し掛ったような圧迫感が俺の腕を引きちぎろうとしてくる。
しかし、俺はその痛みを必死に我慢し、神崎の手を離さずに掴んでいた。
「このまま殺してしまっても構わぬが。それは少しばかり格好良くないな。……そうだ。場所を変えよう。貴様の傷が癒えしだい我が妃の元に来るがいい」
「それ、ここで言うべきことか!?」
俺の叫びも虚しく、スサノオは勝手に逃げていった。
チクショウ! なんで神様は自分勝手なんだよ!!
愚痴るが、それよりも神崎をどうやって持ち上げようかを考えるのでいっぱいいっぱいで余計なことを考えることを拒否する。
どうする!? このままだと二人共落ちちまう! かと言って、持ち上げられる重さじゃなねぇ!!
「先輩……離してください」
「馬鹿かお前は!! きっと痛いぞ!?」
「それでも、いいんですよ。それに、先輩は綺羅さんを助けに――」
「ざけんな、このバカ巫女が!!!!」
俺はただでさえ頭の線が切れそうなほど力を込めているのに、その上この叫びだ。頭の線が切れるどころの話ではない。
しかし、それでも神崎の手だけは離さない。
「でも、このままだと二人共落ちてしまいますよ!!」
「うっせんだよ!! 黙って動くな! 今、お前を救う方法を考えてんだよ!!」
「そんな暇はないはずです!」
「あーもう! ウダウダうるせぇ女だな! いいから俺の言うとおりにしやがれ!!」
俺は叫びと一緒に精一杯の力を込めるが、上がるどころか徐々に下がっていっている気がする。
やばいやばいやばい!! 右手の感覚がなくなってきやがった! 早く持ち上げないと!!
焦りが手に汗を握らせ、痛みが判断を鈍らせる。
「私は……未来の人物で、今のあなたには関係ないんですよ? そんな私を助けて、何になるんですか?」
俺が一生懸命考えているのに、当の神崎はどうやら諦めているようだ。
それに、俺は怒りを感じた。
「テメェが死のうが生きようが何にもなんねぇよ!! でもな、せめて生きろ! 死んで消えるか、生きて残るか。そんなのはお前が決めていい! だけどな! 俺の目が黒いうちは、誰も死なせねぇ! それが、俺に関係ない奴でもだ!!」
「こんなことをして、あなたは不幸になるだけですよ?」
「人を助けて不幸になるなら、どんと来いだ! 人を不幸にして不幸になるよりはマシだ!」
「でも――」
「クソッタレ、手が痺れてきやがった」
徐々に下がっていく神崎の体。それを必死に掴もうとするが、流石に限界が来てしまった。
すると、神崎は全身の力を抜いて、落ちる体制に入った。
クソッタレ! 俺にはどうすることもできないのか!?