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 昼。昼食を摂る時間帯で、俺は屋上に来て、購買で買った卵サンドを一口食べる。

 なぜ、こんなところで食べているかというと、なんてことはない。俺に友達がいないからだ。

 それもこれも、全て綺羅、神崎、クロエの三人のせいなのだが、まあこれは置いておこう。

 じゃあ、フレイは友達じゃないのかって? ふざけるなよ? さすがの俺でも怒りますよ? 俺が、イケメンとニコニコしながらご飯が食べられると本当にお思いですか?

 ということで、フレイはいけ好かない(主にイケメンとか、イケメンとか、あ、あとイケメンとか)ので、俺は独り寂しく飯を食っている。

 いつもなら、綺羅が気を利かせて一緒に食べるのだが、生憎あいつは学校に来ていない。というよりも、今も家で面倒な神様の世話をしている。いや、されている? まあ、どうでもいい。


「それにしても、暇だなぁ」

「じゃあ、私と話をしませんか、先輩?」

「……神崎」


 ここで注意なのだが、俺は現代の神崎のことを真理亜と下の名前で呼び、未来の神崎を神崎と呼ぶようにしているのだが、見た目が同じなので実にわかりにくい。

 神崎は、俺の横まで歩いてきて、フェンス越しに校庭を眺める。


「先輩」

「なんだ?」

「本当は、どうするつもりなんですか?」

「……何を?」

「綺羅さんのことですよ」


 もしかしたら神崎は、俺のことを俺以上にわかっているのではないかと時々思うのだが、気のせいか?

 俺はその問に、ため息をつく。


「どうするも何も、真理亜が行くなって言うからなぁ。それに、俺としても面倒事は避けたいし」

「じゃあ――」

「でも、きっと介入するんだろうなぁ。ほら、俺って気がついたら騒動の中心じゃん? 巻き込まれがちな主人公じゃん? いろいろ忙しいだよなぁ」

「……茶化さないでください」


 俺のふざけた言い方に、初めて神崎が本当の顔を見せた気がする。

 そんな神崎を見て、俺は笑う。


「なんで笑うんですか」

「だってよ。変わんねぇんだもん、お前。ホント、今も未来も変わんねぇや」

「……? そんなこと、どうでもいいじゃないですか」

「じゃあよ。お前はもうわかってんだろ? 今も未来も変わんない。それはお前だけじゃないはずだ。俺だって、変わるわけがない」

「……」


 俺のその言葉に、神崎は初めて沈黙をする。

 暖かい風が頬を撫で、髪の毛を荒々しく乱れさせる。その中で、俺は静かにこう言った。


「俺は、悩みを持った奴が許せない。困っている奴を見過ごせない。例外はない。特例もない。ただ、俺は俺の信念のために行動する。たとえ、何度死のうとも、俺は構わない。必ず、俺は助けてみせる」


 そう言って、少しの静けさが屋上の空気に漂っていく。

 少しすると、神崎が口を開いた。


「前に聞きましたよね? 『死ぬほどの痛みを感じてまで、助ける必要があるんですか?』と。あの時ははぐらかされましたけど、今日は逃がしません。本当のことを言ってください」


 そういえば、前にクロエを助けに行くときに場所を神崎に場所を教えてもらったな。もしかして、そのときの神崎は、未来の神崎、つまり今の目の前にいる神崎だったのか?

 繋がった一本の疑問が、俺の頭の中で駆け巡る。

 逃げることは許されない。はぐらかすことも不可能。この絶対的不利の中、俺は笑っていた。


「何が、おかしいんですか?」

「いや、いやすまん。何でもないんだ。そうか。そうだよな。わかんないよな。そんな理由。実はさ、俺も理解していないんだよな。ホント、俺はなんで人を助けるんだ?」

「はぐらかそうとしても――」

「でも、きっと。俺は人間に憧れているんだよ」

「え?」


 神崎はわけがわからないと言った顔で見てくる。

 当たり前だろう。目の前にいる俺は、どこから見ても人間だ。しかし、俺はそれを認めていない。俺は、俺自身を人だとは認識していないんだ。


「俺はさ。知らずと知れた、不老不死だ。年も取らないし、死なない。ただの異分子だ。迷っても、迷える時間がある。困っても、自力で解決できる時間があるんだよ。それこそ無限にな」

「で、でも、それと何が関係しているって言うんですか!」

「人間は考えられないんだよ。迷いを、困り事も。迷えないから、仲間に頼って解決する。もしくは、解決するために一生を費やす。俺には、それができない。だから、俺は人間が好きだし、人間を助けたいと思う。俺は、怪物だからな」


 静かに、もしくは恥ずかしそうに言う俺のことを、神崎は驚きの顔で見てくる。

 仕方ないと言ってしまえばそこまでだが、流石にここまで驚かれると気が引ける。


「じ、じゃあ。私と綺羅さんを絶対服従で支配しないのは……」

「ああ、俺は怪物を作り出したくはないんだよ。そもそも、絶対服従はまだどういう力なのか分かっていないんだ。そんな状態で使ったら、何が起こるかわからない。だから、使えない」

「だ、だけど、先輩。それじゃあ――」

「俺は一生一人ぼっちってか? そうでもないぞ? クロエがいるし」


 これは本当のことだ。クロエは俺の絶対服従によって死ぬことを拒否されている。

 それは、俺が死ぬまでの契約。死ねない俺と契約をするということは間接的に永遠を得たということになる。

 つまり、クロエは一生俺と一緒だ。

 それでも構わないと思う俺が確かに存在するのだ。


「そ、そんな理由があったなんて……未来のあなたでも答えてくれませんでしたよ」

「そりゃあ、言わねぇだろ。面倒だし」

「……そんな理由で言わなかったんですか」

「当たり前だ」


 俺はふんぞり返って言ってやった。

 面倒なことは言わない、やらない。それが俺の鉄則だ。

 またしても沈黙が屋上を漂う。

 しかし、今回の沈黙は終わりを告げる沈黙だった。


「そうですか。いえ、そうですよね。先輩は、馬鹿で、アホで、自信家で、エッチで、どうしようもない人です」

「ねえ? 馬鹿にしてるよね? 怒るよ? お兄さん怒っちゃうよ?」

「でも、とっても優しい人なんですよね。馬鹿だからこそ、誰も傷つけられず。自信家だからこそ、何にも恐れずに危険な場所に飛び込んで、誰かを心配させる。それでも、必ず全員を救い出す。そんな、優しい馬鹿です」

「褒められてるのか、馬鹿にされてるのか。非常に判断に困る言葉だな」

「そんな先輩だから、私は……いなくなっても、忘れられないんですね」

「……」


 フェンスを固く握り、神崎は校庭をどことなく眺めていた。

 すると、


「邪魔するぞ、人間」

「……空気読んでくれない? ここ、出番じゃないよ?」

「何を言う。我の出番は我が決める」

「さいですか」


 突如現れた神、スサノオが不敵な笑みを浮かべて高校の屋上に参上していた。

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